コラム

グループホームの手仕事が生きがいに。おばあちゃんがつくる防寒着「ねこ」の話

「たいせつなひとを、おもいだすとき」

「私の大切な人は誰だろう…?」とハッとするキャッチコピー。ミシンを操るおばあちゃんの横顔が印象的な「いずみのおばあちゃん縫製所」は、『BASE』のショップのひとつです。

ショップに並んでいる商品は、長野県南木曽(なぎそ)町で昔からつくられている防寒着「ねこ」。


半纏と違って袖がないのが特徴。


「ねこ」はリュックを背負うように着る、背中を温める防寒着です。(写真:小林直博)

主に水回りで活躍していたという「ねこ」は、袖周りが邪魔にならないスッキリとした構造になっています。
コンパクトながらしっかり背中を温めてくれるのがポイント。例えば、長時間外にいるシーンでコートの下にベスト代わりに着たらかわいいはず!かわいい和柄を裾からチラ見せしたらオシャレじゃないですか?!

防寒具「ねこ」を販売する「いずみのおばあちゃん縫製所」とは、いったいどんなお店なのでしょうか?

やってきたのは長野県茅野市にある「グループホームいずみの(以下、いずみの)」。認知症を患った方々が生活を送る施設で、現在18名が入居されています。

「いずみのおばあちゃんの縫製所」は、この「いずみの」のスタッフと入居者で運営しているオンラインショップなのです。

そしてお話を伺ったのはこのお二人。

山田智大さん(写真右)は、長野県茅野市で「いずみの」を含む3つの老人ホーム・グループホームを運営する「株式会社リゾートケアハウス蓼科」の職員。「いずみのおばあちゃん縫製所」のショップオーナーを務めています。

みゆきさん(写真左)は、「いずみの」の入居者。ショップのヘッダー写真でミシンをかけていた方で、「ねこ」の制作に携わっています。

「ねこ」の制作は入居者による分業制。「ねこ」をつくって販売することは、グループホームのおじいちゃんおばあちゃんが張り合いを持って生活を送るためのスパイスのような役割となっています。

今回は山田さんとみゆきさんに、「ねこ」をつくり、ネット販売をするようになった経緯や、販売方法にこめた想いついて伺いました。

材料は、各家庭それぞれの思いが見える生地


いずみのの玄関でお出迎えしてくれる「ねこ」

ー実は2年前にFacebookで「いずみのおばあちゃん縫製所」のリンクを目にしました。思わず自分のおばあちゃんと重ねて感動しちゃったんです。そもそもどうして「ねこ」をつくり始めたんですか?

山田
きっかけは「いずみの」のスタッフのおばあちゃんがつくっていた「ねこ」を見せていただいたことです。

みゆき
そうそう、その方がつくり方を教えてくれたのよ。つくり始めたのは、2年くらい前かしらね。

山田
なんとなーく「ねこ」をつくろうと決めて、入居者のご家族の方やスタッフ中心に「古い着物やいらない布を譲っていただけますか」って呼びかけたら、一気に材料が集まったんです(笑)。


(写真:小林直博)

みゆき
いいお着物をいただいた時は、職員さんたち大騒ぎ(笑)。「素敵ね!どうかしら?」って着物を羽織って引きずりながら歩き回るんですよ。

山田
みんな喜んでいたよね。いただいた着物はきっと誰かが大事にしていたもので、ストーリーがあるなって思ったんです。

「分業制」でできることを、できる分だけ


(写真:小林直博)

ー「ねこ」は主にみゆきさんがつくっているんですか?

山田
「ねこ」は、「いずみの」に入居している方々で分担してつくっているんですよ。

みゆき
ええ。私はね、ミシン専門で作業をしているのよ、ふふふ。

山田
うんうん、みゆきさんはミシンが得意だもんね。ねぇみゆきさん、他にはどんな作業があるんだっけ?

みゆき
まず着物をとくでしょ。それからアイロンをかけて型をとる。裁断してミシンで縫い始めて…。あら、紐をつけて綿も入れなきゃね。


(写真:小林直博)

山田
といっても、誰がなにをやらなければならないということは決めていないんです。みなさんそれぞれができることを、できる分だけやってもらっています。

ー「それぞれができること」ですか。

山田
そう、あっちでは着物をほどいたり、こっちでは型をとっていたり、ホーム内の至るところで各々が作業をしています。「着物をとく工程で出た糸を回収する」みたいに、ひとつの作業をさらに細分化することもありますね。手を動かすことが難しい方は、「おやおや、作業はどんなだい?」なんて応援する係にまわることもあるんです。

ーなるほど!どんな小さなことでも、役割があることでモチベーションがあがりそうです。制作意欲を引き出したり、楽しく手を動かしてもらうために、スタッフ側が意識していることはありますか?

山田
例えば、着物をとくときに「着物ほどきますよ!」っておばあちゃんたちにそのまま呼びかけたら、あまり意欲的にならないんです。スタッフが着物を広げて、不器用ながらほどき始めると「いやいやなにやってるんだ、その手つきはなんだ!」っておせっかいから作業が始まります(笑)。

ー若者をほっとけないおばあちゃんの気持ちが伝わってきます。

山田
あとは基本的なことで、「ありがとう」とか「いいね、いいものができたね」と感謝を口に出して伝えることが、おばあちゃんたちのモチベーションにつながりますね。「ねこ」の売れゆきが悪いと全体のモチベーションがさがっちゃうので、そんな時は違う商品をつくったり、畑で土をいじったりすることもあります。


「ねこ」の他につくっている商品のひとつ「ふくさ」。『BASE』での販売も考えているそうです。

みゆき
私はすぐに夢中になっちゃうから、一日中ミシンをやっちゃうこともあるの。若い時から洋裁も和裁もなんでもやっていました。冬に農家のひとに編み物を教えたり、大きい会社の女子寮で教えたり。何十年も教える側でしたのよ。

山田
みゆきさんは4年前にここに来たときよりも、ミシンをいじるようになって元気になったんだよね。表情が全然違うもん!

みゆき
次から次へとやることがあって、常にいそがしいの(笑)。でも寝ないでもいいくらいやりたいわ!言われたらなんでもつくりますから。それがおもしろくてしょうがないの。

山田
「ねこ」が売れたお金で、みんなで浸けた漬物を入れる蔵や、農機具を入れる物置を買いたいって言っていたよね。そういう野望があるみたい。

伝えやすく、運用しやすく。販売はあえてオンラインで。


(写真:小林直博)

ー『BASE』を使ってオンラインで販売をしようと思ったのはどうしてですか?

山田
ネットを使わず直接販売することも、もちろんありだと思っています。だけど僕たちのグループホームってスタッフの人数が少ないから、外に出て物販をするとなるとオペレーションが回らなくなってしまうんです。だからまずは、この中にいてできることから始めました。

ーなるほど。確かにイベントなどで物販をするとなると、準備や人員確保が大変ですよね。

山田
オンライン上なら、発注がきて郵送する一連の作業が、ホーム内で完結しますし、少ないスタッフでも運用ができるんですよ。郵送するのも封筒で送れちゃうから手軽です。

ー他にネットショップを運営していて気づいたことはありますか?

山田
実際、対面でも販売してみましたが、「誰がつくっているんだよ」とか「こういう風につくっているんだよ」ってその場で伝えるのが難しいなと思ったんです。「施設でつくっています!」という切り口での販売も、しっくりこなくて。

だから、「ストーリーを想像して買ってもらう」ということを考えました。そのために、いろんな「余白」をつくっているんです。例えば、サイトで商品説明を最低限にして、どんな人がつくったのか想像したくなるような部分をあえて残しました。サイトのヘッダー写真のおばあちゃんも、自分のおばあちゃんの姿に照らし合わせて貰えたらなって。

商品を実際に手に取れないネットショップだからこそ、いろんな想像を膨らませて買ってもらうやり方もありなんじゃないかと思っています。

「誰かの思い出の着物が、おばあちゃんの手しごとで、あなたの新しいものがたりの背中をあっためます。」

記事冒頭のキャッチコピーには、こんな説明文が続きます。

元々どんな人が使っていたんだろうか、と手にした商品に思いを巡らせたくなるシンプルな店舗の説明。
いずみのおばあちゃん縫製所」を通して自分なりのストーリーを想像することで、物を大切にするきっかけになりそうです。

取材中「今度はつるし雛をつくってみたいのよ」と目を輝かせながらこっそり小声で教えてくださったみゆきさん。

「ねこ」の制作現場は、眠っていた着物や反物のリサイクルとしての役割はもちろん、「得意分野を活かしたい」というおばあちゃんたちの、隠れた意欲を引き出す場にもなっているように感じました。

いずみのおばあちゃん縫製所
  • 長野県南木曽町の伝統的なちゃんちゃんこのような防寒具「ねこ」を販売するショップ。「ねこ」は着物をリメイクし、グループホームのおばあちゃんたちが手づくりしています。誰かの思い出の着物が、おばあちゃんの手仕事で、あなたの新しいものがたりの背中をあっためます。
  • BASE「いずみのおばあちゃん縫製所」

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ナカノヒトミ

長野と東京を行き来したり、全国各地を飛び回ったりしています。
休日は日光を浴びずに、漫画喫茶に行きたい。

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