コラム

業界初のフリーランス保険!年会費1万円で福利厚生まで実現したワケ

「私、せっかちなんですよ。だからこそ、協会を立ち上げられたのかもしれませんね」

そう笑いながら話すのは、「一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会(以下、フリーランス協会)」の設立者・代表理事であり、自身もフリーランスのPRプランナーとして活躍する平田麻莉さん。

ランサーズ株式会社が行った「フリーランスに関する実態調査 2017」によると、2017年2月の時点で日本国内におけるフリーランス人口は1122万人を超えています。その数は年々増加しており、「働き方改革」を推し進める国や企業もその動向に注目。

一方で、フリーランスを取り巻く環境はまだまだ厳しいのも現状です。社会的な保障の薄さや身分証明の難しさ、孤独感、キャリア&スキルアップ問題――。

フリーランス協会は、フリーランスが抱えるさまざまな課題を解消し、支援する組織として今年1月に設立され、4月には社団法人化。そして、9月(※)から国内初のフリーランスを対象にした保険「ベネフィットプラン」を一般会員向けに提供し始めました。

※テストマーケティングは7月から


「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」設立時の様子

協会の発足から半年で提供が発表された、ベネフィットプラン。画期的な保険の内容を考えると半年という準備期間に驚きますが、そもそも、協会の立ち上げに要した時間もわずか3カ月。

そのスピード感、行動力の裏には、「せっかち」だという平田さんの性格と、長年の経験に裏打ちされた広報戦略がありました。

今回は平田さんだけでなく、平田さんの“ムチャ振り”に見事答えた損保ジャパン日本興亜の担当者、鈴木さんにもお話しを伺いました。

フリーランスの「あるある」リスクを網羅したベネフィットプラン

木村

まずは、フリーランス向けの保険である「ベネフィットプラン」の内容について教えてもらえますか?

平田

はい、ベネフィットプランには主に3つの役割があります。一つ目は賠償責任保険、二つ目はWELBOXという福利厚生サービスで、これらはフリーランス協会への入会と同時に自動で付いてくるものです。三つ目は業務中のケガや、病気の際の休業補償という形での所得補償制度で、こちらは任意となっていますが、通常よりも約半分の保険料で加入することができます。

平田

賠償責任保険の大きな特徴の一つは、補償内容がフリーランス向けになっていることですね。情報漏えいや著作権侵害、納品物の瑕疵という対物・対人の事故を伴わないトラブルまでカバーできます。例えば、外で作業しているときにパソコンが盗難にあった際の情報漏えい、納品したシステムが不具合で数日間停止したため機会損失を生じさせた、データの誤入力で営業損害を発生させた、寄稿した原稿の著作権侵害で訴えられた……といった場合も補償対象となります。

木村

まさにフリーランスに寄り添った内容になっているんですね。

平田

手前味噌ですが、ベネフィットプランの画期的なところって、フリーランスに発注する企業側も補償を受けられる点だと思っていて。フリーランスの行った業務に基づくトラブルで発注主の企業が損害賠償請求された際は、発注側もカバーされるんです。これは保険会社さんにかなり頑張ってもらった部分だと思っています(笑)。


フリーランス協会「入会のご案内」より

平田

仕事を発注する企業側には「フリーランスは一般的な企業と比べて賠償能力が低いんじゃないか?」という不安があります。残念ながらフリーランスとの取引はまだまだリスクが多いと捉えられていて、直接の契約を避ける企業は多くあります。でも、こうした補償で懸念点を解消することで、「フリーランス協会の会員であれば安心して発注できる」という流れができればと思っているんですね。そうして皆が仕事を受けやすくなったらいいな、と。

木村

このほかに、福利厚生もついてくるんですよね?

平田

そうです。イーウェルという会社から福利厚生サービス「WELBOX」を提供いただいています。WELBOXは全国850社以上で導入されていて、一般会員本人と2親等以内の家族が普通の会社員と同等の福利厚生を利用できるんです。その他にも、フリーランスには欠かせない確定申告を楽にする会計サービスが一年間無料で使えたり、全国のコワーキングスペースやバーチャルオフィスが優待利用できたり、チャットサービスの「Chatwork」が無料で有料プランにアップグレードできたりします。これらの内容が年会費1万円でついてくるので……協会の趣旨に賛同いただいた企業の皆様がフリーランスの要望に最大限応えてくださった、信じられないほどお得な内容になっていると思います(笑)。

「誰もが自分らしく働ける社会の実現」のために

木村

こうした保障が必要になったのも、フリーランス人口の増加によるものでしょうか?

平田

そうですね。現状ではフリーランス人口の増加と同時に、職種と雇用形態の多様化がとても進んでいます。今まではフリーランスといえばライターやフォトグラファー、デザイナーやエンジニアなどのクリエイターが代表的な職種でした。しかし、最近では私のような広報や人事、営業といったビジネス系の職種から、ハウスキーパーやベビーシッターなどまで、職種もその方のバックグラウンドもさまざまです。


フリーランス協会 協会概要より

平田

雇用形態についても、今までは独立して法人化するか個人事業主としてやっていくかの二択で、敷居が高かったんですよ。けれども最近ではシェアリングエコノミーやクラウンドソーシングなどの普及によって、会社員の人が副業として、あるいは主婦の人が空き時間に仕事を受けることもできるようになってきました。こうした柔軟な働き方は注目を集め、それを望む人も増えています。ただ同時に、フリーランスやパラレルキャリアを取り巻く課題も複雑化・多様化しているため、せっかくチャンスが拡がっているのに柔軟な働き方に踏み出せない、続けられないといった人も沢山います。

木村

それはどうしてでしょう?

平田

フリーランスやパラレルキャリアに関する制度が整っていないことへの漠然とした不安があるからではないかと。働き方の選択肢として目の前に見えているのに、諦めなければいけないのは非常にもったいないと思っていて。一億総活躍社会とも言われているなかで、フリーランス人口を増やしたいというよりは「誰もが自分らしく働ける社会の実現」を支援していきたいと考えています。「一人一人がキャリアステージやライフイベントに合わせて、自分の納得した働き方を選び取れる」ことが大事だと思うので。

木村

今年1月に協会を発足してから、7月にベネフィットプランの会員募集を開始するまでわずか半年ですよね。そこまで急いだのにはなにか理由があるのですか?

平田

私、せっかちなんですよね(笑)。フリーランス協会を作ろうと思ったのは、2016年の10月に経済産業省が「雇用関係によらない働き方に関する研究会」という、いわゆるフリーランスの働き方研究会を立ち上げたニュースを見かけたのがきっかけで。そのニュースをFacebookでシェアしたら、周りのフリーランスの友人たちからたくさん反応があったんです。「自分も研究したい!」「私たちの声も届けてほしい!」って(笑)。国の研究会が翌年3月末までの活動だということを知り、そのタイミングを逃したくなくて。11月頭にはフリーランス仲間とブレストをして、1月末には23社の企業に賛同していただく形で協会をスタートしました。国が動いている最中にわかりやすく旗を立てることで、より注目してもらえると思ったので、それまでになんとか立ちあげたかったんです。

木村

すごいスピード感!

平田

フリーランス仲間とのブレストランチの後、その勢いで真夜中にわーっとパワポで5枚ほどの設立趣意書を作ったんですよ。夜中に頭が冴えるときってありません? 思い立ったらやるしかないと。みんなが必要と思うなら幹事やるよ、みたいな。ある人には「平田さんってバーベキュー企画するみたいな感じで社会活動やってますよね」って言われました(笑)。

木村

平田さんのせっかちな性格が、その行動力につながっていると?

平田

そうかもしれません(笑)。私自身、フリーランスとしての活動は7年目になります。この働き方をすごく気に入っている一方で、自分のような立場は日本社会の中ではマイノリティであり、不便だと感じる点は多くあります。自分で選んでいる働き方だからこそ、自己責任である部分も、もちろんあると思っていますが。本当は、行政がフリーランスの労災や健康保険、産前産後・介護休暇、キャリアアップ支援などのセーフティネット構築に取り組んでくれたら一番です。だけど、それを訴えていたら何年もかかってしまいます。私はそれを待っていられない性格なので、だったら自分にできる仕組みから作ってみようと思ったんです。

大手企業や国も注力する「働き方改革」

損保ジャパン日本興亜を幹事会社とし、大手保険会社4社による共同保険というとても珍しい形で実現したベネフィットプラン。平田さんが「相当な無理をしてもらったはず」と話すように、この保険は保険会社の全面的な協力がなくては実現しませんでした。

保険の制度から補償範囲まで、なぜこれほど踏み込んだ内容が可能だったのか。損保ジャパン日本興亜の担当者である鈴木さんにもお話を伺いました。

木村

今回、フリーランス向けの保険を提供することになった経緯を教えてください。

鈴木

もともと弊社が掲げるスローガンの一つに「働き方改革」があり、自社としても改革を推し進めていくべきだという流れになっていました。他方で、働き方改革については弊社だけでなく、他の企業や国も力を入れています。経済産業省が「雇⽤関係によらない働き⽅に関する研究会」を立ち上げたのはまさにその象徴といえるでしょう。民間企業として、損保会社としてできることはないか?と考えているときに、ちょうどフリーランス協会が立ち上がったんです。そして弊社に「フリーランス向けの保険や福利厚生の仕組みを作りたい」という要望をいただいたので、ベネフィットプランを提供することになりました。

木村

保険会社4社が横並びで保険を提供するというのはあまり聞いたことがないように思います。業界としても珍しいことでしょうか?

鈴木

そうですね。今回は弊社が幹事会社、ほかに非幹事会社として東京海上日動さん、三井住友海上さん、あいおいニッセイ同和損保さんの3社と共同で提供する形になっています。最初はコンペ形式で補償内容を提案する形だったので、どの会社さんもどこか一社に決まるものだと思っていたのではないでしょうか。しかし、実際にフリーランス協会が出した答えは幹事会社を立てつつも4社共同で、というものでした。特定企業だけと付き合うのではなく、公正中立な存在でありたいという強い思いがあったようです。

木村

保険会社さんとしては拍子抜けしたのでは?

鈴木

正直なところ、こういう流れのときは幹事会社以外の企業は降りてしまうことも珍しくないんです。それでもどこも降りることなく、「その形でやりましょう」となったのは、この取り組みに強い社会的意義を感じていることが背景にあるのではないでしょうか。各社の思いはそれぞれにあると思いますが、フリーランスを応援していく動きに大きく舵を切ったのは間違いないですね。

フリーランス協会は小さな声を大きな声に変える存在

木村

協会が受け皿になることで、個の力が集結するというのはまさに理想な形だと思います。

平田

個人で叫んでも届かなかったり、メディアに注目されなかったり、国にも聞き入れてもらえなかったり、個の力ってとても小さいですよね。だけど、そんな個の力を集めることで大きな力に変換できる。それが、この協会の価値だと思っています。だからもっと認知を広げて会員数を増やしていければ、それだけできることも増えていくと思います。

木村

小さな声を大きな声に変えていく活動において、注力したのはどんな部分ですか?

平田

世間に注目してもらうことって、個人ではなかなか難しい。だから、計算高いと思われるかもしれませんが、私は最初に賛同してくれる法人を集めたんです。私が突然「協会を作りました」と言っても誰も見向きもしませんよね。ですが、「23社と一緒に立ち上げました」と言うと、企業もメディアも取り上げてくれるんです(笑)。つまり、「得体のしれないフリーランスが何かやってるぞ」という印象で終わらないように、まずは法人の賛同を集めて、メディアに出て、「ここに皆さんの声を集めてください」というわかりやすい旗を立てたかったんです。幸いにも私は広報を生業にしてきたので、「どうやって社会全体や政府に注目してもらうのか」ということに対して、戦略的な取り組みができました。

木村

なるほど。

平田

自分自身も含めてフリーランスは独立心旺盛な人が多いですから、別にフリーランスを組織化したり、代表の座に安住したりするつもりは全然ないです。いつかは協会や私の手を離れて、全国的にフリーランスの支援やイベントなどの活動が自然と生まれることが理想だと思っています。それによって、企業もフリーランスをどう活用しようか考え出すような、社会全体の大きな動きになるまでは頑張りたいなと思っていますね。

木村

協会の今後の活動としては、どのようなことを考えていますか?

平田

フリーランスを取り巻く環境は、仕事の不安以外にも、身分証明が難しかったり社会保障が不十分だったりと課題はたくさんあります。フリーランスでも一人で仕事ができるわけではないので、協会は仲間と切磋琢磨できる学びの場であったり、仕事の幅を広げていったりするコミュニティでありたいと思っています。もちろんフリーランス一人ひとりの「多様で小さな声」を集めて発信していくことで、行政の制度改正の参考にしてもらったり、企業と個人が公正な取引ができる環境整備もしていきたい。プラットフォームづくりと会社側の働き方改革との両輪で回していかないと、と思っています。

取り巻く環境の厳しさを感じながらも、今日まで声を上げずに耐えてきたようにも見えたフリーランスの人たち。しかし、実際にはその声の多くが社会の騒音にかき消されていただけでした。

今まで見えていなかった小さな声は、続々と協会の元に集まっています。

フリーランスという存在は、社会的にはまだまだマイノリティで「小さな声」の持ち主です。しかし協会という拡声器の存在により、世の中に大きな声を届けることができるようになったのも事実。
少しずつ世の中に届きだしたこの声が、どこまで大きな動きになるか――。フリーランスならずとも、今後の動向から目が離せません。

きむらいり

1990年生まれの編集者/ライター。北海道函館市出身。実家はちいさなパン屋です。動物が好きで、この世で一番愛らしいのはカバだと思っています。

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