インタビュー

いまだ人類で誰も知らない失敗を見に行くために、「分身ロボットカフェ」実験店常設化プロジェクトにかけた想い。

誰もが迎える可能性がある「寝たきり」の可能性、その先の”憧れ”を作るための取り組みが株式会社オリィ研究所が手掛ける「分身ロボットカフェ」だ。

分身ロボットカフェは、分身ロボットOriHimeがコーヒーを入れて接客、OriHimeを運転するのはALSなどの身体のごくわずかしか動かせない方。

”たとえ外出困難になっても、寝たきりになっても仲間と共に働き続けられるカフェ”として、「人類の孤独の解消を目指す」を理念に掲げて活動を続けてきたオリィ研究所の集大成の場だ。

オリィ研究所は2018年に初の期間限定実験店舗「分身ロボットカフェDAWN ver.β」を実施。
2019年にも2度目となる実験店舗「分身ロボットカフェ ver.β2.0」を実現、過去のプロジェクトを全てクラウドファンディングで支援を集めて実施してきた。

2018年12月「分身ロボットカフェDAWN ver.β」
【イヴの時間 コラボ決定!】寝たきりでも働ける分身ロボットカフェプロジェクト!

2019年8月「分身ロボットカフェ ver.β2.0」
寝たきりでも働ける分身ロボットカフェプロジェクト公開実験!

そして2021年、とうとう「分身ロボットカフェDAWN ver.β」として常設実験店をクラウドファンディングで実現。

2021年3月「分身ロボットカフェDAWN ver.β 常設実験店」
寝たきりでも働ける「分身ロボットカフェ」実験店 常設化プロジェクト!

当プロジェクトは開始当日中に目標金額であった1,000万円を達成。終了時には4,500万円を越える支援を2,156名の方から頂き大達成で終了。
2021年6月、日本橋に常設実験店としてスタートした。

なぜクラウドファンディングに挑戦し続けるのか、クラウドファンディングを通して得られたものはなんだったのか。

株式会社オリィ研究所 代表取締役所長「吉藤オリィ」氏に話を伺った。

吉藤オリィ (よしふじ おりぃ)
奈良県葛城市出身  1987年生まれ
株式会社オリィ研究所代表取締役 CEO
小学校5年から中学校2年まで不登校を経験。工業高校にて電動車椅子の新機構の開発を行い、国内の科学技術フェアJSECにて文部科学大臣賞、世界最大の科学大会ISEFにてGrand Award 3rdを受賞。
「人間の孤独を解消する」ことをミッションとし、早稲田大学在学中に分身ロボットOriHimeを開発しオリィ研究所を設立。
代表作として分身ロボット「OriHime、OriHime-D、NIN_NIN」、視線入力意志伝達装置「OriHime eye」、車椅子版食べログアプリ「WheeLog!」、「分身ロボットカフェ」など開発。米Forbesが選ぶアジアを代表する青年30名「30 under 302016 ASIA 」、Google impact challengeグランプリ、文化庁メディア芸術祭など、国内外で受賞多数。著書「孤独は消せる」「サイボーグ時代」「ミライの武器」など

本インタビューは、分身ロボットカフェやOriHimeが前提となっているため、まずはクラウドファンディングプロジェクト寝たきりでも働ける「分身ロボットカフェ」実験店 常設化プロジェクト!より、一部抜粋した説明部分を引用し、ご説明させて頂きます。
<以下、プロジェクト本文より一部抜粋>

 

「寝たきりの先の憧れを作る」、寝たきりでも働ける「分身ロボットカフェ」実験店 常設化プロジェクト!

分身ロボットカフェとは、「分身ロボットカフェ」とは、ALSや脊髄損傷などをはじめ、病気、入院、海外在住、様々な理由で、自分の体を現場に運んで働くことが困難な方々が、自宅や病院にいながら自分の分身となるロボット「OriHime」を遠隔操作し、お客さまに喜ばれる接客を行う事ができるかという実験カフェです。

「分身ロボットカフェ」は、「OriHime」を使って外出困難な仲間たちと働く実験プロジェクト、「OriHime」は、かつて、ひきこもりで孤独だった私自身の経験を元に開発した分身ロボットです。

私は昔から病気がちで、小学校5年生の時の入院をきっかけにそこから3年半ほど、ほとんど学校に通う事ができない不登校、ひきこもりになっていた事があります。ほぼ自室で、酷い時は天井ばかり見つめ続け、時計の針を聞き続ける毎日を過ごし、日本語を忘れてしまうほどの強い孤独に苦しめられていました。

教室に行きたくとも行けなかった事、友達らと同じ行事に参加できなかった事が本当に悔しく、「なぜ身体がひとつしかないのだろう。身体が2、3つあればいいのに」と思っていました。

病気や障害で身体を動かせないと、学校にも行けず、仕事場にも行けず、友達と遊びにいって思い出を作る事も困難です。ベッドで毎日天井を眺め続けるのではなく、会いたい人に会えて、行きたい所へ行ける心の車椅子、それがOriHimeというロボットの原点です。

分身ロボットカフェ構想の原点、親友「番田雄太」氏とのやり取り。

分身ロボットカフェの構想を練り始めたのは5年前。私と共に、この企画を考え、実現に向けて奔走していた人物がいます。オリィ研究所の創業期から一緒にOriHimeを開発してきた寝たきり秘書の番田雄太。2017年に亡くなった、私の親友です。

彼は、4歳で頸髄損傷になって20年以上寝たきりで、首から下は全く動かず、かつ、身体は東京から遠く離れた盛岡の病院にいました。しかし、顎を使ってPCを操作し、毎日OriHimeで会社に出社し、私と全国の講演会を周り、講演者や私の秘書として給料を得ると同時に当事者としてOriHimeの改良案を共に考えていました。

ある時、いつもの日常会話の中で私が「秘書なんだからコーヒーくらい淹れてくれよ」と冗談を言い、番田が「じゃあ、そういう身体を作ってくれよ」と言った2016年から、遠く離れた場所から接客やものを運ぶなどの”肉体労働”が可能となる120cmの新型OriHime、「OriHime-D」の開発に着手しました。

荷物を運ぶ、掃除をする、家事などの肉体労働であれば、知的労働よりも働くイメージはつきやすい。なら、肉体労働を可能にするテレワーク、であれば働ける人はずっと増えるのではないかという仮説、それが私と番田とで語っていた「分身ロボットカフェ」構想です。

1人の活動に感じていた限界と、クラウドファンディングというきっかけ。

ー本日はよろしくお願い致します。まず、2018年の実験店舗「分身ロボットカフェDAWN ver.β」をはじめるときからこれまで、全ての機会においてクラウドファンディングを活用されてきていますが、これはどういった理由からだったのでしょうか。

よろしくお願いします。まず、はじめてクラウドファンディングに挑戦したのは分身ロボットカフェのためのプロジェクトではなく、2018年に開催したオリィフェスというオリィ研究所で今まで作ってきたものを体験してもらうイベントのためでした。

2018年7月
オリィ研究所6周年記念企画、「オリィフェス2018」を開催したい!

このプロジェクトに支援してくださってオリィフェスに参加してくださった方が、ざっくりとした言い方になりますが、すごく良い方ばかりで。

というのも、私の発明するものは車椅子の方だったり呼吸器をつけてらっしゃったりとか、障害をお持ちの方が使うものが多かったりするのです。

そういったことに関心がある方が多かったからというのもあるかと思いますが、ただ単に「新しいものに触れてみよう」という”お客様”の気持ちで来られるのではなく、積極的にイベントに関わってくださる方が多かったのがとても印象的でしたね。

ー実際にどのような方がいらっしゃったのでしょうか?

オリィフェス開催の後、続ける形で第1回となる分身ロボットカフェのプロジェクトを立ち上げたのですが、この時にオリィフェスのプロジェクトに支援してくださった方も多くいらっしゃった。

中には、支援者なのにボランティアスタッフとして運営を手伝ってくださったりする方もいて、結果的にオリィ研究所に入社してくれた方もいます。

ー毎回支援してくださる方だけでなく、運営に参画してくださる方までいらっしゃったんですね。

はい。支援者の方がプロジェクトに関わってくださるような事例は狙っていたことではなく、偶発的に起こったことでした。
このことがきっかけで、クラウドファンディングは支援以外にも得られるものがあると実感し、今の自分に必要だと感じていたこととマッチしたんです。

ーというと…?

私は20代の頃からずっと、1人で「人類の孤独の解消を目指す」ということを念頭に活動してきました。1人でやって1人で発表して、それが評価されて喜ぶこともありました。1人で開発した方が早いし、自分の考え通りのものが作れるからです。

しかし、30歳辺りから少しづつこのやり方に限界を感じるようになってきて。
それからは「どうしたら自分1人ではなくみんなで一緒に作っていけるか?」という考えが生まれてきた時期でした。

1人で賞をとって称賛されて「おめでとう!」「すごいですね」と言われるのではなく、のみんなで作り上げて、「やったー!!」とみんなで喜ぶ。そういった環境を実現していきたいという価値観に変わっていっていたんです。

そのタイミングでオリィフェスのクラウドファンディングでみんなで一丸となってプロジェクトを盛り上げていく体験をしたことで、クラウドファンディングが今の自分の実現していきたい未来や価値観とすごく相性が良いと実感しました。

過去支援者、そしてCAMPFIREにコミュニティメンバーと望んだ常設カフェという集大成。

ー今回のプロジェクトは初日で目標金額の1,000万円を達成されていましたね。
最終的には目標金額の445%、4,500万円弱の支援を2,000人を越える支援者の方から頂く特大プロジェクトになったと認識しています。なぜここまで支援を集めることができたのでしょうか。

はい。本当にありがたいことに、はじめてプロジェクトに挑戦した「オリィフェス」からはじまり、体験した方々が次のプロジェクトがはじまるたびに「前回の体験がよかったから今回も応援します!」といった形で支援と拡散を手伝ってくださって。

こうして、二次拡散的にいろんな人が応援のコメントをつけて投稿してくださったことで、これまで分身ロボットカフェの存在を知らなかった方にまでプロジェクトが届き、今回の結果に繋がったと思っています。

ー過去の支援者のみなさんの協力が集まった結果だったんですね。

はい。また、今回のプロジェクトでまさに実感したのですが、クラウドファンディングとコミュニティの相性の良さを実感しました。

私達は「オリィの自由研究部 (β)」というCAMPFIREコミュニティも運営していて。

このコミュニティでは、普段のOriHimeをはじめとした私やインターンの学生らが開発しているロボットや研究の自由研究・トライ&エラーをエンタメとして報告しているコミュニティなんです。

このコミュニティの中でも1年以上前から「常設の分身ロボットカフェを立ち上げたい」「このカフェをオリィの研究部の開発や実験の場にしていきたい」と常々話していて、皆も応援すると言ってくれていた。
それが今回のプロジェクトでの初速に大きく影響したのだと実感しています。

クラウドファンディングを通じて支援者とつくる、未来への挑戦。

ー「みんなと作り上げていく」という考えはまさにクラウドファンディングやコミュニティの活動と相性が良いのではないかと思います。その他、クラウドファンディングに挑戦したことに関して感じたメリットはありましたか?

はい。オリィフェスの開催で感じた良いお客さんが多いという話とも近いのですが、クラウドファンディングの支援者の方は、単純に商品がほしいという購入の目的ではなく思想に共感して支援してくださっている方が多いので、存分に失敗できるのがとてもありがたいところだと思っています。

現在運営している分身ロボットカフェは、お客さんにサービスを提供するロボットとして見ると正直不完全なところが多いんです。

そしてそれを前提としてお伝えしています。「料理やコーヒーの味は保証するけどサービスの品質保証はできません。失敗する事もあります」と。

店員がドリンクを持ってくるのも早いわけではありません。ロボットの操作を失敗してしまってテーブルにぶつかったり、その場で回りだしたりしてしまうこともあるんです。

それって、普通のカフェでやってたら、お客さんは怒って帰っちゃうようなことですよね。
でも、分身ロボットカフェではその失敗とその後の改良すら楽しんでくださる方が支援者として体験しにきてくださっているのかなと。

ーなるほど。たしかに支援者の方が失敗を許容してくださるという環境だからこそ、全力で挑戦して失敗できるんですね。

はい。一時期は「完璧でならなくちゃならない」と思い、1度完成したものでも更に精度を上げたくて1ヶ月も2ヶ月も改善に時間をかけてから人前に出したりしていて。

でも、手を抜くというわけではなく、作ったものをすぐに見てくださる方の前に出していって、うまくいかない部分があったらまた修正していくほうが、研究としては早く進むんです。

目の前で完璧ではないものを出してしまっても失敗を許してもらえる環境、楽しんでもらえる環境として、常に実験に挑戦できる場所が分身ロボットカフェです。

そしてこの場が実現できたのは、ただ単に完成されたサービスや商品を購入する形ではなく、クラウドファンディングの支援を通して思想に共感してくださった方と繋がれたからだと思っています。

”いまだ人類で誰も知らない失敗”を見に行くために。

ーさいごに、オリィ研究所に関わってくださっている方や、興味を持ってくださった方にとお伝えしたいことはありますか?

この分身ロボットカフェは、私1人からはじめたプロジェクトでした。
寝たきりの親友である番田と一緒に、どうやったらカフェを作れるだろうか?という話からOriHimeというロボットを考え、1人で発泡スチロールを削ることからはじめていて。

たぶん、今のように応援を頂けている環境じゃなかったとしても1人で続けていたとは思うのです。
でも、1人で頑張ろうと思って活動していたら今のような大きな活動には繋がらなかったと思います。

はじめて「オリィフェス」を企画したクラウドファンディングで支援者を募ったときからずっと「寝たきりでも働いている未来をつくりたい」「寝たきりの先に憧れを作ることができると思っている」というメッセージの発信を続けてきて。

この想いに共感してくださる方とこういった形で資金的な支援やお手伝いとしての支援をしてくださる方のおかげで、一歩目の実験の場となるカフェを作ることができたのは本当にありがたいと思っています。

そしてなにより、多くの仲間ができたことで改めて自分が一番得意である「開発」に集中できるようになりました。

ープロジェクト本文の中で「”いまだ人類で誰も知らない失敗”を見に行くため、今回も開店後に次々と新たなチャレンジを実施すべく準備しています。」というメッセージがあったことも印象的でした。そういった意味で、支援者の方とこれから実現していきたい未来についてもお伺いできますか。

はい。みんな寝たきりになるのはわかっているのに、自分ではイメージしたくないから触れていないという部分は少なからずあるんじゃないかなと思っていて。

これは、福祉というもの全体のイメージでもあると思うのですが、今までの福祉は必要性を訴えたり、現状の辛さを訴えるものが多かったように思うんです。

私は、いつか体が動かなくなることは避けられなくなる前提で、その先に楽しみや憧れ、そして羨ましさを作っていけるといいなと思っています。

その未来に挑戦・実現していくためには、「楽しい場所」が必要だと思っています。
楽しくて面白くて、先に進んでいくものが前提にあって、その上で行われる実験の挑戦と失敗を見ることは、ポジティブに捉えていけるんじゃないかなと。

だからこそ分身ロボットカフェのように、クラウドファンディングというプラットフォームを通じて「うまくいくかわからないけれど応援しよう」と思ってくださった方と一緒に挑戦していけることができるのは本当にいい時代だと感じていて。

これからも「あのとき上手く動かなかったロボットが動いた」と、支援者のみなさんと一緒に喜びを感じる楽しい場所を実現して、明るい未来を実現していきたいと思っています。

ーありがとうございました。

クラウドファンディング「CAMPFIRE」
「CAMPFIRE」は2011年のサービス開始からこれまで掲載プロジェクト数は45,000件以上と国内最大。クラウドファンディングページ作成時のポイントや、ノウハウなどを濃縮した「CAMPFIRE」オリジナルマニュアルと共にクラウドファンディングに挑戦してみましょう。

大堀 悟(ぼりさん)

CAMPFIRE公式キュレーションパートナーとしてプロジェクト作成なども行う取材ライター。元板前です。

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