四方を海に囲まれ、古くから豊かな海の幸が食卓に上ってきた日本。しかし近年、水産業の現場は人材不足に陥っている。漁業人口はここ20年で半減したともいわれ、高齢化も深刻だ。
そんななか、世界三大漁場の一つ・三陸から、水産業に革命を起こそうとしている集団がいる。それが、2014年に活動を開始した「フィッシャーマン・ジャパン」だ。
彼らは水産業に関わる人を新たに「フィッシャーマン」と呼び、「2024年までに三陸でフィッシャーマンを1000人増やす」と宣言している。そして、水産業のイメージアップや雇用の創出、新たな流通の開発を目指し、さまざまなプロジェクトを展開してきた。
なかでも2017年5月に発表された、漁師によるモーニングコールという前代未聞のサービス「フィッシャーマンコール」はSNSを中心に大きな話題を呼び、テレビ・ラジオ・Webの計166メディア(2017年6月現在)で紹介された。フィッシャーマンコールの裏側から彼らの目論む「水産業革命」の全容まで、話を伺った。
プロジェクトデータ
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- プロジェクト名
- 漁師の夢、ついに実現!東京中野に現れた『宮城漁師酒場魚谷屋』 応援団を大募集!!
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- 支援総額/目標
- 4,933,000円/3,000,000円(目標の164%・329人が支援)
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- 内容
- 「生産者の思いをダイレクトに伝えるためのライブステージが欲しい」という長年の夢を叶えるために、フィッシャーマン・ジャパン直営の飲食店をオープンしたい
- プロジェクトURL https://camp-fire.jp/projects/view/6777
フィッシャーマンとは、活動に関わるすべての人のこと
フィッシャーマン・ジャパンの始まりは、東日本大震災後の2012年にまで遡る。復興関連の仕事で宮城県石巻に移住したヤフー社員の長谷川琢也さんと、とある地元漁師との出会いがきっかけだった。
地元で漁師をしている阿部勝太さんの想いに触れる機会があったんです。「震災からの復興だけでなく、漁業をとりまく環境を変えて、未来へ繋げたい」。そんな阿部さんの想いに共感しました。ただ、僕はよそ者で、阿部さんもまだ20代。まずは地元で水産業に関わる人たちに会い、話をするところから始めました。すると、同じような問題意識を持つ人が他にもたくさんいたんです。漁師や水産業者だけでなく、カメラマンやデザイナーのような異業種からも、僕たちの想いに賛同してくれる人が現れました。そんな人たちを集めて、2014年にフィッシャーマン・ジャパンを結成しました。
私はもともと東京の美大生だったんですが、母親が石巻出身で。震災後にIターンしていたときに長谷川たちと出会い、メンバーに加わりました。肩書きはアートディレクターですが、私も「フィッシャーマン」なんですよ。
「フィッシャーマン」とは、漁師だけでなく水産業に関わる人すべてを指すんですよね。あえて幅広い意味をもたせたのは、どのような意図があったんでしょう?
多種多様な人を巻き込みたかったんです。さまざまなスキルを持った人が集まることで、より大きな活動ができますし、横のつながりも生まれます。それに、新しい名前をつけることで、今までの水産業に関するイメージを一新したいという思いもありました。漁師を目指す若者が減っているのも「3K=汚い、きつい、危険」という悪いイメージがあるから。僕たちは「若くて、カッコよくて、稼げる」という新たな職業像を作りたくて、「新3K=カッコいい、稼げる、革新的」という理念を掲げています。
フィッシャーマン・ジャパンのHPを見ると、写真や動画も今までにないカッコよさですよね。
ビジュアルのイメージにはこだわっています。実際、漁師さんたちの働く姿ってとってもカッコいいんですよ。私も船に乗せてもらって漁について行くことがあるんですが、素敵な写真ばかり撮れるので、最近どんどんinstagramのアルバムが魚くさくなっていて…(笑)。
顔が見える食堂をクラウドファンディングで作った
フィッシャーマン・ジャパンは、具体的にはどのように活動しているのでしょう?
大きくは「担い手の育成事業」と「販売事業」の2つに分けられます。前者には、漁師が活動する拠点を作り、漁師の体験教室などをおこなう「TRITON PROJECT」や、水産業に特化した求人サイト「TRITON JOB」があります。後者では、輸出やインバウンドをおこなう海外事業、生産者と消費者を直接つなぐ通販事業、そして飲食事業。この販売事業では、水産物の流通を「顔が見える」ものに変えたいと思っているんです。いままで、ほとんどの水産業者がメーカーや市場に食材を卸した後、誰が、どんな風に食材を食べているのかわからない仕組みになっていました。食べる人の顔が見え、反応が返ってくるほうが、生産者のモチベーションも上がるはず。そんな思いから、直営する飲食店を作ったんです。
今日の取材場所である「魚谷屋」ですね。ここで使われている食材は、フィッシャーマン・ジャパンに参加する生産者のものということですが。
はい、まずは美味しく食べてもらい、フィッシャーマンを身近に感じてもらいたいと思っています。月に一回は漁師が店に来てイベントをおこない、交流できる機会も作っています。さらに、料理人を増やす狙いもあります。新鮮な食材を適切に調理できる料理人が増えることで、水産物を食べてもらえる機会を増やしたいんです。
今日は、今年に入ってまだ11本しか水揚げされていないという貴重なサケ「マスノスケ」の競りをするイベントがありましたね。競りの雰囲気を味わったり、漁師さんと話して魚にまつわる知識が増えるのも楽しかったです。このお店を作る際には、クラウドファンディングを利用したんですよね。
そうですね、思っていた以上に支援をいただきました。支援金額が伸びていくさまが、私たちの活動への共感が連鎖して広がっていくように感じられて、とても嬉しかったんです。出資という形で間接的に店作りに関わっていただくことで、私たちとお客さんが共犯者のような関係になるのも面白くて、クラウドファンディングならではだなと。
リターンのなかでは店で使える食事券が人気でしたね。支援金が還元されるようなお得感があって、お金を出すのに奥さんを説得しやすいみたいな効果もあったのかもしれません。あとは、食事券の出た数で、未来のお客さんの計画が立てられるんです。これが一番嬉しくて。
店で使える食事券を持っているということは、将来のお客さんになるということですね。
新しく店を作るときに「来てくれるかもしれないお客さん」が一定数いるというのは、安心感がありました。
過去最高に「漁師」という言葉がつぶやかれた
最近の活動でいうと、フィッシャーマンコールの反響はどうでしたか?
想像以上でした。SNSで拡散されたり、メディアやテレビでもたくさん紹介していただいたり。過去最高に「漁師」という言葉がTwitterでつぶやかれたんじゃないかな。
僕もニュースで目にして「漁師のモーニングコール⁉︎」と驚きました。どこから思いついたアイデアなんでしょう。
はじめは、石巻市による水産業担い手事業のプロモーションが目的だったんです。僕たちの活動における一番の課題は、「漁師の存在を知られていない」ということでした。漁師が働くのは海の上なので、なかなか普段の生活の中で、漁師の姿を見ることが少ない。その一般の人と漁師の間にある距離を埋めようという発想だったんです。なかでも、とくに漁師の担い手の中心となる若い男の子との接点を作りたくて。若い人が困っていて、かつ漁師が得意なこと……そうだ、「早起き」だ!と。
そこで利害が一致したのは面白いですね。声を聞くこともそうですが、サイトで漁師さんそれぞれの1日のスケジュールを公開しているのも、身近に感じるきっかけになると思います。
サービスを始めてみると、申し込みは意外と若い女性からが多かったです。あとは、記念日の朝にとか、三陸出身の方から申し込みもあって。
その一方で、電話する側の漁師の皆さんの反応はどうでしたか?
はじめは「ふざけるな、意味がわからん」と。海の上で漁をしている最中にモーニングコールしてくれ、というお願いなので、驚かれるのも当然なのですが…。でも、担い手事業に賛同してくれている地元漁師の阿部誠二さんが説得してくれました。阿部さんがやるならと、他の漁師も納得してくれたんです。
新しいことを始める際に、そうした漁師の方達の反対はあるものなんでしょうか?
そうですね、漁師さんとわれわれ陸の仕事の人間では、初めは文化の違いを感じることもありました。年配の漁師の方に「外から来た若いもんがチャラチャラしたことして」のように言われることもありますが、水産業の未来をよくしたいという想いが根っこにあることはきちんと話して伝えるようにしています。
最後はメンバーの漁師の皆さんが、周りの漁師の人たちを説得してくれるんですよね。すごくありがたいです。フィッシャーマン・ジャパンは石巻市の担い手育成事業でもあるんですが、最近は行政の方も「フィッシャーマンジャパンは石巻の広告塔だから」と言ってくださっていて。だから、今回みたいな変わった企画も通すことができたんです。
地元の若者に、少しずつ届き始めた
活動開始から3年が経って、手応えはいかがですか?
地元の若者から、フィッシャーマンになりたいという声が少しずつ上がり始めたんです。漁業人口が減っている原因のひとつに、地元の若者が漁師になりたがらない、ということがあると思います。ただ、地元の水産高校の先生から、そんなことはないんだよ、という話を聞いて。
どういうことでしょう?
行政による漁師の担い手事業があるんですが、なぜか水産高校に来ないんだよ、と言われたんです。水産高校の生徒のなかには、本気で漁師になりたい、地元で働きたいという生徒もいる。ただ、彼らはどうやったら地元で漁師になれるのかわからなかった。だから、フィッシャーマン・ジャパンがもっと彼ら・彼女らを引っ張ってほしいんだ、と。そこで、水産高校の1年生全員がフィッシャーマン・ジャパンで漁業体験をしたり、調理科の生徒が魚谷屋にインターンで来たりと、学校と連携した動きを行なっています。その結果、実際に卒業生からフィッシャーマン・ジャパンに加わるケースも生まれました。
若者の就農支援はよく目にしますが、農業に比べると漁業はまだまだ希望者と雇用先をつなぐ取り組みが少ないかもしれませんね。
フィッシャーマン・ジャパンの活動をクリエイターが「手弁当でもいいから」と手伝ってくれたり、漁業にも実は関心があるという人は多いと思います。そういう人たちが手をあげるきっかけになれたらいいなと。
私たちのやっていることは、わかりやすい数字の結果が出る種類のものではないですし、焦ってやることではないと思っていて。でも、少しずつ成果が生まれているのを感じますね。
いまは三陸を拠点にされていますが、今後、活動を広げていくようなことはあるんですか?
はい、日本全体の海に広げていきたいと思っています。最近では、ほかの土地からの問い合わせも多くて。特に、離島は産業のほとんどを水産業が占めているので、フィッシャーマン・ジャパンで水産業を元気にするノウハウが作れれば、すごい可能性があると思っています。外国では、長者番付の5位以内に入るような漁師もいるんです。漁師も稼げるし、かっこいい仕事なんだよということを、もっともっと発信していきたいですね。僕たちの熱をどんどん飛び火させて、「日本のフィッシャーマンはすごいね」と言われる未来を作りたいです。
プロフィール
長谷川琢也(はせがわ・たくや)
安達日向子(あだち・ひなこ)
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