コラム

現地在住日本人の視点から見るシンガポールのクラウドファンディング事情

日本でここ数年人気を集めている、クラウドファンディング。「何かをやりたい!まとまった資金がほしい!」と思い立った時、いつでも資金を募ることができる便利なツールですが、シンガポールに住む一日本人の視点で見ると、実はクラウドファンディングがまだ日本ほどは流行っている印象は感じにくいです。(個人の所感を含むことを了承いただき、ご覧いだけますと幸いです)

シンガポールは、東京23区程度の小さな国土に人口550万人が住むとても小さな国。建国以来、長年にわたって外資企業や富裕層への優遇処置をとって経済成長を推し進めてきたことで有名で、2019年世界競争力ランキングでも1位を獲得しています。シンガポール国民の7割は中華系、次いでマレー系やインド系。実に多国籍でマルチカルチャーな国なのですが、加えてなんと全人口の35%が外国人労働者!街を歩けば外国人も多く、様々な言語やバリエーションに富んだ英語が聞こえてくる、刺激に満ちたビジネス大国です。

シンガポールには、日本にあるような国内発のサイトはなく、世界規模のクラウドファンディングサイトを公用語である英語で利用しているケースが多いようです。特にローカルのシンガポリアンに認知度が高いサイトが、下記の2つ。

◆Kickstarter:世界第1位の規模を誇る、ニューヨーク発のクラウドファンディングサイト。これまでに実に1,700万人がプロジェクトを支援、18万を超える案件が目標金額に達し、出資総額は49億ドルにも達しています。現在進行中のシンガポール発のプロジェクト数は1,466 、中でも人気を集めているのは、カードタイプのワイヤレス携帯チャージャーKablecard(達成額S$ 456,544)、Faire Leather Co.の多機能バッグ(達成額S$ 406,228)、テレビ・照明などのリモート操作を携帯から一括管理するSmartEgg(達成額$110,540)など。他にもゲーム、時計、財布、カメラなど、実用的なグッズが並んでいるのが特徴的です。

◆INDIEGOGO:2008年にサンフランシスコで設立され、235の国と地域で親しまれているクラウドファンディングサイト。Kickstarterよりも審査が緩いため成功率は低めですが、テストマーケティングとして出展しやすいというメリットを備えています。INDIEGOGOの場合、Fixed funding(設定した期間内に達成できなかった場合、支援金を出資者に返還する方法。Kickstarterはこの方法を採用しています)と、Flexible funding(達成したかどうかに関わらず、集まった支援金を得ることができる方法)があり、95%以上のユーザーが後者を選んでいる、という特徴があります。

「こんなに経済成長著しい国、きっとクラウドファンディングが流行りまくっているに違いない・・!」と周りに聞き込みをしてみたものの、ローカル在住者、日本人在住者、駐在員、現地採用社員、口を揃えて「あまり知らない」「聞いたことがない」「使っている人もいると思うが自分は使っていない」の一点張りでした。

クラウドファンディングについて「ひとつの資金調達の手段として存在はしているものの、主流にはなっていないかもしれない」というのが、現地金融機関勤務の駐在員の見解。金融市場が整備されており、クラウドファンディングに頼らなくてもスタートアップやビジネスを進めていける土壌が整っているためなのかもしれません。

また、スタートアップに対してのシンガポール政府のサポートが手厚い点も見逃せないポイントです。たとえば、Block71と呼ばれるオフィスビルでは、ローカルのベンチャーやスタートアップなど約500もの企業に対して、政府が積極的に融資を行っています。また世界大学ランキングでアジア首位に輝くシンガポール国立大学(NUS)もこのビルの運営に携わっており、NUSのインキュベーション事業「NUS enterprise」は、起業家育成のための教育や起業のサポートも行っています。

さらに日本と大きく異なる点として、そもそも自分でお金を増やす手段が他にある、という点も挙げられます。たとえば「海外の銀行預金の利率が日本よりも高い」という話を耳にしたことがある人も多いかと思いますが、実際にシンガポールの大手銀行DBSの普通預金利率は最大3.8%、日本主要三行の0.001%とは比較にならない高さです。またシンガポリアンは若い頃から投資を学ぶ人も多く、株式投資等はもちろん、20代、30代の若いうちから住宅のオーナーとなり、私たちのような外国人に貸し出す光景も日常的に見られます。「自分の資産は責任を持って自分で増やす」という考え方が、シンガポリアンの根底に根付いているのかもしれません。

アジアの他の国、たとえばタイやベトナムに行くと、現地の人たちの人懐っこさにびっくりすることが多いですよね。たとえ初対面の相手でも、積極的に日本語を話そうとしてくれて、連絡先を聞いてきて、また遊びにいこう!と気軽に誘ってくれ、比較的Wetな関係が作りやすい。そんな経験をされたことのある方は多いと思います。でもシンガポールは対極的で、「想像以上にドライな人が多いなぁ」と思う場面もしばしば。

たとえば、仕事の時間は親切に話してくれるけど、仕事外の時間やプライベートの話題になるとほんの少し距離を置きたがる、いわゆる仕事とプライベートをきっちりとドライに分けている印象があります。そんな彼らなので、初対面の相手はもちろんのこと、「会ったことのない見ず知らずのオンライン上の相手にお金を投資する」という発想が弱くなるという可能性も。オンラインで顔が見えなくても共感・感情ベースで動く日本のようなマーケットとは少し異なるかもしれません。

スーパーやショッピングモールに行くと、毎日のように出くわすのが、シンガポール人がキャッシュレス決済を利用している光景です。シンガポールは、アジア太平洋地域の中でも比較的クレジットカード保有率が高く、発行枚数は合計800万枚以上、一人あたりのカード保有数は平均3.3枚という統計もあるほど。仮にクレジットカードの審査に通らない人でも、必ずと言っていいほどデビットカードを保有しているため、少額でもいつでも気軽にカード決済ができる環境が整っています。また、PayNowという携帯番号で送金ができるキャッシュレス決済アプリもあり、ランチや飲み会の割り勘の場面に欠かせない、もはや国民的ツールとなっています。

しかし、これほどキャッシュレスが普及する中にも関わらず、ECに関しては、あまり頻繁に使っているシンガポリアンは多くないようです。日本で大人気のAmazonもシンガポールでは商品数が少なく、例えば食品/チョコレートで検索すると日本のAmazonで9.000件以上ヒットする中、シンガポールのAmazonでは97件。日本のようなマーケットプレイスの機能もなく、品揃えも少なく、他ECサイトと比較しても普及が遅れているのが現状です。

その他のサイトでは、LazadaやTaobao、Qoo10 などがシンガポリアンの間で人気ですが、配達物が届くのが遅い、予定通りに届かない、商品が損傷しているなどのトラブルも散見されるようです。どの場所に住んでいても比較的便利で不自由なくリアルショッピングにアクセスできるシンガポールでは、日本ほどEC活用のメリットが大きくないのかもしれません。このような背景も相まって、オンラインで何かを購入する、という文化に今はあまり馴染みがない可能性もあります。一方で、携帯アプリ経由のGrabFoodなどのフードデリバリーは大人気です。ホーカーなどの外食文化やメイドを雇用する共働き文化が普及していることがシンガポリアンに多いことが背景にあると見ています。

シンガポールのクラウドファンディングについて、定性的な推察も含めてまとめてみました。現在、アジア圏全体で急速な盛り上がりを見せるスタートアップ。業種規制がない、資本金もほぼ不要、法人税も17%と非常に低いシンガポールは、私たちのような外国人にとっても最も起業がしやすい国の一つかと思います。今後クラウドファンディングは資金獲得の手段として人気を集めるのか?は今後の可能性について期待したいと思います。

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Saki Yoshida

1984年生まれ、宮崎県出身。UCL教育大学院修了後、海外進学・留学コンサルタントを経て、2020年よりシンガポールでキャリアコンサルタントとして勤務。趣味はピアノと旅行(40カ国)と現地の人との触れ合い。好きな国はチュニジア。

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