コラム

敵は「おじさん」ではなく「変われない自分自身」だ/おじさん2.0

不倫に不祥事、若者のアイデアを潰す凝り固まった価値観……最近の「おじさん」にはどうもネガティブなイメージがつきまとう。

若者の中には、こんなことを思ってる人もいるかもしれない。自分もいずれあんなおじさんになって、若者から疎まれるのだろうか、と。

一方で、日々取材していると、ものすごく魅力的なおじさんと出会うこともある。独自の世界観を持っていて、自分の利益に執着しない。こうした「いいおじさん」と「悪いおじさん」の違いは、どこから来ているのだろうか。というか、「おじさん」ってなんなんだ?

この連載では、さまざまな分野の専門家の話から、おじさんとは何かを立体的に考える。その先に、みんなが「自分もああなりたい」と思えるような、新しいおじさん像を見出すことができれば。

題して「おじさん2.0」

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石川善樹(いしかわ・よしき)さんは、いま各メディアで引っ張りだこの、新進気鋭の予防医学者だ。

研究者でありながら、ビジネスジャンルの著書も多数。2014年刊行の著書『友だちの数で寿命はきまる』では、人のつながりと健康の関係を最新の研究結果をもとに分かりやすく解説し、会社組織にどっぷり浸かったおじさんが定年後に地域社会に溶け込めず、なんとも不幸な老後を送りかねない問題にも触れている。

石川さんならおそらく、最近のおじさんの生きづらさや若者との軋轢について、目からウロコの回答をくれるに違いない。そんな期待を持って臨んだ28歳のBAMP副編集長・友光だんごは、連載1回目にして、いきなり出鼻をくじかれることになった。

「皆さんが問題と言っているのは、おじさんの問題でもなんでもないんですよ」

僕らの問いを一刀両断する石川さん。おじさんを取り巻く問題は、実はおじさんの問題ではない? どういうことだろうか。

生産から消費に重心が移り、おじさんが力を失った

石川

きょうはおじさんに関する話をするんでしたっけ?

だんご

はい。不倫問題だったり不祥事だったり、最近のおじさんってネガティブなことばっかり言われている気がするんです。「世界で一番孤独なのは日本のおじさんである」なんて話もありますし。なんだかすごく生きづらそうだなあって思うんですよね。

石川

先日『WIRED』前編集長の若林恵さんと話した時も、似たようなことをおっしゃっていましたね。「おじさんがダイバーシティの中に入ってない」って。

だんご

興味深いです。

石川

昔は「生産する人」が尊敬されていた時代があり、その中心を担っていたのがおじさんでした。けれどもいつの間にか「消費する人」が偉いとされる世の中に時代が移っていき、おじさんが力を失っていった。そんな話を若林さんがしていて、「なるほどな」と思わされたんですよね。

石川

株式市場なんかも含めて、いまはどこか「騒がせたもの勝ち」みたいなところがあるじゃないですか。これは「モノの時代」から「コンテンツの時代」に変化したとも言えますね。コンテンツを作り出せるのは時間のある若い人たちであり、女性です。おじさんたちは仕事に忙しいから、インスタ(Instagram)なんてやってる暇がない(笑)。

「カッコいい」とされるおじさん像も、いまはイーロン・マスクだったり、ちょっと前だとスティーブ・ジョブズだったり。基本的には世を騒がす人たちであって、以前のように黙々とモノを作ってるようなおじさんは、あまり尊敬されない時代になっていますよね。

だんご

昔ながらのおじさんは旗色が悪いですね。

石川

能力の新陳代謝が激しいのも、この時代の特徴です。いまもてはやされる能力は、コンピュータ・サイエンス系だったり、若い人に有利なものが多いんですよ。そうした能力は新陳代謝が激しいため、おじさんが若い人と同じ土俵で勝負しづらい時代になっている。

そうなると、あとはキャラクターで勝負するしかないんです。というのも、たとえば会社ごとにどう振る舞うのがいいかは違いますよね。だからキャラクターを柔軟に変えて、その場その場に対応していく必要があるんです。キャラクターで勝負できる人は、能力が大したことなくてもやっていけます。逆に能力が高ければ、キャラクターは関係ないんです。どんなにめんどくさい性格だって、職場で必要とされる能力が高ければ、その人には居場所がありますから。

だんご

一つの会社組織に長く居続けると、キャラクターを柔軟に変えることが難しくなりそうですね。

石川

それはあると思います。だから、いざおじさんが転職するとなった時に、面接で「何ができますか?」と聞かれて、「部長ができます」って答えるみたいな笑い話が起こるんですよ。ただし、それはおじさんであっても若者であっても同じだと思いますけど。

おじさんさえ味方にできないあなたに何ができるのか

石川

ところで、「おじさん2.0」というからには、おじさんをどうにかして変えたいと思ってるんですよね? 一体おじさんをどうしたいんですか?

だんご

いろいろとネガティブに言われがちなおじさんの孤独の問題を……。

石川

いや、おじさんは孤独でもなんでもないと思いますよ。

だんご

え? そうなんですか? でも石川さんの著書でもその問題を……

石川

いろいろ問題が出てくるのは退職したあとの話であって。職場には友だちだってたくさんいるだろうし、権力だってあるから、別に孤独でもなんでもないと思いますよ。新橋で呑んで、毎晩楽しそうにしてるじゃないですか。

だんご

一方で、会社組織で働いている同世代の友だちからはよく「40〜50代の昭和的価値観に固執したおじさんが新しい価値観を理解できず、若手の企画を実現する上でボトルネックになっている」とも聞くんですけど。この問題は?

石川

「上司に分かってもらえない」なんて、いまに始まった話じゃないですよ。そもそも会社員ってそういうものですから。それが嫌だったら、独立して自分でやればいいって話であって。会社組織というのはそもそもが既存のことを回すためにできているものだから、新しいことは基本的にやりにくい構造なんですよ。会社にいると、上司を説得したり、組織の中で整合性を取ることに時間を取られて、だんだん「なんのためにこんなことしてるんだっけ?」みたいな気持ちにさせられるんですけど、でもそれはあなたが会社員だからであって、おじさんの問題ではない。さっきも言ったように、それが嫌なら会社を辞めればいいだけの話。それをしないでおじさんのせいにしているのだとしたら、それはおじさんの問題ではなく、むしろ若者自身の問題でしょう。

だんご

うまくいかないことのスケープゴートのようにして、勝手におじさんを敵視している?

石川

それが若林さんのいう「ダイバーシティの中におじさんが入ってない」ってことの意味だと思いますけど。「本当に戦うべきはそこなんでしたっけ?」と僕は思うわけです。むしろ、おじさんと仲良くやってる若者の方がうまくいってるんじゃないですか?最近もライザップの瀬戸健社長がカルビーの松本さん(現・ライザップ代表取締役COOの松本晃氏。会長兼CEOとしてカルビーの業績を一気に伸ばした。御年70歳)を招聘しましたけど、会見で松本さんは瀬戸さんのことを「ジジ殺し」だって言ってましたよね。逆に言えば、おじさんすら味方にできないあなたは、一体何ができるんですか?ってことなんです。

石川

気の合う人と好きなこと、得意なことだけやってたら、本当の意味での自信は付きにくいですよ。若いうちは特に、好きなことに逃げやすいから。でも、好きな場所と思って逃げた先にも結局自分よりすごい人がいるから、そういう人はどこへ行ってもブーブー文句を言うことになるんです。そうなってくると、人生は本格的につらくなってきます。なぜかといえば、若い人ってのは能力もキャラクターも磨かれてないことが多いから。能力やキャラクターを磨くには、やはり最初は苦手なことや嫌いな人を克服していくことだと僕は思います。それができて初めて次の段階に行けるというか。最初から好きなところに逃げてしまうと、どんどん逃げ続けることになって、最終的には行くところがなくなってしまうんじゃないでしょうか。

だんご

変われてないのは、むしろ若者の方である、と。

石川

それに、そういう巨大な敵は、一旦味方にすると、すごい力になってくれるんですよ。

だんご

少年漫画でもそうですもんね。

石川

そう。『ドラゴンボール』のピッコロであり、ベジータですよ。それが分かっているかどうか。分かってない人は気の合う人ばかりで集まって、「俺らは分かってる。あいつらは分かってない」とか言って、どんどんタコツボ化していくんです。

よりよく生きるには、have型ではなくbe型であれ

だんご

なんだか、おじさんの話をしようとすればするほど、どんどん若者の話になりますね。

石川

人はすぐに他人を変えたがるんですけど、本当は他人を変えるより、自分を変えた方が早いんですよ。他人は簡単には変わらないから。アリババ(中国のEコマース企業)のジャック・マーもこの前言ってました。「昔は世界を変えようとしていた。でも最近は、世界を変えるより自分たちが変わった方が早いと気付いた」って。

自分が変われば、世界は変わって見えるんです。ただ、自分が世の中をどう見ているのかとか、物事をどう考えているかっていうのは、自分では気付きにくいんですね。だからすぐに人のせいにしてしまう。『嫌われる勇気』で有名なアドラー心理学ってあるじゃないですか。あれを読んで僕が一番「なるほどな」と思ったのが、みんな「あいつが悪い、私はかわいそう」ってループから逃れられないという話で。そこには「で、自分はどう変わるの?」ってのがないんですね。『嫌われる勇気』を読み終えた人にありがちなのが、「これはぜひあいつに読んでほしい本だ」っていうパターン。それじゃあ、あんた一体何を読んだんだよって話。あいつは変わらないんだから、まず自分が変わらなきゃ。

だんご

うーむ。おじさんには何も問題がないんだとすると、僕らは一体何と戦っていたのかという気にさせられます。

石川

まあ、大体こうやって引っ掻き回すのが僕の役目なので(笑)。そうやってモヤモヤしてくれたんならいいんじゃないですか。「問いを投げかけるのがBAMPというメディア」なんですよね?

石川

でもね、さっきお話しした能力かキャラクターかって話、究極的には僕はしょうもないと思ってるんですよ。

だんご

しょうもない?

石川

みんな「いまの世の中、どんな能力がいいんだ?」「この状況ではどういうキャラクターがいいんだろう?」みたいに考えて、能力にしろキャラクターにしろ、何かを持つことで安心しようとするんです。でも、そういう人生って究極的には疲れると思うんですよ。自分自身ではないというか。

昔だったら「Excel使えます」とか。いまだったら「Python使えます」とか。あるいは「いくら資産を持っていれば安心できるのか」とか。そういうのはみんな、haveの人生です。それよりもbeの人生の方がいいと思うんですよ。beの人生というのは、あるがままの自分ってことです。

石川

beの人は基本的に、持ってるものを全部捨てるんですよ。だから何も持っていない。何にもないんだけど、それでも魅力的、みたいな。どうしてそれで魅力的なのかというと、自然体でいながら、誰かと会えばその都度、いろいろなものを生み出すからだと思うんです。

だんご

持ってるもので自分を飾り付けるのではなく。

石川

そうそう。たとえばね、この間も初めて会った人に、「石川さん、共通の知り合いが何人もいます」みたいな話をされたんですよ。それで近さをアピールしてくるんです。

でもちょっと待ってくれ、と。申し訳ないけれども、あなたの言うその「共通の知人」たちから、一度たりともあなたの話を聞いたことがないぞ、と。そんな人がいくら知り合いの数をアピールしたとしても、それってむしろ「自分は大した魅力がない人間なんだ」ってのを露呈しちゃってるんですよね。それもやっぱりhaveの話なんだと思うんです。僕はその人の振る舞いを見て、自分は絶対そういうのはやめようと思いました。

だんご

分かります。たまに会うカッコいいと思えるおじさんって、自分の持ってるものを守ろうとせずに、惜しみなく分け与えようとすることが多いんですよね。それってhaveではなく、beで生きているからだったんですね。

石川

そうなんじゃないですか。まあ、それもおじさんに限った話ではないと思いますけどね。

ありのままのおじさんを見つめよう

石川

若林さんの言うおじさんの話ってのは、もっと深いんですよ。要は、世の中の権力構造がどうなっているかとか、そういう背景があって。その中で、おじさんが不当に差別されていないかって話なんです。「おじさん2.0」と違うのは、敵じゃなくて、すくい上げる対象としておじさんを語っているんですよ。

石川

結局、「おじさん2.0」とか言っちゃうと、いままでの議論と同じになってしまうんです。敵視して、変えようとしている。若林さんの場合はそうではなくって、社会的に弱い立場に追いやられてしまったおじさんっていうものにも、もう少し注目してもいいんじゃないですかっていう。「おじさんってのは意外とすごいんですよ」「あるがままに認めましょうよ」ってことなんです。

だんご

いや、いまの「おじさんはかわいそう」ってのは僕らが意図してるところでもあるんですけど……。

石川

であるんだったら「おじさん1.0」のままでいいと思いますよ。おじさんはあるがままでいい。むしろ「自分2.0」ですよ。

だんご

おっしゃる通りですね。この連載、まだまだ他の分野の専門家の方にも聞きにいきたいと思ってるんで、そこはもう一度考え直してみようと思います。ちなみに、若林さんはあるがままの「おじさん1.0」をすくい上げるための具体的な方法まで話していたりするんですか?

石川

それはもう「俺の話を聞け」ですよ(笑)。おじさんたる俺、若林の話を聞け、と。おじさんは話が長いんだ、それを聞け、と。明快ですよね。え? おじさんの話はなんで長いのかって? そんなの、いろんなことを知ってるからに決まってるじゃないですか。だからこそ、若者はもっとおじさんの話を聞いた方がいいんですよ。

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すずきあつお

元新聞記者で、現在はフリーのライター/編集者。プロレスとプロレス的なものが好きです。

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