コラム

「保育士だからできることがある」現場で聞いたリアルな仕事像

保育士。それは、女の子の「将来なりたい職業ランキング」で毎年のように上位にランクインする人気の仕事だ。しかしひとたび、その職種名で検索すれば、目につくのはネガティブなワードの数々。仕事が大変なのに給料が安い、離職率が高いなどといわれ、保育士不足も社会問題化している。

私は2歳と6歳の息子を保育園に通わせている保護者側の人間だ。毎日ただただ保育士には頭があがらない日々を過ごしている。

普段、保育士のお世話になっているからこそ、保育士の仕事とは何かをきちんと知るべきだと思った。そんなある時、現役の保育士による「やっぱり保育士だよね!保育士応援プロジェクト」と題した動画を目にする機会があった。

この動画をつくったのは、社会福祉法人聖愛学舎・もみの木保育園。作詞・作曲・プロデュースを同園の統括園長である物井洋介さんが手がけ、現役の保育士たちが振り付けと歌を担当している。保育士という仕事の楽しさを明るく発信しているこの動画に、私は今この時代における保育士という仕事を前向きに捉え直すヒントがあるように感じた。

同園で働く現役の保育士はどのような気持ちで普段の仕事と向き合っているのか。現場の生の声を聞かせてもらうべく、同園で働く千葉草太さん(32歳/保育士11年目)と、北出葉月さん(30歳/保育士9年目)の二人に話を聞いた。

なぜ、保育士だったのか?

佐藤

早速ですが、お二人に保育士という仕事を選んだ理由についてお聞きしたいと思います。まずは、動画にも出演されていた千葉先生からお願いします。

千葉

実は僕、高校3年生まで考古学者になりたかったんです。恐竜や遺跡などの歴史がすごく好きで。でも、考古学で食べていくのは大変そうだし、そこまでの覚悟が持てなかったというのもあって、その次にやりたい仕事でもあったこの保育士という仕事を選びました。

佐藤

どうして保育士がやりたいと思える仕事だったんですか?

千葉

子どもの心に思い出を残すことができる仕事だからです。僕は典型的なかぎっ子で、小学校3年生まで学童保育に通っていました。そこで、学童の先生から囲碁や将棋などいろいろな遊びを教えてもらった。そのおかげで全然さみしくなかったし、本当に楽しい子ども時代が過ごせたんです。保育士は一番の夢ではなかったけれど、自分がそうやって大人に与えてもらったように、大人になった自分が子どもに与えることができたらそれはとてもいいことだなあと思って。保育士になってかれこれ11年ですが、やればやるほどおもしろくなっていきますね。精神年齢が低いので、子ども目線で日常を楽しめるというところも向いてるなって(笑)。

佐藤

すてきですね。では、北出さんはどんな理由で保育士に?

北出

私は、自分や友達の髪を切ったりするのが楽しくて、元々は美容師になりたかったんです。でも将来について考えた時に、母親から「あなたは保育士が向いているんじゃない?」と言われたことがきっかけで、この職業を意識するようになりました。

佐藤

お母さんは北出さんのどんな部分が保育士に向いていると思ったんでしょうか?

北出

小さい頃から遊びが得意だったところかな。テレビゲームとかより、山の中を駆けめぐって四季の変化を感じたり、自然の中で体を動かして遊ぶことがとにかく大好きな子どもだったんです。だから今も子どもたちと一緒に遊びを考えて、千葉先生と同じく、子ども目線で一緒に楽しんでいるところはありますね。音楽や図工、体育も得意だったので、子どもたちと体を動かしたり、部屋でいろんなものをつくったり、歌ったりする時間は本当に楽しいです。今では仕事が休みになる土日でも保育園に行きたくなっちゃうくらいで、長い休みになると寂しいんですよね。子どもたちに会いたくなっちゃって。

保育士ってどうやったらなれるの?

佐藤

千葉先生も北出先生も保育士という国家資格をお持ちですが、そもそもこの保育士という資格はどのようにして取るのですか?

千葉

僕は保育のことを学ぶ短大に、北出先生は専門学校に通っていました。そういう学校に通って授業の単位をとり、幼稚園や保育園の実習に参加することで、卒業と同時に資格が取れます。他にも、いわゆる国家試験を受けて保育士になる方もいます。そういう方々は、年に2回ある試験に向けていろいろな教材を買って独学で勉強をしているので、もしかしたら僕たちよりハングリー精神は強いかもしれません。ちなみに学校の卒業と同時にとれる資格と、国家試験でとれる資格には違いはありません。試験があるかないか、だけですね。

佐藤

学校ではどのような勉強をしたんですか?

千葉

子どもに関するすべてのことです。発達について、栄養について、小児の病気について。児童心理学も学びました。

北出

社会福祉のことも学びますよね。私は専門学校時代に障害をもった方のガイドヘルパーのボランティアをしていたのですが、そういう研修をするところもあります。

佐藤

その当時に勉強したことというのは、現場に出てから役立ちましたか?

千葉

考え方の基礎にはなったけれど……実際には、何も通用しなかったなあ。僕、自分で言うのもなんですが、本当に真面目な生徒でたくさん勉強してたんです。でも、理論と現場にはすごいギャップがあって。
最初に勤めた保育園の理事長が「保育士の資格は保育をしてもいいよっていう資格なんだ。そこからプロの技量であったりとか、精神を身につけていく、その積み重ねなんだよ」と言っていて、本当にその通りだなと思いました。

北出

そうですね。保育士になれたことはゴールではなくてスタート。たくさんの子どもと出会い、保護者とも出会い、そうした出会いの数だけ私自身も学んできました。そのなかではもちろん失敗もあったけれど、そうした失敗があってこそ、保育士としても成長できたなあと思うんです。

「保育士は誰でもできるから給料が安い」発言について

佐藤

そういえば、ホリエモンこと堀江貴文さんが保育士についてツイッターでつぶやいたことが、話題になっていましたが……ご存知ですか?

千葉

ああー。現場の保育士の間でも、いっとき話題になってたよね。そう思う人がいるんだなあって。でも堀江さんが言ったように、誰でもできる仕事って据えている感覚も、一般の人たちが感じているところでもあるのかなと思いました。

北出

私は正直、心が痛みました。でも、いろんな人がいるだけ、いろんな意見はあるので、そこをどうポジティブな方向に変えていくかっていうのは、現場にいる私たちにかかっているのかなと思っていて。

佐藤

現場の保育士として「誰でもできるわけではない」と思うところがあるとしたら、それはどんなことですか?

千葉

それでいえば、僕たちは子どもたちの発達についてあらゆる事例を見ているし、よく知っています。たとえば、トイレや着替えなど僕たちが普段当たり前にしているようなことって、実は当たり前ではなくて、成長の積み重ねの上にあるんですね。僕らはそれができるようになるために、どういう手助けができるのかということをいつも考えている。つまり、僕たちはその年齢における、ある発達段階に至るためにどうすべきか、といったことについて、たくさんの引き出しを持っているんです。これは教科書を読んでいるだけではわからないこと。経験によって積み重ねてきたものという点では、僕たちの大きな専門性になっているのかなと思います。

北出

たくさんの子どもと接していくなかで、事例が積み重なってわかっていくこともあるので、それは本当にそうだと思います。

千葉

たとえば、今のこの子の姿っていうのは、去年自分が見ていたあの子の姿に似ているな、だったらこういうアプローチをしてみたらどうだろう、といったことが考えられるようになっていく。経験を積めば積むほど、専門性はもちろんだけど、質もあがっていくような気がしますね。

保育士が大変、すぐやめるイメージについて

佐藤

ところで、保育士は離職率の高さも指摘されますよね。

千葉

保育士に限らないんじゃないですかね。今はみんなどんどん職業を変えていく時代ですし、ひとつの職場とか、ひとつの仕事にみんなこだわってませんよね。保育士でも、一生保育士をやり続けていくぞとか、この保育園に骨をうずめるぞっていうような感覚で働いている人の方が少ないんじゃないかな。若い人は特にそうだと思います。

北出

大変だからやめるという人もいるとは思うんですが、それだけではなくて、保育士の仕事を通じて、子どもに関する別の仕事の道に進む人もいるんですよね。たとえば、保育士の経験を踏まえて、子どもが着替えやすい洋服づくりをしたいと考えている友人もいました。それって、毎日のように子どもの服を着せたり脱がせたりしているからこそ思いついたアイデアですよね。彼女はそれで服飾の学校に入り直したんです。

佐藤

なるほど。前向きな離職もたくさんありますよね。なんとなく、大変だからやめていってしまうのかな……という私の保育士さんへの勝手なネガティブイメージがあったかもしれません。

千葉

大変なのは確かに大変です(笑)。保育士の仕事って、本当に多岐に渡っていて、まわりの人には見えていない部分の仕事もたくさんありますから。しかも、目的が果てしない。やろうと思えば無限にできる。そして、ノルマが決まっているわけでもない。それが負担になってやめてしまう保育士は実際にいると思います。あと、負担ということでいえば、小さな子どもがいる保育士さんは大変ですよね。なぜかというと、自分が勤めている園の行事と、自分の子どもが通っている保育園や学校などの行事が重なるから。我が子は別のところに預けて、自分はほかの子どもを見ているという状況にならざる得ないことは、保育士の親が抱える最大の悩みでしょう。僕も去年の8月に子どもが生まれたばかりなので、いずれそういうことになるかもしれませんね。

本当に保育士の給料は安いの?

佐藤

聞きづらいことで申し訳ないのですが、正直、保育士さんのお給料は安いのでしょうか?

千葉

他業種の人と比べたことがないからわからないんです。ただ、給料が安いといわれるのはどうしてかということは、一回考えたことがあって。

佐藤

気になります。

千葉

それはおそらく、ルーティンワークになっている実態があるからではないでしょうか。たとえば以前、公務員の保育士と話す機会があったんですね。その人の知っている保育園は毎日やることが決まっていると言っていました。散歩先も遊び方も決まっている。保育士はただその決められたことをやるだけ。そして、かならず5時のチャイムとともに退勤するそうです。もちろんすべての保育園がそうだとも思いません。残業をすることがいいとか、そういう話でもありません。ただ、少なくとも僕や北出先生はこの仕事が好きなので、ルーティン化された仕事だけをこなして満たされるということがない。だから、結果として朝一番に保育園の鍵を開けて、子どもたちが帰ったあとも残ってしまい、最後の戸締りをして帰るくらいには、保育園にいることになるという。

北出

行事の準備で忙しいときは、そのまま泊まりたくなることもあります(笑)。

千葉

あるよね(笑)。もちろん毎日残業をしているわけではないけれど、やろうと思えばいくらでもできる仕事。自分のやり方次第でいくらでもおもしろくすることができるから、その保育士の意識によって働き方は全然変わってくると思うんですよね。それをルーティンワークにして考えることをやめてしまったら停滞していくのは当然ですし、そもそも給料が上がるはずもないと思います。

保育士のキャリアプランは?

佐藤

お二人は今、現場で充実した仕事をされているような印象ですが、今後思い描いているキャリアプランはありますか?

千葉

うちの保育園でいえば、まず現場から入って、クラスを受け持つリーダー、乳児幼児それぞれのセクションを受け持つセクションリーダー、主任保育士、園長っていう階層があります。ゆくゆくは園長になりたいとか、園を経営したいっていう保育士もいるんですけど、僕はずっと現場でやっていたいなと思っています。というのも、子どもたちをどう伸ばしていってあげるか、どう関わったらもっとすてきな姿になるんだろうって考えながら、現場で保育をするのはすごく楽しいことだからです。そして子どもたちがいつか人生の選択を迫られた時や、悩んだ時に、「そういえば、保育園の先生があんなことを言っていたなあ。こういうことをしてくれたなあ」なんて思い出してもらえたらすごく嬉しいなって思っているんです。

北出

私は去年、スウェーデンに保育の研修にいってきたんですが、そこで得られたことをもっと今の仕事に生かしていけたらいいなというのがあって。たとえば、スウェーデンの保育では「あれはだめ」「これはだめ」というのが少ないんですね。子どもの行動を必要以上に制限してしまうのではなくて、子どもが見つけたもの、やりたいと思ったことを、「いいね。じゃあ、どうしてみようか」と一緒に考える。それってすごく大事なことだと思うんです。子どもたちはちょっとした遊びから、大人が考える以上にたくさんの発見をしています。私はその環境を整えてあげたい。もっともっと現場の中でいろんな子どもと出会って、関わっていきたい。そして子どもが発見したこと、興味をもったことを保護者にもきちんと伝えていって、みんなで子どもたちを見ていくというような環境を作りたいです。

佐藤

ではそうした理想の保育を目指していくにあたって、保育士として必要なものってなんだと思いますか?

千葉

保育士になった理由として「子どもが好きだから」というものがあるとすれば、それは前提条件だと思っています。その上で、何が必要か。風邪をひかない丈夫な体とか、何を言われても屈しない心の強さとか、コミュニケーション力とかいろいろ思い浮かぶなかで、僕が大事だと思うのは、やっぱり自分の子どもの頃の思い出を忘れないでいられるか、ということなんです。嬉しかったことも悲しかったことも、そのときの気持ちを忘れていないこと。それがあれば、あの時こうしてもらったのが嬉しかったから、自分もこうやって関わってみようとか、こうされたのが悲しかったから、ちょっとこれは控えておこうとか、子どもの気持ちに寄り添った行動ができると思うんです。

北出

私もそう思います。先生と子どもの関係でいえば、保育園というのはその距離がとても近いところにあります。だからこそ、保育士はどれだけ子どもの気持ちに寄り添ってあげられるかを考えるのが大切。楽しいことも辛いことも、子どもたちと一緒に分かち合って、成長していきたいといつも思っているんです。

区切り線

保育士への先入観を捨てて、あくまでもフラットな立場で聞いた今回のインタビュー。子どもに対する彼らのまっすぐな眼差しは、もはや母親である私のそれ以上に熱を帯びたものでもあると感じた。

スッと気が引き締まる思い。
自分はこれだけの思いを持って子どもたちの成長に寄り添えていただろうかーー。

親は目の前の自分の子どもだけを見ている。しかし、見ているからといって子どもの気持ちに日々丁寧に寄り添えているのかといえばわからない。忙殺される日々のなかでは、その成長を客観的に見れなくなることはあるし、冷静になれないときもある。

でも、保育士はたくさんの子どもたちを知っている。子どもの成長は一通りではないことを、多様な事例のなかで学んでいる。だからこそ、親とは違うかたちで子どもと寄り添い、違うかたちで成長に導くことができる。それを彼らの専門性と呼ばずして、何と呼べばいいのだろう。

保育が抱える問題も、保育士個人が持つ悩みや葛藤も、短いインタビューで測り知ることはできない。彼らの声が全国の保育士の姿を伝えるものではないこともわかっている。しかし、少なくとも私が見た、彼らの仕事に向き合う姿勢はとても清々しかった。だから私はひとりの母親として、社会の一員として、これからも保育士の仕事を信じていこうと思う。

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佐藤めだか

ライター、編集者として活動しながら、バンコクに数年間移住してみたり。
現在は東京のはしっこで2児の母をしながら、ぼちぼちライターをやっています。

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