基礎知識

プロフォトグラファーに聞く、クラウドファンディング支援者に伝わる写真を撮影するテクニック

“写真”は、プロジェクトページを作成する上で重要な要素の一つだ。中でも、ガジェットやファッション、食品など製品関連のプロジェクトでは、写真が支援へ影響することも。しかし、クラウドファンディングを考える人や企業が必ずしもカメラマンを抱えているわけではない。その場合、写真を用意するのは一苦労だろう。

そこで、企業の経営コンサルタントをしながらプロのフォトグラファーとして活躍する新井勇作さんに、「クラウドファンディングで支援が集まる写真テクニック」を伝授してもらった。

「福業」フォトグラファー「ONE PHOTO」

ーー テクニックをお伺いする前に、コンサルとフォトグラファーの2軸で活動していると言う新井さんご自身について教えてください。

現在は、週2~3日ほど特定のお客様に対してコンサルティングをしながら、それ以外の日は「ONE PHOTO」という撮影請け負いチームに所属してフォトグラファーを行っています。

もともと外資系コンサルティング企業で国内外の金融機関を中心に10年ほど仕事をしていました。そして、休日には友人の結婚式でカメラマンをしていて。趣味で良いカメラを持っていたため、頼まれたのがキッカケでした。

最初は友人の結婚式だったため無償で撮影していたのですが、徐々に友人の友人を撮影するようになり、そこからどんどん自分に繋がりのない人たちへ広がっていって(笑)。「これはお金が取れるのでは…?」と思うようになり、副業的な形で休日はカメラマンの仕事を始めました。

平日はコンサル、休日はカメラマンという活動をしていくと、世の中には僕と同じような形で活動したい人もいると気づき、そんな人たちと撮影チームをつくりたいと思ったんです。そこで、会社を辞め、僕と同じような形で活動したいと思っている仲間を集めて、2015年に福業フォトグラファー「ONE PHOTO」を立ち上げました。

ーー 「副業」ではなく「福業」?

お金稼ぎが目的ではなく、自分の好きな生き方を選択することが目的ということ、本業へ何らかプラスのフィードバックがあること、という意味から世間一般的な「副業」の表現はせず、「福業」という形で撮影チームを構成しています。福業フォトグラファーも商標を持っており、国内ではONEPHOTOが唯一利用できる呼称となっています。

現在は20名ほどのフォトグラファーが所属していて、みんな基本的には平日別の仕事をしながら休日や空いている時間に活動しています。メンバーみんな得意な撮影領域があります。各人が好きな領域や得意な領域でチーム構成を行っているため、どんな撮影領域でも誰かしらが対応できる体制をつくっています。

コンサルティングの観点から撮り方を提案


ーー どんな撮影依頼が多いのでしょうか?

個人から企業まで幅広いお客様にご依頼いただいてますが、約7割はtoBの案件ですね。

ONE PHOTO設立当初はtoCを想定して、ご家庭や結婚式のお写真をメインに「サラリーマンがサラリーマンの休日を撮影するサービス」になる予定でした。ところが、世の中的には新しい製品や新規ビジネスのオープンの撮影など、企業のお客様からの撮影需要が多かったんです。想定外ではあったものの、本業を持ちながらフォトグラファーとして活動しているため、「ビジネスもきちんと分かる写真家集団」としてお役に立つことができているかなと。

依頼の中にはクラウドファンディングのプロジェクトページに使用する写真撮影もあります。今のところONE PHOTOでご支援をさせて頂いた案件はすべて資金調達に成功しています。

案件に合わせてコンサルティングをおこなっているんです。クラウドファンディングの場合は、プロダクトのこだわりポイント、利用シーン、デザイン的に使いやすい構図などを、僕がクライアントと詰めていきます。

「スタイリッシュに」「シンプルな感じに」などクライアントの求めるイメージやコンセプトを意識して、モデルのキャスティング、スタジオのセッティングを含めて、最終的に撮り方を提案します。

また、プロジェクトによっては撮影しないパターンや、スマホで撮影するパターンもあります。

ーー それはどのようなプロジェクトの場合でしょう……?

撮影しないパターンだと、良いプロダクトではない、良い写真である必要がないプロジェクトですね。僕たちを利用するとその分費用がかかってしまいます。僕たちもリソースが限られているため、お断りすることもあります。

スマホで撮影するパターンは、良い写真を演出する必要はないけど、どうしても応援したい、応援してもらいたいプロジェクトに向いていると思います。演出の仕方を変えて、撮影手法から提案していきます。

クライアントが損をしないよう、お値段以上だと感じてもらえるよう、ONE PHOTOではアドバイスしているんです。クラウドファンディングの挑戦を考えている人たちが、自分たちの想いを伝えるために何をすればいいのか考えていただく良いキッカケをつくれるかなと。

クラウドファンディングの写真は必ずしも良い写真である必要はない?


ーー ビジネス的な観点、フォトグラファーとしての観点の両方から見て、クラウドファンディングの中で写真は重要な要素だと感じますか?

それは少し難しいところで……基本的には、写真以前に“良いプロダクト”であることが大前提だと思います。クラウドファンディングをなぜやるのかといった想いや、社会貢献的な文脈とプロダクトがマッチしているかなどが勝因としては大きいのではないでしょうか。

あくまでも「良いプロダクトをさらに良く見せる」サポート的な立ち位置に写真はあると感じます。数あるプロジェクトの中で選ばれるように、同じようなプロダクトと差別化を図れるように、といったサポートを目的に写真へこだわるのはアリかと。ただ、こだわるのも一長一短ではあるのですが……。

例えば、まちづくりやチャレンジなど想い重視なプロダクトの場合は、ガチガチにこだわる必要はないと思います。写真が良すぎるとかえっていやらしく見える。無理に良い写真を目指さず、自分たちの持てる力で頑張って撮影した、ちょっと青臭さが伝わるような写真の方が気持ちが動くこともあります。

一方でガジェットや食品、生活雑貨などは写真にこだわることで勝負できる部分はあると思いますね。ビジネスと写真どちらもやってきたからこそ、なんでも良い写真にすればいいわけではないという考えを持っています。

ーー 写真を用意するのに必ずしも、プロのカメラマンに依頼したり良い機材で撮ったりする必要はないんですね。

「どんな写真を用意すればプロジェクトの魅力が伝わるか」をまず考えることが重要です。プロジェクトへの想いさえあれば、誰にでも良い写真が撮れると思います。最近はスマホのカメラでも十分に高性能なので、テクニックを心得ておけば、ちゃんとした写真が撮れます。一眼レフをわざわざ用意する必要もないと思っています。

4つのテクニック

ーー そんなクラウドファンディングで支援が集まる写真撮影のテクニック、ぜひ教えてください。

前提として、ガジェットや食品、生活雑貨など製品のプロジェクトで支援を集めるテクニックのお話しをしますね。大きく4つのポイントがあります。今回は、僕が愛用しているthinkTANKphotoのポーチをモデルに撮影していきます!

1)こだわりポイントをしっかり見せよう

製品には必ずこだわりがあるはずです。それが分かるように撮影しましょう。愛用しているポーチは、なんてことのない普通の小物整理用のポーチではあるのですが、このポーチに僕が作り手のこだわりを感じるポイントは、

・中身が一目で分かるように敢えてビニールを採用
・中身があってもなくても自立する
・現場で煩雑にならないように取っ手が付いている

です。これらのこだわりを文字で説明する際に、写真でもこだわりのポイントが一目で分かるように撮影していくんです。また、撮影するときに小道具を使ってもいいと思います。例えば、取っ手部分を撮影するとき、フックのような小道具を使って、こだわりポイントが一目で分かるようにしましょう。

2)利用イメージが分かるように写真を撮ろう
製品単体の写真だけでなく、使い方が分かる写真や利用時の写真を撮影しておきましょう。使い方の説明をするときに添えたり、利用シーンの想像をかき立てたりできます。使っているイメージを写真で膨らませることで、支援の決め手になる場合もあると思います。

3)どんなカットも寄りと引きの2パターンを用意しよう
プロジェクトページでは、「TOP」と「本文」で写真が必要なため、それぞれの写真を用意しておく必要があります。
「TOP」の場合は、写真に文字を載せられるように余白を確保するため、引きで撮影します。「本文」の場合は、1)で説明したこだわりのポイントなどを寄りで撮影しておく。使い勝手が一目で分かる写真ですね。

また、いろんな構図や角度で撮影しておくと、「TOP」「本文」それぞれに合わせた写真が選びやすいので、決め打ちで撮影するのではなく、複数枚撮影しておきましょう。

4)「背景まで入って写真になる」と心得よう
背景をシンプルな白ホリや黒ホリにして製品を撮影するのは一番簡単でスタイリッシュに仕上がるのですが、背景に生活感を出すと映える写真になる場合もあります。多少背景がごちゃついていても、製品にしっかりピントを合わせて背景をぼかしたり、人が映り込まないようにしたりと、少し気を付けるだけでパワーを持った写真になります。TOPに使う写真は、文字入れを考えて、背景には気を遣いましょう。

引きの写真

寄りの写真

細かいカメラの設定やライティングなどは初心者や撮影慣れしていない人には難しいですが、4つのテクニックを押さえておけば簡単にスマホでも良い写真が撮れるはずです。

製品の良さを伝えるための加工は重要

ーー スマホで撮影する場合、光や色味を調整しないと見栄えが悪くなることもあると思います。その場合、加工は必要ですか?

必要だと思います。スマホで撮影したままの写真では製品の良さが伝わらないと思うのなら、それは加工してあげた方が良いのではないでしょうか。光の関係で色味が微妙なら調整したり、撮る角度を誤って歪んで見えるならトリミングしたり。ただ、やり過ぎは禁物です。写真と実物に相違があると、支援者の期待を裏切ることになります。

ーー あくまでも整える程度の加工に留めておくのが重要なんですね。加工繋がりでもう一点質問です。TOP画像には製品の写真のみではなく、写真に文字を入れた方が良いのでしょうか?

入れた方がいいです。なぜなら、写真一枚がひとり歩きしてしまう場合もあるから。例えば、サイト内の一覧表示やOGP画像として表示したとき、製品の写真だけではどんなプロジェクトか分からないんですよね。多くの人が認知している製品のプロジェクトならまだしも、新しい製品などは写真だけで判断できません。ぱっと見で製品やプロジェクトが理解できるTOP画像でないのは、ビジネス的な観点でNGです。

ーー 文字を入れる場合、製品と文字のバランスが難しいなと。コツは?

一番簡単なのは、三分の一構図ですね。

① 写真を縦横に三分割する
② 4つの交点のどこかに製品を置く
③ 一番空間が広い場所に文字を入れる

例えば、右下の交点に製品を置く場合、文字は空間が広い左上に入れるとスッキリ見えます。横書きの文字は左から読むので、左側に文字、右側に製品を配置した方が読みやすい。縦書きの文字は右側に文字を配置した方が読みやすいかもしれません。

ーー 製品によって最適な構図やパターンが異なる場合もありますか?

あると思います。生活感や利用シーンを演出したい製品は三分の一構図にして、背景に意味を持たせる。

高額な製品や一点ものの製品は日の丸構図にして、製品を印象づける。この場合、文字は上か下に入れます。


ワクワク感を与えるのか、生活を便利にするのか、製品のバックボーンによって構図を変えるべきですね。分からなければ、三分の一で4つの交点すべてに製品を配置して撮る、日の丸でも撮る、というようにいろんなパターンを試してみればいいと思います。デザイナーがいる場合は、好みもあるので、選べるようにしておきましょう。

とはいえ、適切なバランスを汲み取って作成するのは難しいのも分かります。悩んだ時は、ONE PHOTOならビジネスとフォトグラファーの観点からご提案ができると思います。写真で悩んだ時はぜひONE PHOTOに相談してみてください。

新井さんが選ぶ”ベストクラウドファンディング”3選

【都倉賢の挑戦】あの人を超えるワインを醸造したい

純粋にトップページの写真が素敵だと思いました。シンプルなぶどう畑を背景にした生産者兼オーナーとしての都倉さんの顔が見えるのは、とても良いクリエイティブだと思います。写真自体も飾らない雰囲気で、2018年まで過ごした北海道でのワイン造りという「意外性を楽しんでいる」演出にも好感が持てます。都倉さんご本人の知名度もありますが、その意外性と期待感からもこのプロジェクトが上手くいくことを心から願っています。

漬物男子の再挑戦!新しい漬物瓶【Picklestone】

トップページの画像がCAMPFIREに合うように最適化されていると感じました。CAMPFIREのサイトの背景が白ベースなので、鮮やかなパステルカラーを用いたキービジュアルはそれだけで目を引きます。そして、派手さだけで不快感を与えないように、白いテーブルとセットでビジュアルを構成しているところにデザイナのセンスが光っていると思いました。プロジェクトは不慮のアクシデントから再販の形になったそうですが、失敗から立ち上がる際にも、このビジュアルは力強いサポート材料になったのではないでしょうか?

「26代目」豚屋の挑戦!農場直送ブランド「三右衛門」で豚革命を起こしたい!

こちらの「三右衛門」の豚革命のトップ写真が秀逸だと感じました。私達ONE PHOTOがプロフィール写真など、人物を撮影するときに常に意識するのは「Self-Confidence」という、被写体その人が自分自身に自信のある写真づくりです。これは、ダイレクトに「この豚、美味いから食べてほしい!」という自信が写真の中に表現されており、とても食べてみたい気にさせます。前述の都倉さんの例でもありますが、生産者として顔を見せてPRをしていくという流れは、これからの直販型のクラウドファンディングでは必須になると思います。三右衛門さんはその意味では先駆者として、正しいクリエイティブで資金を調達された例になると思います。

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阿部 裕華

取材好きなフリーライター/編集者。WEBメディア中心に編集・企画・進行管理(たまに撮影・デザイン)もやります。アニメ・コンテンツビジネス・映画・音楽(主にBUMP)が大好きです。

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