コラム

柔軟剤ナシでもフワフワに! 誰も教えてくれない「洗濯」の話

突然ですが、みなさん「洗濯」してますか?

「当たり前にしている」という声が聞こえてきそうですが、それでは……

その洗濯で使っている洗剤、どうやって選んでますか?

ドラッグストアで一番安いもの? それともCMのイメージで? 成分表をじっくり見て、洋服を長持ちさせる洗剤の選び方を考える人はそれほど多くないのではないか、と感じます。少なくとも、私がそうだったから……。

実は私たちは、とっても身近な“洗濯用洗剤”について、ほとんど知らないのかもしれません。

そんな現状に一石を投じようとしているのが、ナチュラル洗剤と洗濯の方法を広める活動をしているユニット「洗濯ブラザーズ」。こだわり抜いたナチュラル素材の洗剤「LIVRER yokohama(リブレ ヨコハマ)」を製造・販売しています。


「#洗濯ブラザーズ」の3人。写真左から、茂木貴史さん、茂木康之さん、今井良さん


用途や香りの違いでさまざまなバリエーションを展開するナチュラル洗剤「LIVRER yokohama」。このほか、洗濯槽クリーナーやファブリックスプレーなどもある。オンラインショップなどで販売中。洗剤は600ml・2376円〜

一般家庭で多く使用されている石油由来の成分を使用した合成洗剤は、微生物など自然の働きで分解されにくく、成分が長い期間残っているといわれています。一方、石鹸成分を主体にした「LIVRER yokohama」は生分解性で、衣類や環境にやさしいことが特徴。

これまでクリーニング一択だと思っていたシルクも、正しい洗濯の仕方と洗剤選びにより自宅で洗えること、柔軟剤を使わなくても洋服をフワフワに洗い上げる方法……。洗濯ブラザーズの話は、今まで知らなかったことの連続でした。

大手メーカーの製品を否定するわけではなく、彼らが提案するのは、あくまで消費者が正しい知識を持ち、自ら“洗濯”を“選択”すること。その「選択」とは一体、何に繋がるのでしょうか?

町のクリーニング店が、本気で作った洗濯用洗剤

栗本

まずはナチュラル洗剤「LIVRER yokohama」が誕生した経緯から教えてください。

茂木

2007年に次男の康之が横浜でクリーニング店をオープンしたんですが、次第に「劇団四季」や「シルク・ドュ・ソレイユ」から「舞台衣装をクリーニングしてほしい」と依頼がくるようになりました。専門店のクリーニングは、水を使わず、代わりに石油由来の有機溶剤で洗う「ドライクリーニング」が主流です。繊細な生地を傷めにくいメリットがある一方で、ドライクリーニングにはデメリットもあるんです。それは、衣類が乾ききっていないと、皮膚が赤くなったりする“化学やけど”を起こしてしまうこと。舞台衣装のクリーニングは、その日の公演が終わって夜のうちに衣装を受け取りに行き、翌朝に返すようなタイトなスケジュールです。そんななかでのドライクリーニングって、すごくリスキーなんですよ。そこで、水洗いに切り替えてみようと。

栗本

水洗いには、何かデメリットがあるんでしょうか。

茂木

水洗いにおいて、洗濯用洗剤にはしっかり汚れを落とすことと、生地を守ることのふたつの役割があります。でも、このふたつを両立するのって、実はめちゃくちゃ難しい。水で洗うということは、そのぶん生地の色落ちやちぢみのリスクがあるってことなので。だからドライクリーニングを採用している店がほとんどなんですね。水洗いを採用するにあたり、国内外の天然素材を使った洗剤をいろいろ買って試してみたんです。すると柔軟剤がいらないくらいふわふわに仕上がる一方で、舞台衣装のファンデーションやドーランなどの汚れは満足に落ちなくて。

栗本

生地を守ってくれる反面、汚れが落ちづらい難点があった。

茂木

はい、そこで父親に相談を持ちかけました。父親は以前、全国のクリーニング店のコンサルみたいなことをしていて、洗剤もプロデュースしたことがあったんです。洗剤を手がけているラボを紹介してもらって、ナチュラル成分で洗剤を作ってほしいと依頼しました。そして試行錯誤の結果、高い洗浄力を持ちつつ生地も守るベストな配合が完成し、店で使い始めたんです。うちの弟は喜びを分かち合いたい性格なので、クリーニングに来たお客さんにも洗剤のサンプルを配っていたんですね。するとお客さんからの「こんな洗剤は初めて!」という反響がすごかったので、「じゃあ売ってみようか」と。僕は当時、オーガニックコスメなどを輸入販売する会社に勤めていたんです。でも、はたから見ても「この洗剤はすごいんじゃないか」と感じ、思い切って2017年に会社を辞めて手伝うようになりました。

大切な服と環境を守る「洗濯ブラザーズ」の誕生

栗本

それが「洗濯ブラザーズ」のはじまりだったんですね。今井さんはどこから参加されたんですか?

茂木

僕が会社を辞めて手伝うようになってからすぐに、ファッション関係の展示会に洗剤を携えて出展することになりました。そのブースの斜め向かいにいたのが彼です。


展示会での出会いを機に、今井さんも参加

今井

そうそう。当時は別のブランドに関わっていたんですが、「斜め向かいの洗剤を展示してる什器かっこいいな、すげーな」って思いながらパソコンを打ってました(笑)。瓶に洗剤を入れて計り売りしてるところなんて、初めて見たんですよね。そこから縁あって、洗濯ブラザーズの“三男”として加わるようになったんです。


横浜にある「LIVRER YOKOHAMA」では瓶を逆さにして洗剤を量り売りしている

栗本

そうだったんですね。この什器の発想はどこから?

茂木

ナッツの量り売りをしているお店があるんですが、店長に「洗剤の量り売りをしたい」と言われて。そこで、町の工務店に頼んで専用の什器をつくってもらったんです。今でも、横浜の店舗や出張販売では量り売りをしています。

栗本

量り売りはゴミの削減に繋がりますよね。洗剤の素材もナチュラルですし、環境への配慮が感じられます。

茂木

弟も自分もサーフィンをするので、プラスチックごみを拾うのが生活の一環になっていました。そんななかで、自分たちがケミカルなものを生み出そうという発想がそもそもなかったんですよね。環境に対して分解性の高いものを作りたかったので、ヤシ油から作られる石鹸成分をベースに、アミノ酸やグリセリン、香料などを使用しています。

栗本

なるほど。ちなみに合成洗剤は自然に分解されない、という話を小耳に挟んだのですが……。

今井

そうですね、ただ、合成洗剤であっても生分解性の高いものも実際にあります。それを話し出すと長くなってしまいますが(笑)。「LIVRER yokohama」はヤシ油由来ですし、高濃縮にしているので一回あたりの使用量を少なくできる。使う量が少なければ、自然への負担も小さいですよね。 ……とはいえ、僕らは「環境にいいですよ」ってことだけを押し出していくつもりはまったくなくて。

栗本

というと?

今井

それよりも「服のアンチエイジング」のために使っていただけたらと。「LIVRER yokohama」は生地をしっかり守るので洗濯による劣化を緩やかにすることができますし、シルクやウールなどデリケートな繊維用も用意しています。お気に入りの洋服って、長く大切に着たいじゃないですか。まずはそこから入っていただいて、結果として「成分にもこだわってるんだ」と知ってもらえたら、それでいいなって。

誰も洗濯の仕方を教えてくれない


洗濯ブラザーズでは洗濯の仕方について、パンフレットを用いた啓蒙活動も行なっている

栗本

「LIVRER yokohama」はシルクやウールの洗濯でも使えるんですね。これまでクリーニングに出していた洋服も自宅で洗えるのは、とてもうれしいです。

茂木

ナチュラル素材の服のタグを見ると、クリーニングか手洗いの指定がほとんどですよね。でも「LIVRER yokohama」を使って水洗いのテストをしたところ、0.5mmもちぢまなかった。「シルクって家で洗えるんですか!?」ってよく驚かれますよ。

栗本

「わからないからとりあえずクリーニングに出そう」と思ってました。

茂木

それどころかアパレルの販売員さんも、自分の売っている服の正しい洗い方を意外と知らなかったりする。それは販売員さんが悪いとかでもなくて、洗濯の仕方を教えてくれるところがないんですよ。そこで僕たちは、洗濯の正しいやり方も広めたいと思って活動しています。

今井

僕たちはファッション業界の方とも仲良くさせていただいているのですが、そういうクリーニング店って少ないんですよね。洗濯について相談できるという意味でも、ファッション業界の方たちが注目してくれています。セレクトショップの「ESTNATION」や「BARNEYS NEW YORK」などでの店頭販売に加え、ブランドとのコラボ洗剤も開発しました。


「ESTNATION」と共同開発した、オリジナルフレーバー(ホワイトフローラルムスクの香り)の洗剤

情報を知ることで、“洗濯”を“選択”してほしい

栗本

最近の洗剤の市場を見ていて、大手メーカーの洗濯用洗剤はどのように変わってきていますか?

茂木

洗浄力を極端に上げたいってメーカーが増えてきているように思いますね。ただし、それは洋服を守ることとはイコールではない。うちとしては、柔軟剤をあまりおすすめしていないんです。あれって界面活性剤でコーティングしているから柔らかく感じるだけなんですよ。だから生地へのダメージなんかを考えると、使わないにこしたことはないなと。でも、乾燥肌や静電気が苦手な方にとって、コーティングはプラスの効果になります。だから、結局は使う人次第ですよね。

茂木

色々なエビデンスをとって、使用用途を考えて洗剤を開発しているメーカーがほとんどだと思いますよ。なので、用途やライフスタイルに合わせて洗濯表示の見方とか、洗濯の仕方を皆さんで考えるのが良いと思います

今井

使い方の話でいうと、例えば最近、洗濯用洗剤と柔軟剤が入ったカプセルタイプの液体洗剤が売ってますよね。あれって実は、水の温度を上げないと溶けにくくて洗濯槽に洗剤カスが残ることだって、教えてくれないじゃないですか。

栗本

そうなんですか! ぼんやり「便利そうだな〜」と思っていました。

今井

そもそもカプセルタイプの液体洗剤って、海外で生まれたものなんですよね。海外の硬水は金属イオンの含有量が多いため、生地への浸透が悪く、水自体の洗浄力が弱い。だから洗濯機で水温を上げ叩き洗いすることで、洗浄力をアップさせています。その“水温を上げて使う洗濯機”の仕様に合わせて便利にしたものが、カプセルタイプの液体洗剤。だから日本の軟水の環境で使用する際は、水温を上げたり、洗濯槽の掃除をこまめにするのがいいと思います。便利なので、忙しい方にとっては素晴らしい商品ですから。製品自体がダメってことではなくて、使い方を知った上で使ったほうがいいという話の例えです。

栗本

15秒のCMのイメージだけで買って、使い方を知らずにいる人も多そうです。

茂木

まずは洗濯に興味を持ってもらいたいですね。そうすれば、自分のこだわりや洗い方にも興味が出てくると思うので。

今井

必要な情報はしっかり伝えた方がいいと思うんですよね。それを知った上で、選ぶのは消費者だから。そもそも情報を得ることができず、盲目的に選ぶしかないことには疑問を感じます。

茂木

だから僕らは、大手と店の洗剤の棚を奪い合うのではなく、オンラインショップで洗濯に関する情報発信をしたり、出張販売で消費者の方と直接向き合って伝えたりして勝負しようと思っています。まだまだナチュラル洗剤の存在が知られていないので、まずは知ってほしい。知った上で「LIVRER yokohama」を選ぶのも選ばないのも自由ですから。

おわりに

この取材の少し前に、「洗剤の選び方が変わった」と話す女性に出会いました。丘の上にある彼女の家は下水道が整備されていないため、自宅の浄化槽から生活排水が海に直接流れることを知って、洗剤を変えたのだといいます。

私もその話を聞くまでは、洗濯で「汚れた水を排出している」という意識が薄く、家事に時間やコストをかけず、どれだけ楽にできるかばかりに気を取られていました。もちろん、時間やコストをかけたくないという考え=悪ではありません。ただ、少なくとも洗濯用洗剤に盲目的だったなと気づいたのでした。

洗濯は日々の暮らしに欠かせない行為で、そうして洗った洋服は肌に直接触れるもの。さらに、洗った水は巡り巡って海へ流れていく。

「洗剤についてきちんと知る」視点は、自分の身の回りについて考えることにも繋がるのではないでしょうか。もしかしたらそのことで、物事の考え方や、社会の見え方も変わってくるかもしれない。

もちろん「自分にとって一番いい選択」は、人によってそれぞれ違うはずです。それでも、これまで当たり前だと思っていたことが本当に当たり前なのか、向き合わなくてはならないときがきているのかもしれません。

さて、あなたのセンタクは?

※7/27 11:00 記事の一部を編集しました。

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栗本千尋

1986年生まれ。青森県八戸市出身(だけど実家は仙台に引っ越しました)。3人兄弟の真ん中、2児の母。旅行会社、編プロ、映像制作会社を経て2011年に独立し、フリーライター/エディターに。2020年に八戸へUターン予定。

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