基礎知識

パトロンになったプロジェクト、リターンが届かない時はどうなる? – 弁護士に聞くクラウドファンディング法律問題

「クラウドファンディング」という言葉自体は「聞いたことがある!」と思う人も増えてきたのではないでしょうか。しかし、いざ自分がパトロンになったり、プロジェクトオーナーになるとすると、また一段ハードルが上がります。クラウドファンディング自体は日本ではここ10年以内に登場した新しいサービスのため、法律面の整備が進んでいる最中ともいえ、何かトラブルがあった場合は、個々のケースで専門家による判断が必要になります。

本記事では、クラウドファンディングでよく起こりがちなトラブルと解決方法について、弁護士が解説していきます。今回は「購入型クラウドファンディングで、リターンが届かないケース」について取り上げます。これからクラウドファンディングを始めようと思っている方は、ぜひ参考にしてみて下さい。

木村弁護士_02
<弁護士紹介>
木村康紀(きむら・やすのり)弁護士。2006年早稲田大学法学部卒。同年に旧司法試験に合格、牛島総合法律事務所入所。内閣府大臣官房会計課会計専門官を経てメリットパートナーズ法律事務所パートナー弁護士に就任。基本情報技術者資格を保持。多数の顧問先を抱える傍らシードラウンドのベンチャー支援も行っている。

Q:「購入型クラウドファンディング」のパトロンになる時に、「リターンが届かなかったらどうしよう」という声を聞くことがあります。そういったケースでは、どのように対処することが必要でしょうか。

A:まず、クラウドファンディングの基本的な仕組みから解説します。クラウドファンディングサービスや、そのプロジェクトの種類によって、パトロンの応援資金がいつ決済されるかのタイミングが異なります。

たとえば、「CAMPFIRE」の場合は、
(1)All-In方式
(2)All or Nothing方式
の2パターンがあります。

(1)All-In方式型のプロジェクトの場合は、プロジェクトオーナーの目標金額に到達しない場合でも、集まった金額分がオーナーに入金されます。例えば、500万円が目標のプロジェクトで、300万円しか集まらなかったとしても、集まった300万円分がプロジェクトオーナーに渡ります(各種手数料などを除く)。そのためパトロンが支援した金額はただちに決済されます。

(2)All or Nothing方式のプロジェクトの場合は、目標額全額が集まらなかった場合、プロジェクトオーナーには1円も入金されません。500万円の目標額のところ、300万円しか集まらなかった場合には、全額が返金されます。そのため、このAll or Nothing方式のパトロンになる場合で、プロジェクトが成立しなかった場合はそもそも「リターンが届かない」という心配は不要です。

Q:なるほど。他のケースではいかがでしょうか。

A:All-In方式の場合と、All or Nothing方式で目標額が集まったけれど「リターンが届かない」というケースですね。

「届かない」と判断する基準については、各プロジェクトのページに、リターンの実行期限が記載されています。これから新規開発するガジェットなどの場合は、実行期限が1~2年先に設定されているケースもあります。その期限を超過しても約束されていたリターンが届かない、という場合に初めて問題になります。

まず(1)「リターンが届かない」原因は何なのか(2)プロジェクトオーナーがその原因についてきちんと説明責任を果たしているか、という2点がポイントです。

(1)「リターンが届かない」原因について、深刻なのはプロジェクトオーナー側が、そもそもリターンを用意できる目途が立たない、というケースです。

新商品や新サービスの資金をクラウドファンディングで募ったけれど、資金不足で頓挫してしまい、再開のめどが立たない。デモ機の生産やテストリリースまではこぎつけたけれども、実際顧客に届けられるクオリティのものができなかった、要は「もう約束のリターンを提供するのは無理だ」と分かっている場合ですね。

こうした場合は、プロジェクトオーナーはすみやかに状況を説明の上、クラウドファンディングサービス運営者側にも相談して、資金をパトロンに返却する必要が出てきます。

弁護士イメージ図
Q:とはいえパトロン側には、まだ世の中にない製品やサービスを応援するワクワク感も、クラウドファンディングの楽しみの一つですよね。リターンが予定していた期日に届かない場合「資金を返せ!」と交渉するのか、もう少し待ってみるのか、パトロン側はどうやって判断したらよいでしょうか。

A:確かにそのとおりで、ベンチャー企業の経営などと同様に、クラウドファンディングのプロジェクトによってはある程度の「不確実性」はつきものです。そこで、(2)プロジェクトオーナーがその原因についてきちんと説明責任を果たしているか という点を考慮してみて下さい。

プロジェクトが終了した後も、プロジェクトのオーナーは資金を集めたクラウドファンディングサービスを通じて、パトロンに連絡を取ることができるはずです。

プロジェクトの進捗状況について、プロジェクトオーナーパトロンからこまめに連絡があるか。遅延する場合も、事前にその連絡は来ていたか。いつなら届けられるか、見込みのスケジュールが提示されているか、なども参考にしてください。

プロジェクト終了後はナシのつぶて、リターンの遅延連絡もなく、こちらから連絡をしても返信もない、という場合は要注意です。

Q:もし、何の連絡も取れなくなったらどうしたらよいのでしょうか? 個人でパトロンになっているケースであれば、応援額も数千円~1万円程度のことがほとんとでしょうし、弁護士を雇うのは現実的ではないと思います……。

A:まずサービス運営者側に相談してみましょう。あまりに悪質なプロジェクトであれば、他のパトロンからも同様にクレームが来ている可能性があります。

個人で対応する場合は、少額訴訟制度というものがあります。小額訴訟の場合、原告側は個人を想定しており、60万円以下の金銭支払いを求める場合に限り利用できます。1回で審理が終わりますし、1カ月もあれば結論が出ます。双方ともに弁護士を立てる必要もありません。アルバイトやパートさんの賃金未払いや、個人の貸金の返還訴訟などに幅広く利用されていますので、最後の手段として検討してみてもよいでしょう。

また、クラウドファンディングサービスによっては、リターンが届かなかった場合の保険が自動付帯になっています。「CAMPFIRE」ではプロジェクト実行者の横領・拐帯や会社の倒産によるリターン(返礼品)の不履行といった不測の事態が起こった場合、支援金額の80%を上限に、支援金の払い戻しが受けられます。ただし、プロジェクトの支援募集終了日から1年以内に履行予定のリターン(返礼品)の支援者が対象になるなど、対象となるプロジェクトやリターンには制限があります。高額な支援をする場合には、こうした保険が備わっているサービスや、リターンの形式を選んだほうが安心かもしれません。

他によくみられるのは、意外と支援をしたパトロン側が、そのこと自体を忘れてしまうケースもあります。登録していたメールアドレスや住所に不備がある場合は、プロジェクトオーナーからの連絡も届かず、リターンも届かない、といったケースも起こりえます。

リターンは期日通りに履行されているのに、パトロン側の不備で届かなかった場合、あまりに時間が経ってしまうと、請求権自体が消滅してしまいます。

クラウドファンディングは通常の物品やサービス購入とは異なり、ある特定のプロジェクトを「応援する」という側面もあるはずです。資金を集めたら集めっぱなし、出したら出しっぱなし、とならないように、プロジェクト終了後もきちんとコミュニケーションを取ることが、トラブルを避ける秘訣ではないでしょうか。

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