インタビュー

開始20分で目標達成。「温泉街にある吹きガラス工房」のクラウドファンディング活用に迫る

クラウドファンディングと聞くと、先進的なサービスやプロダクトを取り扱うプロジェクトを連想する人が多いのではないだろうか。しかし、歴史ある老舗店や伝統工芸品を取り扱うプロジェクトも増えている。

そんな中、日本伝統の吹きガラスを扱うプロジェクトが多くの注目を集めた。岡山県県北の湯郷温泉街にある吹きガラス工房「Glass Studio TooS」が実施した『【ガラスペンで温泉街の未来を描く!】吹きガラスで作る日本唯一のガラスペン』プロジェクトだ。クラウドファンディング開始1日で目標金額(200万円)の300%を達成、支援総額は900万円を超えた。

本稿では、クラウドファンディングを大成功に収めたGlass Studio TooSの岡本常秀さんにインタビューを実施。本プロジェクト実施の背景と、成功までの道のりを伺う。

ガラス作家 岡本常秀さん

岡山県の吹きガラス工房「Glass Studio TooS」設立。吹きガラスのガラスペンを考案・制作。吹きガラスの技法でガラスペンを制作している唯一の作家。

プロジェクトデータ
  • プロジェクト名
    【ガラスペンで温泉街の未来を描く!】吹きガラスで作る日本唯一のガラスペン
  • 募集期間
    2021年3月18日~4月12日
  • 調達金額
    9,154,500円
  • パトロン数
    529人

「ガラスペンで湯郷温泉を盛り上げたい」

Glass Studio TooSは、お土産用のガラス細工を中心に制作していた工房だ。ガラス細工の制作体験には、湯郷温泉に訪れる観光客が足を運んでいた。ところが、コロナ禍で温泉街の観光客が激減。ガラス細工制作は火を扱うため、熱中症予防等に伴いマスクをしない。感染リスクの観点から、体験の中止を余儀なくされた。

一方、人々の生活様式が変化する中、家庭でも楽しめる商品に昨今注目が集まった。その中で、手書きの味わい深さを楽しめる「ガラスペン」が上手くフィット。Glass Studio TooSでも以前よりガラスペンの制作をしており、コロナ禍でニーズの変化を実感したという。

そして、10年以上湯郷温泉観光協会の理事を務める岡本さんは「吹きガラスの技術が生きた美しいガラスペンを、湯郷温泉街の新しいアイコンとして発信することで観光業を盛り上げていきたい」という思いのもと、ガラス工房をガラスペン中心のステーショナリーショップにリニューアルすると決意した。

クラウドファンディングは宣伝目的

クラウドファンディングの起案には、大きく二つの理由があった。一つは「リニューアルに向けた資金調達」、もう一つは「ガラスペン(及びショップリニューアル)の宣伝」だ。本プロジェクトは特に、後者の目的が大きかったという。

「このご時勢ですし、ガラスペンのショップをただ立ち上げるだけでは、客足は伸びないだろうと思いました。そこで、“田舎の湯郷温泉街に目新しいお店がオープンした”と認識してもらうため、クラウドファンディングの活用を考えたんです。

クラウドファンディングを活用したPRに取り組む知人が周囲にいたこと、コロナにおける融資の相談をしていた中国銀行林野支店の筒塩さんから提案があったことも踏まえ、実施を決断しました」

プロジェクトに込めた思いの伝え方

Glass Studio TooSは、クラウドファンディング初挑戦。そのため、同県内でクラウドファンディングを実施し、成功に収めた、『棚田を再生し、未来へつなぐ鹿革ブランド Tsunag.を立ち上げます!』を参考に準備を進めた。

特に、岡本さんがプロジェクトを進めていく上で苦労し、意識したのは「プロジェクトに込めた思いの伝え方」だ。岡本さんが本プロジェクトに込めた思いとは。

「今までは、お客様に対して『湯郷温泉に遊びに来たついでにGlass Studio TooSに遊びに来てください』というスタンスでした。しかし、コロナ禍で温泉地自体の客足が減っていくのを目の当たりにしたこと、その一方でガラスペンが盛り上がってきたことから、『Glass Studio TooSへ遊びに来た際は湯郷温泉に立ち寄ってもらう』状態にしたいと思いました。この思いをしっかり伝えるためにはどのように書くべきなのか、プロジェクトページの伝え方はかなり苦労しました」

そして、岡本さんは思いを伝えるため、以下の二つにこだわった。

● 包み隠さないこと

「現在、湯郷温泉にはお店がほとんどなく、砂利の更地ばかり。お世辞にも活気ある温泉街とは言えません。この現状を見せることで、湯郷温泉のイメージがマイナスになるかもしれないと不安がありました。しかし、それを理解した上で足を運ぼうとしてくれる人たち、温泉街の可能性を一緒に考えてくれる人たちに支援してもらいたい、それが僕の一つ叶えたいことだと気づきました。良いところも悪いところも全てさらけ出した上で、ガラスペンを求めに湯郷温泉まで足を運んでもらい、そこで湯郷温泉の魅力に気づき、『ここにお店を出したい』『暮らしてみたい』と思ってもらえる人が一人でも増えたらいいなと考えました」

● 多角的な視点を取り入れること

「僕がいくら伝えたいと思っていても、ほかの人に伝わるか判断がつかなかったため、知人のガラス職人からガラス工房には関係のない人たちまで幅広く確認してもらって。言葉一つ取っても人によって受け取り方は異なるから、色んな人から意見を聞くのはとても参考になりましたね。結局、CAMPFIREさんにもかなり手直しを入れていただくことになったのですが(笑)、事前に誰かに確認してもらうことでより良いものに仕上げていけるわけですよね。そこで『良い』と言ってくれる人がいるということは、支援者が一人は獲得できたことと同じだと思うんです。不安がなくなり、心強い状態でクラウドファンディングに臨むことができました」

「人脈」を生かした二つのアプローチ

ほかにも、目標金額達成へ導いた要因には、岡本さんやGlass Studio TooSがこれまで築き上げてきた「人脈」が大きくある。同業者や商品のファンなど繋がりのあった人たちへのアプローチが、目標金額達成という結果をもたらした。具体的なアプローチの仕方は、主に以下の二つだ。

① 継続的なSNSでの発信

クラウドファンディング実施の約1週間前にTwitterでプロジェクトを宣伝。リツイートは200以上、いいねは500以上に上った。

この投稿が注目を集めたポイントは「リターン」にある。以前から交流のあった万年筆インクメーカー「Tono&Lims」に協力を仰ぎ、限定poisonインクをリターンに設定。その旨を上記ツイートにツリーで投稿をした。もともとの知人や顧客からはもちろんインクメーカーのファンにもプロジェクト内容が訴求され、多くの反応を集める結果となった。

そこからクラウドファンディング実施までの期間、TwitterとInstagramを中心に何度か投稿を続け、支援募集当日3時間前にも「本日開始」と宣伝。この継続的なアプローチが、周囲の人たちにクラウドファンディングの意識を根付かせた。

② 欲しい人に行き渡るリターン

前段で記載したインクはもちろんのこと、これほど支援者を集めたのは本プロジェクトのメインリターンとなる「ガラスペン」が魅力的であったことは大きい。すべて工房で手作りされる商品のため、ガラスペンのリターンが多くなるほど、手間と時間がかかる。そのため、最初は「ガラスペン限定5本」のプランいくつかを設定していたが、即OUT OF STOCKに。そこで無制限のリターンを追加で用意した。

おそらく「限定5本」のリターンを手に入れたのは、もともと繋がりがあった人たちだろう。その後、売り切れた商品を見て購買意欲が高まった人たちが「無制限」のリターンへ支援する。「ほしい」と思った人へ行き渡らせるアプローチは、支援金額の伸びに大きく繋がった。

これら取り組みの甲斐あって、開始20分で目標金額の200万円を達成。支援総額は目標金額の450%を超え、900万円以上に。結果についてどのように感じたのか、岡本さんに聞くと「ある程度予想はしていました」と話した。

「スタートダッシュの伸びで注目の度合いや支援の数が変化してくると考えたので、まずは良いスタートダッシュを切れるために仕込みを色々していました。仕込みをする中で自分の周りには強い味方がいることも分かり、クラウドファンディング開始前には少なくとも200%は絶対に支援が集まるだろう!と。それくらいの自信を持てるまで準備し、クラウドファンディングを実行しました」

プロジェクトページはつくり込まれた企画書

初めてのクラウドファンディングを終えた今、岡本さんは「またクラウドファンディングに挑戦してみたい」と語る。

「お金のメリットはもちろんありますが、それ以外のメリットがたくさんあります。宣伝効果をとても感じますし、成功すればより評価を集められます。個人的に一番良かったと感じるのは、自分の思いや考えで一つのページを作れること。プロジェクトページはすごくつくり込まれた企画書のようなものだと思いました。クラウドファンディングが終わってからも多くの人に知ってもらうことができる。取り組みを誰かに説明する際にも活用できます。僕自身、何か迷ったり悩んだりした時には、『自分はこういう思いを持っているんだ』と再確認するほど、プロジェクトページが自分の芯になっていると感じます(笑)。次は資金調達の側面ではなく、取り組むプロジェクトが上手くいくか“判断材料”に活用したいです」

加えて、クラウドファンディングの挑戦を考えている人に向けたアドバイスを、岡本さんは話してくれた。

「プロジェクトページは残り続けるので、最初はとても肝心です。まずは『成功すること』に重点を置き、達成できると思える目標金額を設定した方が良いかもしれません。とはいえ、誠意を持って取り組んだプロジェクトなら、一人でも支援してくれる人がいるだけで、成功だったと思えるはず。迷っている人たちはまずはやってみてほしいです」

最後に、岡本さんから支援者の方に向けたメッセージと活動への意気込みを聞いた。

「支援してくださったみなさんには、感謝してもしきれないくらい感謝しています。お金が集まったこと以上に、みなさんから『頑張ってください』と気持ちを伝えていただいたことが、泣きそうになるほど嬉しかったです。ただ、そのお気持ちに対しまだ何も返せていない状況にあり、僕自身心苦しくあります。お返しできる状態になったら、すぐにでもリターンの制作を進めますので、もう少しお待ちください。

また、このプロジェクトの最大の目的は『湯郷温泉に人を増やすこと』です。これからリニューアルオープンし、軌道に乗せて、コロナ禍が落ち着いた際にはみなさんに足を運んでもらう。この目的を達成して初めて成功と言えるので、リターン品を送ったらプロジェクト終了ではなく、長い目でお付き合いいただければと思います。温泉地への恩返しは僕次第な部分もありますが、僕が怠けていないか確認・指導していただきながら(笑)、長く応援してもらえたら嬉しいです」

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阿部 裕華

取材好きなフリーライター/編集者。WEBメディア中心に編集・企画・進行管理(たまに撮影・デザイン)もやります。アニメ・コンテンツビジネス・映画・音楽(主にBUMP)が大好きです。

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