コラム

誰が、ミドリガメを悪者にしたのか。iZoo園長が語る外来種問題の真実

日本人は、カメが好きだ。

昔話にもたくさん登場するし、長寿のシンボルでもある。ペットとしても飼いやすいので、学校や自宅で育てたことがある人も多いだろう。

ペットのカメとして代表的なのがミドリガメだ。ペットショップはもちろん、縁日の露店などでも購入でき、子どもでも育てやすい。手のひらサイズの可愛らしさも、人気の理由だといえるだろう。

しかし、ミドリガメを取り巻く環境は大きく様変わりしてきている。ミドリガメの正式名称は、ミシシッピアカミミガメ。お気づきの通り、外来種だ。ペットとして育てていた飼い主の遺棄による生態系や農作物へのダメージが今、問題となっている。

「ミドリガメって輸入も販売も規制されていないんだよ。法律が整備されない限り、どんなに川や池で捕獲しても、焼け石に水状態。だからといって、いろいろな事情で飼育を辞めざるを得ない人がいる現状を見過ごすわけにはいかない」

そう話すのは、静岡県河津町にある爬虫類・両生類専門の体感型動物園『iZoo(イズー)』の園長である白輪剛史(しらわ つよし)さん。白輪さんはペットとして飼いきれなくなった爬虫類・両生類を引き取り続けてきた。

なかでもカメの引き取りはiZoo園内で800匹以上、園外の施設を含めると1000匹以上に。このままでは受け入れの限界を超え、引き取りの継続が困難になりかねない状況に陥っていた。

そこで今回、より多くの外来種を収容するための巨大池を建設すべく、クラウドファンディングのプロジェクトが立ち上がったのだった。

白輪さんは、なぜ飼いきれなくなった爬虫類・両生類を引き取るのか? 巨大池建設プロジェクトに込めた想いとは? 白輪さんと外来種問題を考えることは、ペットの命との向き合い方を見つめ直すキッカケになるはずだ。

外来種問題を自治体に丸投げするのは、筋違いだ

早速なのですが、白輪さんが飼いきれなくなった爬虫類・両生類を引き取っていることに驚きました。

以前、別のインタビューでも話したけど、ペットに罪があるわけじゃないんだよね。飼い主は飼い主で、引越しや病気などのやむを得ない理由で育てることが難しくなることだってある。それで川や池に遺棄されるくらいなら、ウチで引き取ろう、と。

ミドリガメなんて、一番の被害者だと思うんだよね。数年前までは生体の通信販売も可能だったし、お祭りの露店なんかで気軽に手に入れることもできた。でも、売った側はそれっきり。

それっきりと言うと……?

購入した人が正しく育てていくためのフォローなんてないってこと。命を取引しているはずなのに、まるで消耗品のように扱われてしまっているんだ。遺棄されて繁殖したら、今度は特定外来種のレッテルを貼られるわけだからね。

僕は爬虫類や両生類が大好きだし、iZooの園長になる前から、動物の輸入・管理・販売などを手がける動物商という仕事に就いていた。業界内で実績を残してきた自負もあるし、恩恵もたくさん受けてきたから「ミドリガメのことは知らないよ」と無責任なことは言えないよね。だから、外来種を収容する巨大な池を建設しようと思ったわけ。

クラウドファンディングという手法を取り入れた理由は?

ぶっちゃけ、自分たちで池をつくろうと思ったらつくれるよ。あえてクラウドファンディングを利用しているのは、池建設プロジェクトが世の中にとって外来種問題を考える機会になると思ったから。世の中に「ミドリガメを捨てる」という選択肢はあってはならないんだよ。

だから、池の建設に必要な費用の全額を集めようとは思っていないよ。本当なら1000万円必要だけど、あえて150万円を目標に設定している。そのほうが気軽にプロジェクトと接することができるし、話題にもしやすいでしょ。

よりたくさんの人が関わることで「クラウドファンディングという方法がある」「処分するのではなく、飼うという選択がある」ということを広められれば、ウチがつくる25m四方の池よりも大きい50mの池をつくる人だって現れるかもしれない。そうなったら嬉しいよね。

よく「自治体にどうにかしてもらおう」という意見も出るけど、僕は筋違いだと思う。自分たちが売って、自分たちが飼ったペットなんだから、民間で収容施設をつくってどうにかするのが進むべき方向性でしょ。

使命感をもって取り組んでいるんですね。

そうだね。ネットで「そんなにカメを引き取って経営は大丈夫か?」なんて声もあったんだけど、ハッキリ言っちゃえば”余計なお世話”かな(笑)。

あのカメたちって、めちゃめちゃ稼いでるの。今の池には100円のエサ箱を設置していて、お客さんたちがエサを買って与えてくれているんだよ。どのくらい稼いでいるかというと、1頭のカメが自分の食い扶持だけじゃなくて仲間の分もまかなえるくらい。僕らはカメにエサをあげていないからね。そうでないと、もっと大きい池をつくろうという話も出ないよ。

カメを手放した元・飼い主のなかにはiZooのリピーターになってくれるお客さんもいる。そうなると、カメにとっても、経営にとっても、飼い主にとってもプラスでしかないんだよね。

動物商の経験があれば、動物園の経営は難しくない?

白輪さんの経歴もめちゃめちゃ気になります。《動物商》という仕事があるんですね。

うん、海外から動物を輸入して動物園やペットショップに卸す仕事が動物商。僕はずっと動物商として爬虫類を扱っていて、iZooの前身であるカメ専門の水族館とも取引してたんだ。

iZoo誕生と園長就任の経緯は?

これも奇跡みたいな話なんだけど、ある日、韓国の若者から爬虫類園をつくりたいという相談を受けたんだ。動物園をやるには、動物の仕入先である動物商の存在が欠かせない。だから僕の所に来たんだね。

それで、その韓国の若者がどこで調べたのか「(iZooの前身である)カメ専門水族館へ行きたい」と言ったんだ。彼を連れて行くと、当時の水族館はお客さんが減り続けていて年間2万人を切っている危機的な状況。でも、韓国の若者はえらく気に入って、ここにいるゾウガメが欲しいとまで言い始めた。

ただ、「動物園にいる動物を買う」なんて、動物商の僕でもさすがにありえない。でも、動物園そのものを買い取ってしまえば不可能ではないと思って、一応電話をかけてみたの。もしかしたら、万が一……と思ってね。

庶民の発想ではないですね(笑)。

もちろん結果は、けんもほろろ。まぁ当然だよね(笑)。

それで「残念だったね」と諦めたんだけど、翌朝、カメ専門水族館の担当者から電話がかかってきた。「実は売却の予定があったんだけど、予定そのものが飛んでしまった。この動物園を買ってくれませんか?」と。結論から言うと、韓国の若者は買わなかったんだけど、この瞬間、僕は取引のアドバンテージを得たわけよ(笑)。

それから何度も売却の連絡が来たけど、スルーしていたらどんどん月日は流れていくわけ。最初のやり取りから半年経ったくらいだったかな。また連絡がきたから、いい加減電話に出て値段を聞いてみたの。そしたら、当初の半額くらいになってて。

でも、僕はそれでも買わなかった。先方にとって売却のリミットである決算月の3月までさらにギリギリまで粘って、破格で手に入れちゃった、というわけ。

白輪さんに弱みを見せちゃダメですね(笑)。

まさか自分が動物園を買うと思っていなかったから、我ながら驚いたね。契約後、会社の事務に「何買ったんですか?」と聞かれて「あぁ、動物園全部だよ」と答えたらあきれてたけどね(笑)。


白輪さんがiZooの園長になるきっかけとなったゾウガメ。iZooではゾウガメの繁殖を行なっており、総数は72頭にも及ぶ。来場者は記念撮影も可能

とはいえ、購入した園の経営状況としては危機的だったわけじゃないですか。その後の経営は大変だったんじゃないんですか?

う〜ん……そんなことはなかったよ。

実は、2002年頃から静岡市内で爬虫類のイベントを開催していたんだけど、2日で2万人以上を呼び込むことに成功していたの。だから、動物園を経営してもなんとかいけるだろう、という読みがあったんだ。もちろんいろいろ策は講じたけど、実際に約4ヶ月で2万人を達成できたからね。

側から見ていると、動物園の経営って難しそうじゃない?でも、意外とそんなことはなくて。前からやっていた動物商って、動物を買い付けてから売るまでの間って自分のところで世話をしなきゃならないの。動物商の場合は、世話する動物を売らなきゃお金にならないんだけど、動物園は世話するだけでお金になる。もちろん動物を世話するノウハウなら持ち合わせているから、動物園の仕事は全然大変じゃなかったね。

それに、動物商って自分が手塩にかけて世話した動物でもいつかは売らなきゃいけないじゃない。いくら仕事とはいえ、それなりに寂しくなるのよ。本当は売りたくない。だから、動物を手放さなくてもいい動物園の経営は自分に合っていたのかもしれないね。

爬虫類に、人生を捧ぐ

なんというか、白輪さんって並み大抵の動物好きじゃないですね……!

そりゃそうよ。こちとら、子どもの頃から動物が大好きで、高校時代から独学で動物商をやっていたくらいだから。

ちょっと待ってください。高校時代から動物商ってどういうことですか?

だから、高校時代から自分で爬虫類を業者から仕入れて、育てて、売ってたの。月に30~40万円くらいは稼いでいたかな。高校卒業後はさらに本格的に働き始めたから、僕、他人から給料もらったことがないんだよね(笑)。

なんというか……白輪さんの青春=爬虫類なんですね!

いやいや、青春どころか人生=爬虫類よ。爬虫類に人生を懸けてるんだから、そのあたりの”動物好き”って言っている人とは比べないでほしいよね。

普通の人って、趣味があるでしょ?たとえば、音楽や洋服とか。僕は、全部爬虫類。24時間365日を爬虫類に注いでいる。「動物園まで経営して大変そう」って言われることもあるけど、僕は好きだからこれっぽっちも苦にならないんだよね。

テレビに出ても、こんな感じで話すからTwitterとかで「あいつ、友達いなさそう」とか言われるんだけど、そのとおりなんだよね(笑)。

意外とエゴサーチするんですね(笑)。

好きな爬虫類たちに囲まれて、毎日幸せで仕方ないよ。iZooに入れている爬虫類も、結局自分が見たいもの、欲しいものだからね。自分以上の爬虫類マニアはそうそういないから、「これ見たら何人のお客さんがビックリするかな」っていつもワクワクしてる。実際、アジアではiZooでしか見られない生体もたくさんいるからね。


ガラパゴス諸島に生息する「ガラパゴスリクイグアナ」。2017年8月、動物園・水族館としては世界で初めてiZooで展示が開始された

それで、こんな辺鄙な土地で年間13万人のお客さんが来てくれているんだから、成功していると言っていいでしょ。

白輪さんにとって動物園ってどんな場所なんですか?

本来は見世物小屋的な施設なわけで、エンターテインメントとして珍しい動物を見せる場所でいいと思う。でも、昨今の動物園の多くは自治体が運営元で、税金が原資になっている。だから、やれ学術施設としてとか、やれ教育施設としてとか言われちゃってさ……そこまで動物園に役割を背負わせるなよって思っちゃうよね。

本気で学術施設、教育施設としてやっていくんだったら、サル専門とかゾウ専門とか動物の種類を絞らないと、ちゃんとした「研究」までとても手が回らないよ。それもきちんと雌雄を揃えて、種の保存にも貢献していく。お客さんを呼ぶために人気の動物を揃えて「なんでもいるよ」という雑貨屋みたいな動物園は限界にきているんじゃないかな。

実際、iZooは雌雄をできるだけ揃えて、繁殖まで見せていきたい。ここでしか見れない本物のコンテンツがあれば、みんな来たくなるでしょ。本当は「足元に丸太が落ちてると思ったらニシキヘビだった」ってくらいの演出をしたいんだけど、あんまりやりすぎるとお客さんが引いちゃうから、まぁほどよく展示していきたいと思っているよ。

最後に、これからのiZooについて教えてください。

なんだろうね。とにかく、やれるところまでとことんやろうと思っているよ。自分たちの興味や関心をとことん追求していきたい。そうすれば、お客さんも楽しんでくれると信じてる。僕は「爬虫類愛」なら誰にも負けない。これからも変態として突っ走っていきたいと思います(笑)。

外来種の問題から動物園論まで、幅広いお話をありがとうございました。そして、iZooめちゃめちゃ楽しかったです。すっかり爬虫類の虜になってしまったので、また来ますね。

区切り線

自称「変態」の白輪さん。ユニークなキャラクターと軽妙な語り口の奥底から感じられたのは、動物の命を扱う職業であることの誇りや責任感だったように思う。

“売って終わり”になっているのは、何もミドリガメなどの爬虫類・両生類だけではない。イヌ、ネコだってそうだし、鳥類、魚類もそう……ペットの選択肢が多様化している時代だからこそ「飼えないから捨てる」が及ぼす影響は計り知れない。

”飼う”とは、どういうことなのか。今一度考え直すタイミングにさしかかっているといえるのではないだろうか。

※クラウドファンディングは3/18まで実施中。支援はこちらから! 

緊急SOS!外来生物から日本を守る 外来種収容『巨大池建設プロジェクト』 日本初!体感型動物園【iZoo(イズー)】


※クラウドファンディングにご興味のある方はCAMPFIREにお気軽にご相談ください。プロジェクト掲載希望の方はこちら、資料請求(無料)はこちらから。

田中 嘉人

1983年生まれ。静岡県出身。静岡文化芸術大学大学院修了後、2008年にエン・ジャパンへ入社。求人広告のコピーライターとしてキャリアをスタートする。その後、Webメディア編集チームへ異動。CAREER HACKをはじめとするWebメディアの編集・執筆に関わる。2017年5月1日、ライター/編集者として独立。

同じカテゴリーの記事

more

同じタグの一覧

more