コラム

結婚式はもっと自由でいい。ウェディンググッズで問う「私の常識」

あなたは「結婚」と聞いてどんなイメージが浮かぶだろうか?

かつては華やかな結婚式の景色が浮かぶ人が多かったかもしれない。しかし、日本でも結婚式をしない「ナシ婚」や、お金をかけない「ジミ婚」を選択する人が増えている。

それどころか、そもそもの「結婚」自体、多様化が進んでいる。例えば、入籍せずに夫婦関係を結ぶ「事実婚」。作家のはあちゅうさんとAV男優のしみけんさんが事実婚を発表したニュースは記憶に新しい。

また、夫婦関係を問い直そうとする動きもある。漫画家の渡辺ペコさんは、夫婦の「公認不倫」を描いた作品『1122』を発表。BAMPでは渡辺さんへインタビューを行い、結婚への問いをテーマにした記事を掲載した。

「結婚とは何の契約だろう?」漫画家・渡辺ペコと考える夫婦の性

「結婚とは何か?」の答えはさまざまである。では、結婚に関わる仕事をする人にとってはどうなのだろうか。

デザイナーの小林ゆいさんは、ウェディンググッズの通販サイト「DIY store PBW」を2015年に立ち上げた。

「大手業者よりも安く、ハンドメイドよりもクオリティの高いものを制作する」をコンセプトに、ニューヨークを拠点に活動している。


DIY store PBW」で扱う商品は、ウェルカムボードやペーパーアイテムなどさまざま

小林さんのショップの利用者は、全員が結婚式を挙げるわけではない。結婚を人生の節目と考え、式を挙げずとも何か形に残したいという人たちもまた、ウェディンググッズを買い求めていく。

「“結婚をするかしないか” “結婚式を挙げるか挙げないか”が、わざわざ語られることのない世の中が一番いいと思います」

そんな風に語る彼女が抱いた日本の結婚式への違和感、そして小林さんの考える結婚のあり方について、話を聞いた。

プロフィール
小林ゆい
Forget Me Knot Design, LLC CEO。2010年に武蔵大学社会学部メディア社会学科を卒業した後に、 大手IT企業に入社。2015年、結婚を機に独立。ウェディング関連の商品を販売するオンラインストア「DIYstorePBW」を立ち上げ、現在は活動拠点をニューヨークに移し活躍中。
Twitter:ゆいみーちゃん@NYで起業したよ

“人付き合い”のためにある結婚式への違和感

小林さんはかつて、結婚式が嫌いだったと聞きました。

厳密に言えば、大人になってから嫌いになったんです。

新卒時代、会社の先輩の結婚式に誘われて断ったことがあったんですね。そこまで仲が良い人でもなかったし、社会人になりたてで、ご祝儀の3万円を出せる余裕もなかったので。そうしたら、同僚から「空気が読めない」とか「常識がない」と非難されてしまって……。その時から「結婚式=面倒くさい」というイメージを抱くようになりました。

それまでは、結婚式に良いイメージを抱いていたんですか?

良いイメージどころか、結婚式には人一倍憧れを抱いていたんです。幼稚園の時に将来の夢を聞かれれば「花嫁さん」と答えていたくらい(笑)。

小さい頃、結婚式は「新郎新婦のことを大好きな人たちが集まって、お祝いする場所」だと思っていました。でも、大人になってから知った結婚式は「人付き合いのための場所」。思い描いていた結婚式のイメージが崩れていったんです。

「人付き合いのために、お金を払ってでも参加しないといけない」って、なんだか会社の飲み会みたいですね。

そうそう。「参加しない奴はノリが悪い」みたいな空気が、日本にはどこかありますよね。

そもそも、付き合いのためだけに3万円も出すのはもったいないですよね。そういう経験が何度かあったので、結婚式自体が嫌いになってしまったんです。だから、自分が結婚をするときも式を挙げないつもりでした。

「お金をかける=良い結婚式」ではない

でも、小林さん自身は結婚式を挙げたんですよね。どんな心境の変化があったのでしょう?

最初は式を挙げるつもりはなかったんです。結婚してすぐに、夫の仕事の都合で沖縄に移住したんですね。東京で忙しく働いていた生活から一転して、沖縄で専業主婦になったら毎日が暇になってしまって。

結婚式への興味がなくなったわけではなかったので、暇つぶしにGoogleで「結婚式」って検索してみたんですよね。そうしたら「結婚式 費用」とか「結婚式 ご祝儀」というサジェスト結果が出てきて、結婚式の裏にある人びとの苦悩が垣間見えて。

「やっぱり結婚式は無邪気に楽しめるものじゃないのかな?」と考えつつも、ふと「海外の結婚式はどんなものなんだろう」と思って「Wedding」と検索してみたんですね。そうしたら、すごく可愛い結婚式の画像がたくさん出てきたんです!

画面に並ぶ画像を見ていたら、「こんな式がやりたい」「やっぱり可愛い花嫁さんになってみたい」という気持ちが湧き上がってきて。それで、自分たちのために最高な結婚式を挙げようと決めました。

子どもの頃の夢が蘇ったんですね。

はい。それで、さっそく見積もりを出してもらったら、300万円もかかると言われてしまって……。当時の私は27歳で、夫も29歳。結婚して新たな人生を歩み出したばかりの時に、そんな大金は出せないと思いました。

結婚すると、結婚式以外にもお金を使う機会が多いですよね。婚約指輪の購入や親戚への挨拶回り、結納など……。さらに結婚式費用まで捻出するのは、かなりの負担です。

私たちは、ゲストや親族じゃなくて自分たちのために式を挙げたかった。だから、ウェルカムボードや席次表などを手作りして、かなり費用を抑えました。「結婚式はお金がかかるものだ」とか「こういう形式でやるべきだ」とか、世の中には“常識”みたいなものがあふれています。でも、結婚式はもっと自由であっていいはず。

私が身をもって実感したことを他の人にも伝えたくて、安価で手軽にウェディンググッズを購入できる「DIYstorePBW」を始めたんです。


小林さん自らテーブルコーディネートを担当。装飾に使った貝殻は、式を挙げた沖縄の海で拾ったもの

「結婚」の形は多様であっていい

ショップの運営はおひとりでやられているのですか?

最初はグッズの制作から発送まで全て自分でやっていました。でも、ありがたいことに想像以上に商品が売れているので、今はアシスタントの女性数名に手伝ってもらっています。

スタッフもみんな結婚式の経験者なので、お客様の要望に応えようと尽力してくれています。多くの場合、結婚式は人生で一度きりのイベントです。だから、他にはないウェディンググッズで演出したいと願うお客様が多いんです。

先日も「飼っている猫を式場に連れていけないから、せめてウェルカムボードに猫のシルエットをいれたい」という花嫁の方がいて。喜んで無料で対応しました。


アメリカ版の席次表である「シーティングチャート」(4,900円/税込み)。席ごとに配られる日本のものとは異なり、会場入り口に掲示して使う。ゲストの人数分つくるよりも費用が抑えられるため、「DIYstorePBW」での人気商品のひとつだという

「DIYstorePBW」を利用されるお客さんは、どのようにして小林さんのショップを知るのでしょう?

公式Instagram経由が多いです。結婚式の費用を抑えるため、Instagramを通じて個人作家が作る手頃なウェディンググッズを探している人が多いように感じますね。


ショップの立ち上げ初期に販売していたウェルカムボード。デザインは小林さんオリジナル。デザイナーとしてのスキルに加え、アパレル会社で培ったマーケティングスキルで、移り変わりの激しいトレンドをうまく取り入れているのだそう

小林さんと同じように、「結婚式にお金をかけることが全てではない」と感じる人が増えているのかもしれません。

そうですね。それに最近、「結婚式を挙げない」人の利用も増えているんです。

その方たちは、どのような目的で?

一番多いのが、結婚式は挙げずに写真撮影だけをする「フォトウェディング」のためですね。フォトウェディングで撮影した写真に私が文字やイラストを追加してインテリアに馴染むようなおしゃれなボードを作成しています。

あと、ここ最近で注文が増えているのは「子育て感謝状」。両親に送る感謝状ですね。

結婚式は、育ててくれた両親へ感謝の気持ちを伝える場でもあるじゃないですか。「結婚式を挙げない」という選択をした人でも、結婚という節目に両親への気持ちを伝えたいと思う人は多いんですよね。


日本在住のフラワーアーティスト a.handmade あゆみさんと共同制作している、「子育て感謝状」(18,900円/税込み)。希望のメッセージを入れることができる

今、日本では事実婚という選択肢を取る人もいますし、「結婚の意味」が改めて問い直されているように思います。

ウェディンググッズショップを経営している私が言うのもなんですが、「結婚をする/しない」という形式にとらわれなくていいんじゃないでしょうか。

私の場合、パートナーの「いつかアメリカで働く」という夢のために、結婚することを選びました。アメリカでは結婚していない配偶者のビザ取得が難しく、人生を共にしていくために、結婚する方が都合がよかったんです。

でも、お互いが幸せな人生を送るうえで、結婚という形が最適でない場合もあります。だから事実婚や、結婚をしないという選択をする人が増えているのは当然のことですよね。優先すべきは「大切な人と一緒に生きていくこと」の方で、法律や一般常識ではなくていいと思うんです。

海外に比べると、まだ日本では“結婚をしているかどうか”を気にする人が多いと聞きます。

私にはゲイの従兄弟がいるのですが、アメリカ人のパートナーと結婚して、今はアメリカで暮らしています。

以前、彼と話していた時に「日常会話の中で『あなたはゲイなんだね』と普通に言われるような社会になったらいいね」と言ったら「それは違うよ」と否定されたんです。

「そうじゃなくて、わざわざ『ゲイなんだね』なんて言う必要がないくらい、当たり前なこととして受け入れる社会になるべきなんだよ」と。

たしかに、彼の言う通りだと思いました。同様に、“結婚をするかしないか”、結婚式を挙げるか挙げないか”が、わざわざ語られることなく、多様な選択肢が当たり前に受け入れられる世の中になるといいですよね。

そうですね。その上で、結婚するという選択肢があってもいいですし。

はい。さまざまな価値観の中で、「結婚式をしたい」「式はしなくても、人生の節目の記念になるようなグッズが欲しい」と考えた人のために、「DIYstorePBW」が少しでも役に立てばいいな、と思います。

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いげたあずさ

東京生まれ東京育ちのライター/編集者。アパレル販売を6年やってから、インターネットの世界へ。映画館が癒しの場所。「衣食住」としての服の在り方、テクノロジー、日本文化などに興味があります。

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