「クラウドファンディング」という言葉が認知されるようになってきた昨今では、1,000万円を超える大型調達プロジェクトも珍しくありません。しかしそういったケースで、うっかり会計処理を誤ったり、確定申告を忘れたりしてしまうと「脱税」とみなされるリスクを背負うことになります。その一方で、クラウドファンディングで得た資金の適切な会計処理については、法整備が追い付いていない側面もあります。同じクラウドファンディングなのに「購入型」と「寄付型」では実務上の会計処理が異なる、というケースもあるのです。
第2回は、パトロンがボランティアや社会貢献を目的とした、寄付的意味合いの強いプロジェクトに資金を出す「寄付型」クラウドファンディングの税務、会計面について会計士にご説明いただきます。
(第1回「プロジェクト成立!会計処理や確定申告はどうする?~購入型編」 会計士に聞くクラウドファンディング税務はこちら)
【会計士紹介】
正木宏明(まさき・ひろあき)公認会計士・税理士。1984年生まれ。アフラックにて保険金査定業務に従事したのち、あずさ監査法人にて主に金融商品取引法、会社法監査に従事。2018年、正木公認会計士税理士事務所を開業。
Q:例えば「カンボジアに小学校を作る」という目的で始めた、キャンプファイヤーのプロジェクトが成功して、500万円集まったとします。このケースでは、リターンは「子供たち直筆のお礼の手紙」です。資金を出したパトロンと、資金を集めたプロジェクトオーナー、それぞれどんな会計処理が必要でしょうか? 確定申告も必要ですか?
A:はい、必要です。
Q:そもそも、税務・会計上は、クラウドファンディングの「購入型」と「寄付型」をどうやって区別するのでしょうか?
A:パトロンが出した金額の対価として、リターンが明らかに低額の場合は「寄付型」とみなされる可能性が高いです。「購入型」のクラウドファンディングは通常の売買取引と同様に処理しますので、リターンが今回のように「手書きの手紙」といった場合は「寄付型」と解釈してまず間違いはないでしょう。
さて、寄付型のクラウドファンディングですが、以下のような税務・会計上の処理が必要です。
パトロン(支援者)側
まず、パトロン側について解説します。
寄付をするパトロン側が個人だった場合、必要経費にはなりませんが、寄付先が国や地方公共団体等である場合、寄付金控除の対象になる可能性があります。しかし、法人が寄付をする場合は、無制限には認められていません。「寄付金課税」が発生する場合があります。
Q:寄付金に課税されるんですか!? 「寄付」っていいことなのになぜ……。
A:「寄付金課税」は耳慣れない用語かもしれないので、ご説明しておきますね。特に法人税の税務調査ではこの「寄付金課税」が問題視されることがあるんです。なぜかというと、税務上の寄付は「見返りのない費用」を指す、とされます。
通常、事業上の支出は「経費」に算入できますよね? 経費に算入できれば、利益が減るので、法人税の納付額を減らすことができますので、法人を営んでいる方はなるべく「経費」の算入したいはず。
ところが、この「寄付」については無制限の経費算入が認められていません。というのも、通常、事業上に必要なもの、例えば10万円のパソコンを購入する場合、当然入手するパソコンには10万円分の価値(「見返り」)を求めますよね。3万円のミニPCより処理速度が低かったり、壊れていたりしたら、困る訳です。
ところが、10万円を「寄付」する場合、その見返りは経済上等価ではありません。例えば今回だとカンボジアの子供たちの笑顔だったりする訳で、精神的な充足感はありますが、10万円のパソコンを買うのと同様に、事業に10万円という対価をもたらす、とは税法上は解釈されないのです。そのため、法人税法では、寄付金については、無制限の経費算入を禁じています。あまりじゃぶじゃぶ経費にされると、法人税の払い渋りにつながってしまいますし、「事業に必要な支出=経費」という考え方があくまで前提です。
Q:法人の税務上の「寄付」にはどんな種類があるのでしょうか。
A:3種類あります。
(1)国等に対する寄付金及び指定寄附金
国や地方公共団体に対する寄附金、公益社団法人、公益財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人又は団体に対する寄附金で財務大臣が指定した寄附金
(2)特定公益増進法人に対する寄附金
特定公益増進法人に対してその特定公益増進法人の主たる目的である業務に関連する寄附金、認定NPO法人等に対してその認定NPO法人等が行う特定非営利活動に係る事業に関連する寄附金など
(3)一般の寄附金
政治団体や政党に対する寄附金、宗教法人や神社などに対する寄附金、金銭や他の資産の贈与
「寄付型」クラウドファンディングへの支出はそれぞれのケースが考えられますので、どの寄附金に該当するか確認しておく必要があります。
Q:納税額はどのように計算しますか?
A:実は、上記のどの寄付金に該当するかによって、計算式も変わってきます。以下のとおりです。
(1)指定寄附金等:全額控除
(2)特定公益増進法人に対する寄附金(※3)
(資本金等基準額(※1)+所得基準額(※2))×1/2
(3)一般の寄附金 (資本金等基準額(※4)+所得基準額(※5))×1/4
(※1)資本金等の額×(当期の月数/12)×(3.75/1,000)
(※2)所得の金額×(6.25/100)
(※3)特定公益増進法人に対する実際の寄付金の支払額が特別損金算入限度額を超えることになった場合は、さらに一般の寄附金の損金算入限度額の枠を利用することができます。
(※4)資本金等の額×(当期の月数/12)×(2.5/1,000)
(※5)所得の金額×(2.5/100)
Q:かなりややこしいのですね…。ちなみに「ふるさと納税」のように寄付控除などはできないのでしょうか?
A:自治体が行うクラウドファンディングの場合には「ふるさと納税」として寄附控除できる場合があります。
プロジェクトオーナー側
A:次に、プロジェクトオーナー側については、「寄付型」の場合、個人から個人の場合「贈与税」が発生する場合があります。
Q:「贈与税」とは何でしょうか?
A:個人が1年間に110万円を超える贈与を受けた場合に、納税が必要になります。税率は金額によって異なりますが、10%から最大55%と、調達金額によってはかなり高額です。クラウドファンディング以外の贈与との合計額で計算されますので、気を付けて下さい。
Q:少なくとも、個人で一度に110万円以上を「寄付型」クラウドファンディング で集めてしまうと、贈与税がかかってしまうのですね……。法人として集めた場合はいかがでしょうか?
A:受贈益として課税されます。「寄付型」で調達した金額を「受贈益」として利益に計上します。その分利益が増えるので、法人税を多く収める必要が出てきますが、公益法人等で、公益事業などの非収益事業に対する寄付であれば法人税の対象にはなりません。
Q:「寄付型」のクラウドファンディングでも、ケースによってきっちり納税義務が発生することが分かりました……。
A:そうなんです。顧問税理士がついているような法人であれば、納税漏れが発生する可能性は少ないでしょう。しかし「寄付型」の場合は、ビジネス色が薄れるため、個人ベースやボランティア団体などがプロジェクトオーナーになるケースも多いはずです。善意のプロジェクトで、せっかく成功したのに、まさかの脱税!?となっては本末転倒です。「納税義務があるかもしれない」という視点をまず持つ必要がありますね。