コラム

フリーペーパーの新星『鶴と亀』が画期的な方法で写真集を売る理由

田舎に住む“イケてる”じいちゃんばあちゃんの日常を切り取った『鶴と亀』というフリーペーパーがある。日本有数の豪雪地帯として知られる長野県・飯山市に住む小林兄弟(兄=徹也、弟=直博)が2013年に創刊し、現在までに4冊を刊行。発行部数は1万部で、全国各地の書店やカフェ、ゲストハウスなどで配布している。

地方にいるイケてるじいちゃん、イケてるばあちゃんをスタイリッシュに発信。ここ地方でしか出来ないものを、ここ地方から発信。地方はおもしろくない。もう、そんな時代じゃない。発信源は奥信濃。
引用:「鶴と亀」公式HP

地域活性の文脈で語られることの多いフリーペーパーだが、田舎の日常をストリートカルチャーの視点で切り取ることで、これまでに見過ごされてきたようなローカルの魅力を提示する同誌。テレビ・雑誌・ウェブでもたびたび話題を集め、今夏配布予定の最新号にも熱い視線が注がれている。

今や全国各地に熱烈なファンを持つまでになった『鶴と亀』だが、さらなる一手として、敬老の日にあたる9/18(月)には、Eコマースプラットフォーム「BASE」を利用し、これまでのスナップから抜粋した集大成としての写真集『鶴と亀 禄』も刊行予定だ。

精力的に作品づくりに励む一方で、米づくりと消防団での活動も同時にこなしてきた小林兄弟の弟・直博さんは、着実にステップアップしてきた『鶴と亀』の現在地をどのように捉えているのか。これまでの歩み、そしてこれからについて話を聞いた。「生きるために100の仕事を持つ“百姓”」。それが今回のインタビューのキーワードだ。

プロフィール
小林 直博(こばやし・なおひろ)
編集者兼フォトグラファー。1991年生まれ。ばあちゃん子。生まれ育った長野県飯山市を拠点に、奥信濃らしい生き方を目指し活動中。
http://www.fp-tsurutokame.com/

『鶴と亀 禄』直販兄弟募集サイト

その土地でしかできないことに意味がある

小林さん、こんにちは。まず、『鶴と亀』のことを知らない読者のために、どんな思いでつくっているフリーペーパーなのか教えてください。

「『鶴と亀』は、田舎のじいちゃんばあちゃんをかっこよく発信するというコンセプトのフリーペーパーです。自分がヒップホップ好きなので、ストリートカルチャーの世界観で田舎の日常を切り取っています。田舎なんて何もないと思ってしまいがちだけど、どんな土地の暮らしにもかっこいい生き方はあるんだ、ということを伝えていけたらいいなと」

小林さんはじいちゃんばあちゃんのどんなところがかっこいいと思いますか?

「やっぱり一番は生活力があるところですかね。奥信濃のじいちゃんばあちゃんって、米でも野菜でも、自分が食べるものはなんでもつくれるんですよ。壊れた道具だってすぐに直しますし。僕はそういうかっこいいじいちゃんばあちゃんたちに囲まれて育ったんですよね」

友達以上にじいちゃんばあちゃんが身近な存在だった?

「そうですね。自分は今でもそうなんですけど、超がつくほどのばあちゃん子なんです。同級生の家まで歩いて1時間とかそういう場所ですから、小さい頃の遊び相手はいつも自分のばあちゃんか、近所のじいちゃんばあちゃんたちでした」

都会に憧れた時期はなかったんですか? 今26歳ということですが。

「めっちゃ憧れてました。学生時代は都会で生活してましたし。でもなんていうか、都会のストリートカルチャーにはすごい刺激を受けたんですけど、それを消費するだけで何も発信できていなかった自分がいやになったりとかもあって」

都会から発信するということは考えなかったんですか?

「その選択肢もあったかもしれないんですが、やっぱりばあちゃんの漬物を食べたかったですし、結局大好きな家族が住んでる飯山に帰ってきちゃいましたね。生まれ育った土地で、その土地でしかできないことをやる。そうすれば、地元の田舎をもっとかっこいいと思えるようになるかもしれないと思ったんです

関係性を生かして、その先を目指す

 

今回、満を持して写真集『鶴と亀 禄』を出されますね。

「そうですね。これまで『鶴と亀』では、制作から営業までのほとんどすべてを自分と兄の2人でやってきたのですが、今回の写真集では、声をかけてくれたオークラ出版さんをはじめ、売り方やデザインの部分でプロの力をたくさん借りています。みんなの力を生かしながら、これまで以上におもしろいことをやりたいなと」

BASEを利用した売り方もユニークです。

「売り方のアイデアをくれたのは、『鶴と亀』創刊号のときからお世話になっている『かもめブックス』の柳下恭平さんですね。柳下さんは、誰でも本屋になれる仕組み『ことりつぎ』や、セレクト本のウェブ販売『かもめブックス外商部』など、新しい本の売り方を次々と実践している方です」

柳下さんの活動はBAMPでも以前紹介したことがあります。

東京・神楽坂にある書店「かもめブックス」店主の柳下恭平さん。

▼参考記事
「誰でもどこでも本屋になれるようにする」本を愛する男の小さな声
https://bamp.media/interview/negishi01.html

「今回の取り組みはその柳下さんが考えたもので『直販兄弟』といいます。僕の写真集を熱意を持って売ってくれる『特約店』を募集して、その権利を販売するんです。たとえば、長野だったら○箇所、東京だったら○箇所、北海道には○箇所というようなかたちで、20冊=29808円の販売権利を『商品』としてラインナップします。

書籍版になったとしても、奥信濃のストリートの熱量を冷まさないまま、みなさんに写真集を届けたいなと思って、全国各地のあらゆるジャンルのお店に本を置いてもらうことを目指した今回のような売り方を考えました。既存の流通システムのように大から小への規定の枠組みで動くんじゃなくて、小から大へと拡がるようなストリートからのムーブメントをつくれたらなと。

ちなみに、『特約店』同士は、写真集を一緒に広める『兄弟』という位置づけです。BASEの仕組みを利用すれば、どこの地域に『特約店』が多く成立していて、どこの地域にはそれが少ないのかといったことも可視化できるので、兄弟同士が連携して売れていない地域をフォローしてくれたらうれしいですね」

この権利は個人でも購入できるのですか?

「できます。ただ、一回きりの仕入れと販売だけではなくて、継続的にどんどん売っていってほしいという思いがあるので、基本的にはお店を想定しています。これまで『鶴と亀』の営業活動では、自分が本を置きたいお店だったり、置きたいと言ってくれているお店に配るということをずっとやってきました。

饅頭屋さんや整骨院、スケートボードショップなど、本屋さんじゃないところにたくさん置いてもらったおかげで人脈が広がったり、反響をもらえたりということがあったので、今回の写真集もその延長にあるような届け方ができたらいいなと。ここからたくさんの横のつながりが生まれたらいいですね」

すべては、地元で生きるために

フリーペーパー、そして写真集と、着実に次の段階に向かっていますね。飯山を舞台に表現活動をしていくということは、これからも変わらないのでしょうか?

「『鶴と亀』に関していえば、今の自分が飯山という土地で生きていくために必要だからやっているという部分はありますね。ただ、それは地元にとってやらなくてもいいようなことでもあり、それをやらせてもらってる意識もそれなりに持っています。大好きなばあちゃんがいて、近所の人たちがいるから今の自分があるということに感謝しながら、本当に地元にとって意味のある恩返しができたらいいなとは思っています」

これからもずっと地元に住んでいくんですか?

「はい。死ぬまで飯山で生活していこうと決めています。だから、そのために必要なことは何でもやろうと思っています。だから、消防団もやりますし、米もつくります。人や地元との関係性をつくる仕事だったら何でもやっていきたいんです。人は一人では生きられないというのが、僕のなかの根っこにあるので

あと、生きるためには何でもやるということも大事だと思っています。『百姓』って100の仕事をこなす人っていう意味があるじゃないですか。何でもできる地元のかっこいいじいちゃんばあちゃんを見ていたら、そういう百姓的な生き方が今の時代には大切であることにも気付かされます。

『鶴と亀』をつくることも100の仕事のひとつというような感覚で、これからもいろんなことに挑戦していきたいですね」

『鶴と亀 禄』直販兄弟募集サイト

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根岸 達朗

「TAOH」という3人組みのバンドをやっています。ギターを弾いて歌ったり、踊ったりします。

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