今や全世界で活用されているクラウドファンディング。総務省の調査によれば、世界のクラウドファンディングの投資規模は、2012年時点ですでに推計28億ドルを突破。同年に米国で施行された「JOBS(Jumpstart Our Business Startups)法」がその拡大を後押ししていると言われている。
引用:https://teespring.com
JOBS法では、売上高10億ドル未満の企業をEGC(emerging growth companies=新興成長企業)と定義。EGCの投資資金の誘致に関する規制を緩和し、インターネット上で資金を募集できる権利をより簡易に得られるようにした。
クラウドファンディングの草分けとなった「Kickstarter(キックスターター)」も2009年に、米ニューヨークで設立された。同サービスでは今や、1つのプロジェクトで総額10億円を超えるような、大規模調達も行われている。しかし、そのほとんどが法人によるものだ。日本国内のクラウドファンディングサービスでも、総額1000万円を超えるようなプロジェクトは、法人によるものが少なくない。スタートアップ企業にとっては広く薄くファンを獲得できる魅力はあるが、同じように資金獲得を狙う他プロジェクトも無数にある。プロジェクトの成功にはITやマーケティングスキルが求められるようになり、一個人にとって必ずしも敷居が低いとは言えないだろう。
しかし、さすがクラウドファンディング発祥の地米国というべきか。個人でも子供でも、簡単に資金を募ることのできる、特色あるサービスが次々と生まれている。今回は特色のある個人向けクラウドファンディングサービスの中から、カスタムTシャツに特化した「Teespring」を紹介しよう。
Tシャツで一攫千金!? Tシャツデザインに特化したクラウドファンディングサービス「Teespring」
Teespring(ティースプリング)はオリジナルTシャツの製造・販売に特化したクラウドファンディングサービスとして始まった。2011年、米ロードアイランド発祥。当時学生だったエヴァン・スタイツクレートンと友人のウォーカーによって設立された。
Teespring:https://teespring.com/
もともとは、地元の大学生たちに愛されていた、とあるバーの閉店を記念して、Tシャツを作ろうとしたことが始まりだったという。しかし、ウィリアムズが打診した近所のTシャツ店からは、納期は2週間後で、前払いで2000ドルを求められた。2週間後には、バーの閉店やTシャツのことなんて、学生達から忘れ去られているだろう――。そう考えたウィリアムズは、Kickstarterのような簡易サイトを立ち上げることにした。バーの閉店を記念するTシャツの事前購入を募り、予定数に達した場合のみ、そのTシャツを製造することにしたのだ。この試みは大成功し、わずか1週間で十分な資金を調達することができたという。
スタイツクレートンはその後、カリフォルニア州のシードアクセラレータ、Y Combinatorのプログラムに参画。米国の有名VCであるAndreessen Horowitzなどから60億円超を調達し、Teespringのサービス展開を進めた。現在は、Tシャツ以外にタンクトップやトレーナーといったアパレル製品のほか、マグカップやポスター、タペストリー、ベビー服といった様々な製品を手軽にデザインし、販売できる。
同社のサービスは、特別なスキルのあるデザイナーでなくても、簡単に製品をデザインできることだ。米ブルームバーグによると、とあるレストランマネージャーの女性は、1年間で12万ドル(約1300万円)分のTシャツを販売した。また、とある病院の受付女性の販売額は、23万8000ドル(約2600万円)を超えたという。
実際に作ってみた!
特別なスキルがなくても制作できる、というのは本当だろうか。BAMP編集部でも、実際に制作してみることにした。
まず、アカウントを取得後、「Start Desining」をクリックする。
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「Women’s T-shirts」を選択してみた。
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自分用に購入するか、販売するかを選べるようだ。ここでは「Sell」で販売用を選択してみる。
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Tシャツのデザイン画面が表示された。
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昨年、編集部員が訪れたブルックリンの写真を挿入してみた。テキストも自由に入力できる。「Brooklyn」というテキストを入力し、飾り文字にしてみる。
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カラーリングも自由自在だ。
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プレビュー画面で出来栄えを確認。うーん、やはり最初の白がいいかも?と思ったので、戻すことにするが、色は白・ブルー・グリーンの三色を選択できるようにした。
それまでに選択した色が表示されているので、プレビュー画面で簡単に見比べることができる。
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左下の画面で、販売価格を設定しよう。現在は、USとEUで販売でそれぞれ販売価格を設定できるようだ。緑の文字で、1枚当たりの利益が表示されるようになっている。
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なんと、次の画面で簡単に他のプロダクトも追加できるようになっているではないか!
ついトートバッグも追加してしまった。
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こちらで終了。商品名とディスクリプションを入力して完成だ。
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特にデザイン知識もなく、イラストレーターやフォトショップといったツールも使わずに、Tシャツをデザインすることができてしまった。少しツールが使える人であれば、もっと様々なデザインを楽しむことができそうだ。
最初は電話営業をしていた
しかしながら、顧客獲得については、当初の見込みはまったく当てが外れてしまった、とのこと。結局のところ、「いいね」数が多いフェイスブックを持つ団体や個人によって、サービスの認知度が広がっていったという。
もともと、クラウドファンディングの認知獲得には、SNSの活用が有効だとされている。クラウドファンディングは、単なる物品購入とは異なり、少なからず「応援」や「共感」の要素が含まれているからだ。より多く「応援」や「共感」を集められたプロジェクトが成功し、調達額も大きくなる傾向がある。SNSの「いいね」も共感を測る指標の一つといえるので、言い換えれば、「いいね」を集めやすいクラファンは調達額も大きくなりやすい、と言えるだろう。
「Teespring」もスタート時のコンセプトとして、こうした応援要素を「ある一定数以上の発注がないと、Tシャツを販売開始できない」という仕組みにして取り入れた。いわば「All or Nothing方式」のTシャツ特化型クラウドファンディングサービスだったのである。
著作権侵害や人種差別につながりかねないリスクも?
誰でも簡単に、Tシャツやアパレル製品を作れる「Teespring」。しかし、それゆえの問題も起きている。
例えば、インターネット上に掲載されているデザインや写真を勝手に使用し、販売してしまえば、即著作権侵害などの犯罪につながりかねない。著作権フリーの画像ダウンロードサイトに掲載されている画像であっても、商用利用は禁じられていることがほとんどだ。また、人種差別につながりかねないようなデザイン、文言を用いた製品も発売されれば、当然に問題になる。
事実、2016年以降「Teespring」はたびたびこうした問題に見舞われている。一般的に販売されているTシャツの中にも、まれにぎょっとするようなデザインのものを見かけることがある。しかし「クラウドファンディング」という共感を元にしたサービスで生産されている以上、ヘイトや人種差別といった負の「共感」もSNS上で拡散される可能性が高い。
ひとたび、こうした「炎上」が起こってしまうと、掲載した個人、クラウドファンディングサービス事業者双方の責任を問われる可能性がある。個人としても注意が必要なのは言うまでもないだろう。