コラム

「学校の授業だけが勉強じゃない」小4ショップオーナーと母親の葛藤

突然ですが、自分が10才だった頃を覚えていますか?

毎日小学校へ通って、友達と遊んで、ほどほどに勉強して、ときには習い事に精を出して…でも、「ネットショップを運営していた」という人は彼以外いないかもしれません。

少年の名前は、きんたろうくん(10才)。

Eコマースプラットフォーム『BASE』で『きんたろうのおみせ』を運営する、小学4年生のショップオーナーです。

「こんにちは。
きんたろうです。10才です。
自分でお金をかせぎます」

Aboutページにはこう綴られているだけで、きんたろうくんの正体は明かされていません。

一体きんたろうくんとは何者?なぜネットショップを??

この謎を探るべく、きんたろうくんとお母さんへのインタビューを実施。お話を通じて見えてきたのは、夢を追いかける少年と我が子を温かく見守るお母さんの物語でした。

ネットショップは遊びのひとつ

ーきんたろうくんは、なぜ『BASE』をやろうと思ったんですか?

きんたろう
うーんとね、お母さんにすすめられたから。

お母さん
えっと、補足しますね(笑)。3年くらい前に私が知り合いから『BASE』を教えてもらっていたんですね。で、当時この子が消しゴムはんこをつくったり、ゲームのアイデアを考えたりしていて。それで「きんたろうも『BASE』で売ってみたら?」と。


お母さんときんたろうくん

ー当時のことって覚えていますか?

きんたろう
えー?覚えてないよ(笑)。

お母さん
この子の感覚としては“Web上のおみせやさんごっこ”だったと思います。別に本気で売ろうとはしていなかったんです。…あ、でも、パズルゲームのアイデアは売れたんだよね?


実際に売られたパズルゲームのアイデアメモ

ーすごい。売れたときは嬉しかったですか?

きんたろう
うーん……そうだなぁ……。モノをつくって自分で売るっていう、大人がやるようなことを少しは覚えられたのかなってのはあるかも。

お母さん
商品を発送するときの宛名も、自分で書いたよね?

でも、その売れたとき以外は基本的にはサイトは放置状態だったんですね。この子が自由に使えるパソコンを与えていなかったので。

最近パソコンを持ち始めたから「もう一回やったら?」という話はしています。今、モバイルサイト制作サービスのStrikinglyで自分のサイトを立ち上げたんですけど、そこにネットショップも絡めたらおもしろいかな、と。

10才。小学4年生。プログラミング勉強中です

−きんたろうくんは自分のサイトもつくっているんですか?ちょっとビックリしました。

お母さん
この子、学校へはあまり通っていないんです。自宅を拠点に勉強するホームスクーリングでプログラミングを勉強していて。ホームスクールといってもいろいろパターンがあって、この子はハックスクーリングという自分のやりたいことだけを教わるタイプ。私の知り合いが先生なんですよ。

ーへえぇ…!それで自らプログラミングを。素朴な疑問なんですが、ホームスクールだと普段どう過ごしているんですか?

きんたろう
朝起きて、ごはん食べて、その後に勉強とかゲームとかやって、夜には動画を見て寝るって感じかな。

お母さん
それじゃ、ただのグータラな大学生じゃない(笑)。

きんたろう
ちーがーうーよー!

ゲームが好きだったからずっとつくりたいと思っていて、やってみたら楽しかったの。むずかしい言語をいっぱい書いて、プログラムが動いたときは達成感があっておもしろいよ。

お母さん
2017年のゴールデンウィークに学研主催のプログラミングスクールがあったんです。お題は「マイクラ(※1)で家を建てる」。この子がつくったものを見せてもらったんですけど、素人目だと何がすごいのかわからなかったんですね。でも、裏側には何百行のプログラミング言語があった。がんばってつくっていました。

※1…『Minecraft(マインクラフト)』のこと。世界中で大人気のものづくりゲーム。ブロックを地面や空中に配置し、建造物をつくっていく。

学校以外の学びの場を提供することが、親の役目だと思う

ーお母さん、きんたろうくんにはどんな教育方針で向き合ってるんですか?

お母さん
教育方針というよりも、”自由”ですね。

この子は学校の勉強がつまらなくて、毎日通うことをやめてしまったんです。今は行ったり、行かなかったり。そんなときに声をかけてくれたのが、私が仕事を通じて知り合った人たちでした。

彼らは「別に学習指導要領通りじゃなくてもいいよね」という考えで、最近だと三平方の定理とかも教えてくれています(笑)。プログラミングも、大学やインターナショナルスクールでプログラミングも教えている物理学者の先生に習っているんです。

子どもの成長は、親でも先生でもない第三者でどれだけすごい人に会えるかどうかにかかっていると思っています。この子がやりたいことに対して、良い人や良いサービス、良い環境を提供することが私の役目かな、と。

ー『BASE』を紹介したのもそのひとつだった、と。きんたろうくんには学校の勉強がどのように映っているんですか?

きんたろう
普通の授業で教わるのは知ってることばかりだからつまらないかな(笑)。でも、友達と相談しながらやれるのは楽しいよ。あと工作の授業も。だから、たまに学校へ行ってる。

お母さん
学校の授業だけが、勉強じゃないんだなって思いますね。よく家のネット環境に制限をかける親御さんがいると思うんですけど、私はかけないんです。全部に触れることで、ダメなものを知るきっかけになるから。ヘンに規則があると、子どもの可能性を狭めちゃうかもしれませんからね。

ー好きなことをとことんやれる環境をつくっているんですね。一方で、最近は自分の好きなことしかできないという子どもが増えてきていると聞きます。お母さんは、そのあたりのバランスをどう考えているんですか?

お母さん
自分でうまくバランスをとっていくんだろうな、と思います。

たとえば、プログラミングだけやっていてもゲームクリエイターにはなれませんよね。ゲームのストーリーが書ける文章力や構成力を身に付けないと。プログラミング以外のスキルを習得しておくと、将来ゲームじゃないことに興味・関心が向いても横展開しやすくなるんですよね。好きなことを軸に横に広がっていけばいいな、と思います。

ーやりたいことが見つかったときにチャレンジできるかどうかって大事ですよね。きんたろうくんは将来何になりたいと思っていますか?

きんたろう
うーん、やっぱりゲームクリエイターになりたいな。大好きなゲームをつくる仕事にチャレンジしてみたい。そのために4年生のうちに一度ゲームはつくってみたいと思っているよ。

ーつくってみたいゲーム、好きなゲームは?

きんたろう
ストーリーが良くて…あ、ちょっとゲームバランスが崩れているのとかも好きだよ。全然倒せない敵がいてムキになってやっちゃうような。最近ハマったのだと『終わらない夕暮れに消えた君(※)』とか。奥が深くてすごくおもしろい。

※2…泣けるアドベンチャーゲームとして話題の作品。タイムリープ系アドベンチャーゲーム『彼女は最後にそう言った』の開発チームによる。

ーすでに、きんたろうくんの頭のなかにオリジナルゲームの構想が?

きんたろう
もちろんあるよ。でもナイショ(笑)。

お母さん
2年前から構想を積み上げてきているからね。

きんたろう
Nintendo DSの『RPGツクールDS』でちょっとしたゲームならつくっているしね。

お母さん
大変なのは私なんですよ。『RPGツクールDS』のこまごまとしたテストプレイは全部私の役目なんです。ストーリーが全部完成してからやるって言ってるんですけど、全然聞いてくれなくて、完成する前に何度も…(苦笑)。

きんたろう
ダメだよ!テストやらなきゃバグっちゃうかもしれないでしょ!

ーホント、しっかりしてますね(笑)。きんたろうくん、お母さん、今日はありがとうございました。

区切り線

ネットショップから、教育、ゲームづくりにまで話が及んだ今回の取材。きんたろうくんの発する言葉のリテラシーの高さ、視点の鋭さは10才とは到底思えませんでした。いつかきんたろうくんがつくり出したゲームをプレイできる日はきっとやってくる。そして、彼のような子どもが世の中の常識を覆していくイノベーターになるんじゃないか。そんな予感をさせられた取材でした。

きんたろうのおみせ

田中 嘉人

1983年生まれ。静岡県出身。静岡文化芸術大学大学院修了後、2008年にエン・ジャパンへ入社。求人広告のコピーライターとしてキャリアをスタートする。その後、Webメディア編集チームへ異動。CAREER HACKをはじめとするWebメディアの編集・執筆に関わる。2017年5月1日、ライター/編集者として独立。

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