国産デニム発祥の地・岡山で2015年9月に生まれた「EVERY DENIM」は、店舗を持たず全国各地で販売会を行うデニムブランドです。
ブランドを生み出したのは、山脇耀平さんと島田舜介さんの兄弟。二人は経済誌「Forbes」による「アジアを代表する30歳未満の若者30人」への選出や、「ガイアの夜明け(テレビ東京)」での特集など、多数のマスメディアに取り上げられています。
驚くべきことに、2015年のブランド立ち上げ時、二人は大学生。学生にして、世間から注目を集めるブランドの立ち上げを経験しているなんて、相当のキレ者では⁉︎
そして、今年7月に行ったクラウドファンディングでは、移動販売のためのキャラバンの購入資金として約776万円の資金調達に成功。活動はさらに広がりを見せています。
彼らが周りの大人たちを巻き込みながらブランドを大きくしてきた裏側には、二人の冷静な自己分析と「好かれ力」の存在がありました。その能力は天性のもの? それとも…?
秘密を探るべく、「EVERY DENIM」の弟・島田舜介さんに話を伺いました。
プロフィール
島田舜介(しまだ・しゅんすけ)
学生2人がブランドを立ち上げられたわけ
こんにちは。島田さん、写真での印象よりもずっとお若い!
ありがとうございます(笑)。
ブランド立ち上げ時、お二人ともまだ学生だったんですよね。
はい。僕は今も岡山大学に通いながらデニム作りに携わっています。
大学生と経営者、2つの顔をお持ちなんですね! でも、どうしてブランドを立ち上げようと思ったんですか?
元々、ジーンズ専門ウェブメディア「EVERY DENIM MAGAZINE」を兄と制作していたんです。そのメディアで、ジーンズ工場を取材させていただいたのがきっかけでした。ジーンズ工場って、大きなメーカーの下請け的なところが多いんです。だから、工場で新しい技術を開発しても、メーカーの求める予算や利益率を超えていると商品には採用されないんですよね。取材をしていくなかで、そんな業界の構造に気づきました。だから、工場発のブランドをつくれば、技術を活かして面白い商品を生み出せるんじゃないかと考えたんです。
なるほど。具体的にはどんな商品を…?
首里城の屋根瓦にも使われている染料「ベンガラ」は、岡山県高梁市が原料の生産地。ベンガラ加工のジーンズをつくることで、土地の魅力を含めて発信できるのでは、というのが最初のアイデアです。
めちゃくちゃ戦略的だし、地域のことも考えている…!
最初のメディアの取材で工場を回った経験は、現在の製造工程にも活かされていて。「EVERY DENIM」のジーンズは、岡山県内にある数社の分業制でつくられているんです。今いるこの場所は、ジーンズの制作過程の一つ、「洗い」をお願いしている「ニッセンファクトリー」。生地の織りは「ショーワ」をメインに他数社、縫製は「橋本被服」へ依頼しています。僕たち兄弟が関わるのは企画・販売の部分。パタンナーさんと制作した仕様書を元に工場へ発注し、製品ができあがります。
普通はデザイナーさんがいて、工場はその指示通りに作るケースがほとんど。僕たちのように工場とコミュニケーションをとりながら作っているのは、珍しいケースだと思います。
工場との密な関係があるんですね。
たぶん、出会いが取材で、「皆さんの仕事に興味があるんです」というところから入っていったのがよかったのかなと。学生の僕たちが、いきなりビジネスとして「ジーンズを作ってください!」と言ったら受け入れられなかったと思います。ただ、いざ作ろうという際に「お金」がネックになりました。いくら関係性があっても、学生の僕たちに資金があるのか工場側は心配じゃないですか。そこで、ベンガラ加工のジーンズの制作資金を募るために、1回目のクラウドファンディングを立ち上げたんです。
二度のクラウドファンディングでの学び
最初のプロジェクトでは、どのくらいの資金が集まったんですか?
目標金額の2倍以上、計209万6000円が集まりました。当時は知り合い全員に連絡しましたよ。卒業してから一度も連絡してない中学の同級生にまで(笑)。支援者の7割くらいは知り合いでしたね。
とはいえ、それだけの人望と営業力があったということですね。あれ、そういえばベンガラ加工のジーンズって、今のEVERY DENIMの商品ラインナップに入っていないような……。
よくぞ気づかれましたね(笑)。数字だけ見れば最初のクラウドファンディングは成功に見えますが、いろんな反省点はあって。なんといっても、初回のクラウドファンディングでは100%自分たちの満足のいく製品に出来上がらなかったんです。
一体どんな問題が?
パターンづくりから生地選び、縫製までを一貫して一つの工場にお願いしていたんです。現在のように、三社の分業ではなく。
つまり、全体の細かな仕上がりを自分たちでコントロールできてなかったんです。その結果、できあがった製品に消化不良な感じがあって。パターンをつくり直そうと思ったのですが、一度つくった製品の分業の流れを変えるのは業界的にタブー。知識不足で、業界では当たり前のルールを知らなかったんです。
それで自分たちが全体をハンドリングできるよう今の形に?
はい。ひとつひとつの工場との付き合いの量を意識的に増やして、お互い納得がいくようしっかり話し合う機会を設けるようになりました。
他にも2回目のプロジェクトに活かされた反省はありましたか?
「ダサさ」の払拭ですかね(笑)。初回のプロジェクトページを改めて見た時に「いけてない」と思って。デザイン面をなんとかしようと、2回目ではデザイナーさんの力もお借りしてプロジェクトページを作りました。
確かに目を引くデザインでした! まず一度、全力でチャレンジしてみて、反省点を次に活かすというのは大事ですね。
ものづくりに関しては、やってみないとわからない部分が本当に多いと思います。
「島田くんたちは業界のしがらみを突破してくれた」
工場との関係性を大切にしているという「EVERY DENIM」。
ここで、「EVERY DENIM」のジーンズの洗い加工を担うニッセンファクトリー代表・難波眞さんにもお話を伺いました。
昔は業界に閉鎖的な雰囲気がありました。工場の技術を外部には見せなかったり、特定のブランドの仕事しか受けなかったりね。そこに新しい風を巻き起こしたのが島田くんたちなんです。
タブーを打ち破ったジーンズ界のホープというか。
年齢だけは断トツに若いので(笑)。
若さだけでなく敵をつくらない彼のキャラクターもあって、業界の変なしがらみを突破しているんです。それに、消費者の志向が変わってきていることも大切な要素ですね。今の時代、商品を大量につくって並べたところでなかなか消費者は買ってくれない。衣料品を買ってもすぐに売ったり、レンタルしたり、シェアすることも多くなっていますよね。だから既存の形で大量生産をするものづくりは、とてもしんどくなってきているんです。
やみくもに沢山つくるだけでは売れない時代なんですね。
昔は「ジーンズの最低ロットは500本から」という世界でした。それが今や、工場の側も「面白い取り組みだから1本からやりますか!」と言うような新しい流れが来ています。インターネットの発展も相まって、過去100年くらい続いてきたものづくりの感覚が変わってきているんじゃないかな。
僕たちは、たまたまいいタイミングで飛び込んだと思いますね。5年違っていたら、最初からつまづいていたかもしれないです。
島田くんたちとの仕事は面白いですよ。彼らだけでなく、もっといろんな若い人たちと組んで、「共感」を生む新たなものづくりの形をつくっていきたいなと思っています。
「やりたい場所」「あいたい人」のリストアップ化
「EVERY DENIM」は販売スタイルも特徴的ですよね。店舗を持たず、全国各地で販売会を行うという。
「雑多なコミュニケーション」がとれる場所を選んで販売会をしていますね。例えばゲストハウスのラウンジ。人の出入りがあって、通りすがりのお客さんでも気軽に「何してるの?」と話しかけやすいので。どんと構えてある店舗に入るのって、お客さんからしたらハードルが高いと思うんです。入りにくいし、喋りにくい。だから僕たちは、どこかのスペースの一角で、ジーンズと一緒に椅子とビールがあって……みたいな気楽な感じを心がけています。
ブランドの店舗を構えていないのも同じ理由ですか?
はい。お客さんが来てくださるのは、大なり小なりお店に興味があるからですよね。でもブランドを立ち上げて間もない僕たちは知名度がない。まだ気づいてもらってもいない段階で、いきなり店舗を構えるのは得策じゃないなと。
ご自分たちに関して、かなり分析されたんですね。
ブランド設立時には、どうしたら僕たちのことを知って、気に入ってもらえるかを考えました。「地方で活動している」「若い兄弟」「ものづくりを大切にしている」など、自分たちの要素を分解して、親和性の高い場所をリストアップしたんです。それから、「会いたい人リスト」もつくっていましたね。
え、どんなリストなんですか?
「EVERY DENIM」の購買層になり得る、発信力がある人のリストです。リストアップの基準は「消費の仕方」。モノを購入する際にストーリーを大切にする方ですね。そして、その人たちに会いに行きました。
行動力がすごい! 例えばどんな方に?
ウェブメディア「灯台もと暮らし」を運営する鳥井弘文さんです。鳥井さんが企画・登壇するイベントには全て行って来いと兄に命じました(笑)。
全てですか!
参加者の少ない早朝のイベントに行けば目立つと思って、当時兄が住んでいたつくばから東京まで行ってもらったこともあります。実際、そのイベントで鳥井さんと話したことがきっかけで「EVERY DENIM」に注目していただきました。2回目のクラウドファンディングに挑戦したのは、「灯台もと暮らし」と一緒に理想のデニムを考えるオンラインサロンを開いたのがきっかけです。
分析力もさることながら、島田さんは大人を巻き込む力に長けているなと感じます。ブランド立ち上げ前のメディアの取材でもそうですが、人の懐に入っていくのが上手ですよね。
どうしてでしょうね。思い当たることといえば、高校の時は帰宅部で、特定の友達とつるむことがなかったんです。ひとりでクラスのいろんなグループの輪に顔を出すタイプで。女の子とも仲が良くて、女子トークに混じって「その話わかるわー」と共感することもありました(笑)。
人当たりのよさがすごい…!
クラウドファンディングから広がった客層
2回目のクラウドファンディングを終え、メディア露出も増えましたよね。反響はいかがですか?
ジーンズの生産自体は粛々と行っている感じです。ただし、メディアの反響が想像の何倍もあって……。特に、「ガイアの夜明け」ですね。僕たちが取り上げられた回の放送後、一瞬でうちのECサイトのサーバーが落ちてしまいました。ただ、それも想定済みだったんです。
え、そうだったんですか?
はい、テレビの反響の大きさを考えると、自社サイトのサーバーでは耐えきれないだろうと予想していました。だから、テレビを見た人の商品注文は、クラウドファンディングで利用したCAMPFIRE経由になるように計画したんです。つまり、番組の放送前にクラウドファンディングをスタートし、商品をリターンとして用意しておく。そうすれば、注文が殺到しても、CAMPFIREのサーバーが受け止めてくれる。「ガイアの夜明け」の出演は半年以上前から決まっていたので、プロジェクトをスタートするタイミングは、戦略的にテレビ放映の時期と合わせました。
戦略家ですね…! 番組の放映中、注文の動きはいかがでしたか?
3秒に一度のペースで注文が入っていましたね。兄と放送をリアルタイムで見ながら、副音声的な位置づけでライブ配信を行いながらページを見ていたんです。なかでも、番組内で制作過程が取り上げられた「Brilliant」の注文が圧倒的に多くて。
3秒に一度! メディアに取り上げられたことで客層も広がりそうですが。
以前はふたりとも大学生だったこともあって、対企業の支持はあまり得られていない印象がありました。ですが、メディアに取り上げられたことで、B to B の依頼が増えたんですよ。今もちょうど企業からユニフォームの依頼をいただいたところで、これから企画が動き出しそうです。
自ら足を運び、できることは全て実行する現場力の高さ。分析力にたけ戦力的でありながらも、どこか助けたくなる隙がある。
その隙が好感を呼ぶのは、常に彼らが「僕たちは完璧じゃない。だから工場に学ばせてもらう」という謙虚な姿勢をとっているからではないでしょうか。
実際にお会いした島田さんは、誰もが好きにならずにはいられない笑顔と人当たりの良さがとても印象的でした。
「あ、この人の力になりたい」「この取り組みを応援したい」という気持ちが、ブランドの成長を後押しするのでしょう。
現在、キャラバン「えぶり号」による移動販売の準備をすすめる「EVERY DENIM」。
持ち前の好かれ力とユニークさで、全国各地にファンを増やしていく彼らの活動から目が離せません。
▼EVERY DENIM
http://store.everydenim.com/
キャラバンで「移動型販売」をしたい!デニム兄弟が新しい小売りにチャレンジします!
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- 支援総額
- 7,760,800円(372口の支援)
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- 内容
- 兄弟2人で立ち上げたブランド「EVERY DENIM」の新たな取り組み「移動型販売」。その移動をともにする"キャラバン"の購入資金を募ります。
- プロジェクトURL https://camp-fire.jp/projects/view/27012
※クラウドファンディングにご興味のある方はCAMPFIREにお気軽にご相談ください。プロジェクト掲載希望の方はこちら、資料請求(無料)はこちらから。