コラム

ポテトチップス不足問題の先にある「現実」を想像しよう

こんにちは。北海道の東側、道東在住の編集者・中西拓郎です。

皆さんは昨年の8月に北海道を襲った4つの台風をご存知ですか?
昨年8月17日の台風7号を皮切りに、台風11号、台風9号、台風10号と続けざまに4つの台風がここ道東地方を襲いました。

最初の台風7号はなんと9年ぶりとなる台風上陸、また1年間で4つの台風が北海道に上陸したのは観測史上、初めてのことだったそう。
そんな台風にまったく免疫のない北海道。
普通に暮らす私たちもスーパーに食材が無かったり、停電になったりと、とても恐ろしかったのが記憶に新しいところです。

そして今年に入り、またも衝撃的なニュースが飛び込んできました。

みんな大好きポテトチップスが一部販売終了・休止!!!

上記のツイートも大きな反響を呼び、台風のことはあまり覚えていなくても、このショッキングなニュースに驚き・落胆した方は多いのではないでしょうか。
幸い、9月には大部分のポテトチップスが販売を再開するとのことですが、今後もこのような事態は起こりうるのでしょうか?

そこで今回、北海道から現状をお伝えすべく、じゃがいも農家さんに話を聞いてみることに。そこで僕が直面したのは、日本の農業を取り巻く「現実」でした。


プロフィール
堺 信幸(さかい・のぶゆき)
1968年、北海道置戸町生まれ・同地在住。農事組合法人・勝山グリーンファーム専務理事。2015年、町内の農家が統合し勝山グリーンファームを設立。統合前から数えて4代目にあたり、就農して29年になる。主に小麦・甜菜・じゃがいもなどを作っている。

過疎と高齢化により町内の個人農家が統合

勝山グリーンファームさんではどれくらいのじゃがいもを作っているんですか?

うちはじゃがいもの耕作面積が64ha(ヘクタール)。1haあたり平均して約30t強を出荷しています。

64haって東京ドーム14個分……全然想像もつかない規模感です。どのくらいの人員で農作業をこなしているんですか?

今は職員の数は19名で、収穫期などの繁忙期には家族やアルバイトにも手伝ってもらいながら運営しています。

実は、うちは数年前に町内の農家13軒が集まって「農業法人」になっています。統合前から数えれば私で4代目、私自身も就農して29年目になります。

「農業法人」? 個人の農家さんのままだといけなかったんですか?

このあたりも例に漏れず過疎化・高齢化が進んでいて、どんどん離農していく人が増えているんです。離農すると畑が余ってしまうから、まだ余力のあるところや、若い人が買い取って受け継いでいくことになります。

抱える農地が大きくなっていってしまうんですね。

私が就農した時と統合前の畑を比べると、約2.5倍くらい農地が増えてしまっていました。これは個人として管理するには、人手も機械も足りなくなるギリギリで。周辺の農家も同じく、どこも自分だけでは抱えきれない規模になってきていたので、法人化し、一括で管理していくことになりました。

この流れは最近の地方都市には多い事例なので、個々にどうやって存続させていくかは、どの地域も頭を悩ませてることだと思います。

負担やリスクも大きくなっていくので、一元化して分散しようというのがこれからの農業のカタチなんですね。

うちではじゃがいも(馬鈴薯)の他に小麦や甜菜(てんさい)なども作っています。特にじゃがいもが一番人手がかかってしまう作物なので、離農にしたがって小麦や甜菜に変えていきながら農地の規模を維持しているという側面もあります。

じゃがいも自体の作付けがどんどん減ってきているということですか?

離農した畑がじゃがいもを作っていたとしても、対応できる人手がなければ、手のかからない他の作物に変えてしまう場合もあるんです。あとは業界の構造的な問題によって、じゃがいもの作付けを減らさなくてはいけない場合もあります。

襲い来る台風の猛威にただ祈るしかない毎日。家族総出で畑の水をポンプで汲み上げた

今回の台風ではどんな被害があったんですか。

このあたりは川の上流に位置するので、いつもはどれだけ雨が降っても大丈夫だったんです。だけど、去年は本当に畑から水が引かなくて……。

ちょうど収穫期を迎える時期だったから、水が引かないことにはじゃがいもが腐ってしまったり収穫できなくなってしまったりするんですね。もう本当に祈るくらいしかなかったんだけど、次から次にくるもんだからね……家族もみんな総出で畑に溜まった水をポンプで汲み上げたりしてました。

ひたすら人力に頼るしかない状況だったんですね。

ただ、雨で氾濫した川の土砂が流れ込んで農地が流出し、収穫を断念した畑もあります。その畑では今年も整備が出来ずに、作物の蒔き付けをすることができませんでした。本当に大変な年でした。


畑に溜まってしまった水をポンプで汲み上げている


雨で川が氾濫し、川の土砂が流れ込み流失してしまった農地

想像を絶する体験ですよね。しかも、台風がまた来ないとも限りませんし。

そうなんですよね。今回はじゃがいもで言えば、最終的な収穫量は9haで4割減になりました。

本当に、最後の収穫を迎えるまではどんなことが起きるかわかりません。それに、去年のようなことがまた起きてしまった時にどうするか、準備と対策もしておかなくてはいけませんから。

長い目で見て、最良の消費をしてほしい


今年のじゃがいも畑の様子

ただ、うちに関して言えば、じゃがいもの最終的な収益は前年と大体同じくらいに落ち着いたんです。

え、収穫が4割も減ってしまったのに?

もちろんもっと壊滅的なダメージを受けているところはあるでしょうから、そういうところは収益もかなり落ち込んでしまったり、今年も回復がままならないかと思います。

その反面、北海道でじゃがいもが取れない分、じゃがいもが不足し、単価が上がってしまったんです。なので、収穫量は減ってしまったんだけど、結果的に収益の部分ではそこまでマイナスにならなかった。

今回は特別少なかったんですが、普段、不作でじゃがいもが取れない時ってどんな売り方になるか知ってますか?

わからないです。

いつもはスーパーなどでは袋にいくつかのじゃがいもが入って、一袋いくらという単位で売られていますよね。収穫が少なくてじゃがいも自体の単価が上がってしまうと、今度は一個単位で売られることになるんです。

そうなると、いつもは10個入りの一袋を買ってくれていた消費者が数個単位で買う、もしくは買う頻度を落としてしまうことになりかねないですよね。

たしかにそうですね。

今回は収穫量が全体として大幅に少なくなってしまったせいで、ポテトチップスなどの加工品にもかなりの影響が出てしまったかと思うんです。ただ、それによってじゃがいもの単価が上がってしまって、結果的には収益は変わらなかった。

皮肉にもということですね。

だけど、これは天災とは関係なく、ここ数年ずっと続いていることなんです。

先ほどもじゃがいもを作るのは大変という話をしましたよね。どんどん離農していくし、機械も人手も必要で。その上、じゃがいもが売れないとなると、無理してじゃがいもを作り続けられなくなり、作付けも減っていくんです。その結果また収穫量は減って値段も上がるし、買い控える。こうした悪循環があるんです。

手間のかかる割に実入りが少ないんじゃ続けるのは難しくなってきますよね。しかもこんな未曾有の大災害が起こったときにはそれにも耐えなきゃいけないわけですし……。

そうですね、そのいつ起こるかわからないリスクも込みだということです。そしてさっき生産量が減っていると言ったのは、すべて国産だけの話です。加工品などは海外で生産・加工されたものが輸入されるので、この限りではありません。冷凍のポテトフライなんかも外国産のものが多いと思いますよ。

だからとんでもなく安く僕らが食べられたりするわけですか、原料も安いから。

国産のものを使おうとすると、価格では戦うことができません。そうして消費が冷え込み、収穫量が減ると単価は高くなり、また売れない……というサイクルです。

私たちが消費者の方に願っていることは適正値を考えてほしいということです。とんでもなく安いものはどこかでバランスを取っていたり、誰かが泣いていたりします。

目の前のとんでもなく安いものを買えて、その時は得した気分になるかもしれません。ですが、それを続けていると、いつか国内でじゃがいもを作る人がいなくなったり、買えなくなったりする未来がくるかもしれません

賢い消費が求められますね。

値段が高ければいいということではないですが、この料理がこの金額だとどんな食材が使われているのかな、と少し考えるだけでも、日々の選択も変わってくるのかなと思います。

最後に読者の方に一言いただけますか。

私たちは安心・安全なものを消費者の人に届けるという想いを持って日々、仕事に向き合ってます。それは全国の農家の皆さんがきっとそうなんだろうとも信じています。

じゃがいもで言えば、生で買うと皮は剥かなきゃいけないし、火も入れないと食べられない。最近は料理をしない家庭も増えてきてますよね。でも、人のカラダをつくるのは食べ物です。いつか長い目で見たときに自分たちが困らないように考えながら、最良の消費をしてくれると嬉しいです

今回、北海道民として台風被害の現状を聞こうと思っていたのですが、見えてきたのはもっと根深い、我々の消費についての根本的な問題でした。
もちろん今回お聞きした農家さん以上に壊滅的な被害に遭われてしまった地域や農家さんもいて、状況はそれぞれ異なるかと思います。

ただ、北海道は食料自給率が200%を超える日本の食糧基地です。この問題は北海道や農家さんだけではなく、日本全体で考えていかなくてはいけない問題なのではないでしょうか?

最後になりましたが、この度の台風被害に遭われました方々には心よりお見舞い申し上げ、1日も早い復旧をお祈り申し上げます。

中西拓郎

1988年生まれ、北海道北見市出身。道東をもっと刺激的にするメディア『1988』代表・編集長。防衛省入省後、2012年に地元北見市へUターン。北海道の東側、道東地域のローカルメディア運営他、企業や商品のブランディング・アートディレクションを手がける。特技は1回会えば友達だと思えること。

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