世界初「流れ星を作った女性」に聞く。未知を恐れず好奇心のまま生きるには?

「世界初の人工流れ星チャレンジを、みんなの力で盛り上げたい!」--。大小さまざまな“夢”が並ぶ『CAMPFIRE』においても、ひときわスケールの大きいこのプロジェクトは、2019年5月の立ち上げからわずか1週間で目標額の300万円を達成した。
プロジェクトオーナーの株式会社ALE(エール)は、人工流れ星による夜空を舞台にした「宇宙エンターテインメント」に取り組む2011年創業のベンチャー企業。代表の岡島礼奈さんが天文学を専攻する20歳の大学生だった2001年に「しし座流星群を見て感動した」ところから、このプロジェクトは始まった。

「流れ星を人工的に作る」という途方のない夢は、20年近い時を経てまもなく現実のものになろうとしている。

ALE代表の岡島礼奈さん

 


流れ星を見てその美しさに心を奪われたり、願いごとをしたりした経験が誰でも一度はあるはずだ。けれども、そうした経験と「だから自分で流れ星を作ろう」と発想することの間には、かなりの乖離があるように思える。万が一発想したとして、それを実際の行動に移し、20年にわたってその思いを持ち続けられる人がどれくらいいるだろうか。

ALEが掲げるバリュー、つまりは組織として大切にしている価値観の一つには、「未知を楽しみ、好奇心のままに生きる」とある。なるほど、岡島さんとALEの歩みは、まさにそんな感じだろう。

子供のころは自分もそのようにして生きていたかもしれない。それが大人になるにつれ、「やりたい」と思ったその衝動と、一歩踏み出すこととの間の隙間が広がっていく。その隙間に次々と生まれる「やらない理由」。失敗したらどうしよう。周りの人は馬鹿げたことだと笑うかな……。

一人ひとりがそうした「やらない理由」に屈することなく、好奇心や衝動のままに生きるというのは、BAMPが目指す「一人ひとりが小さな声を上げられる世界」と近いような気がした。くらはどうすれば「未知を楽しみ、好奇心のままに生きる」ことができるのか。そのヒントを得るべく、岡島さんに話を聞いた。

2020年に実現。「人工流れ星」とはなにか?

ーーすごく基本的なことからで申し訳ないんですが、「人工的に流れ星を作る」ってそもそもどういうことなんでしょうか。スケールが大きすぎていまいちイメージがわかなくて。

宇宙空間に存在するゴマ粒くらいの塵が、地球の大気圏に突入することで燃え、発光する。これが天然の流れ星の原理です。私たちはこうした流れ星の素になる粒(流星源)を人工的に作り、自社で開発した人工衛星に詰めて打ち上げます。その粒を専用の装置を使って大気圏に放出することで、この現象を再現しようとしているんです。


ALEが開発した、流れ星の素となる粒(流星源)。約1cmと、天然のものより大きい


流星源を宇宙空間で放出する装置。放出速度は秒速7キロと、天然の流れ星と比べるとかなり遅い。そのぶん、ゆっくり長く流れ星を楽しむことができるという

ことし1月に人工衛星の1号機を打ち上げることに成功し、この粒の在庫がいま、宇宙に400個あります。この夏には現在開発中の2号機も打ち上げる予定で、2020年の春に広島・瀬戸内の上空で、世界初の人工流れ星のお披露目を予定しています。ここで成功すれば、その後は常に流れ星が提供できるようになります。

ーー簡単に言いますけど、めちゃくちゃお金もかかるし、大変な道のりですよね?

先ほどお話ししたように流れ星の原理自体はシンプルなので、2009年に研究を始めた当初は私自身、「2、3年もすればできるだろう」くらいに考えていたんです。ところが、恐ろしいことに10年もかかってしまった……。

まず、人工衛星から物体を放出して流れ星を発生させること自体が世界で初めてなので、安全性を確保するための手段や基準に前例がない。ここに至るまでにはさまざまな関係機関と議論を重ね、検証を繰り返す必要がありました。

また、研究開発を進めていくと、流星源を光らせるためには、ある程度の速さが必要なことがわかりました。私たちの人工衛星は南極と北極を結んだ軌道上にあり、オーストラリア上空で粒を放出すると、15分後に日本上空に到達します。けれども、水平距離7000キロを15分で移動するということは、放出時の角度が少しズレるだけで、発光する場所にものすごく大きな誤差が生じてしまう。この、速度と精度を技術的にどう両立するのかにとても苦労しました。

ーーどうしてALEさんにはそれが可能なんですか?

超小型人工衛星技術に関して多くの実績を持つ、東北大学宇宙ロボット研究室の桒原(聡文)先生に技術顧問として関わってもらい、共同で開発しています。一方で社内のメンバーには、民間で普通のものづくりに携わってきたエンジニアもいます。

宇宙のものづくりの難しさは、一度宇宙に出たら故障しても直せない点にあります。だから、従来の公的機関が主導する宇宙開発では、何十年も前から使われてきた実績十分の部品が使われることが多いんです。けれども、そうするとコストがかさむし、技術の更新もなかなか進まない。その点、民間のものづくりはコストとスピードにおいて利点があります。

宇宙に出るからにはもちろん絶対に外せない部分はありますが、そこに民間のものづくりのいいところを組み合わせることで、ALEは新しい宇宙のものづくりをしようとしています。私たち民間がそれをやることにより、宇宙開発の速度を上げることにも寄与できると考えています。

流れ星はやがて”次のスマホ”になる

ーー生半可な気持ちでは続けられない壮大さだと思うんですけど、どうしてこの事業を始めることに?

理由は二つあって、一つは2001年にしし座流星群を見て感動したっていうわかりやすい動機です。

本気で流星群を見たいと思ったら、山に登ったり、すごく寒い中で長時間待ったりしないといけないじゃないですか。なおかつ、その結果期待通りに見られるとも限らない。「それがいい」と言う人がいるのもわかるんです。でも、私は「好きな時に、好きな場所で見られたらいいのに」と思ったんですよね。


もう一つの動機は、私が天文学を専攻していたことと関係するんですけど、当時よく言われたのが「宇宙なんて役に立たないもの、なんで学ぶの?」ってことで。でも、私は当時から、宇宙をはじめとする物理学はとても役に立つものだと思っていました。

たとえば、スマートフォンのGPSは相対性理論が元になっているし、量子論がなければ半導体も生まれてないから、こんなに小さくもなってない。「役に立つ」というと多くの人はスマートフォンで動くサービスのようなものをイメージするんですけど、「でもその大元は全部、基礎科学(※)だからねっ!」と私は思うわけです。

※基礎科学……当面の実用を前提としない、真理の探求を目的とした科学のこと。宇宙や物質の究極の姿を探求する天体物理学や素粒子論などがある。

ーー基礎研究があってこその実用である、と。

イノベーションが起こり、便利な世の中になる時というのは、その背景には必ず、科学の進歩や基礎科学の理論の更新がある。それがなかったらあり得ていない社会課題解決がたくさんあるはずなんです。

ところが、世の中では基礎科学は軽視されがちですよね。それは、役立つスパンが何十年、何百年になるからなんですけど。でも、それでもやっていかなければならないのが基礎科学です。そこから、短期的な成果が求められがちな公的資金に頼る以外に、なにかやり方はないのかなあと考えるようになりました。

ーーつまり、ALEの目的は最終的に基礎科学を推進することにある?

そうです。たとえば今回のプロジェクトで言えば、流れ星が発生する大気圏の中間層と呼ばれる領域は、気球や飛行機からは高度が高すぎ、逆に衛星からは低すぎることから、観測が難しく、研究に必要なデータが不足していると言われます。


でも、私たちの人工流れ星がこの高度で発光することを利用すれば、このエリアの風速や温度・密度などの大気データを取得し、深刻化する気候変動や災害予測などの研究に役立てられるかもしれない。私たちはまずそこで、直接的な意味で科学の発展に貢献できるというモチベーションを持っています。

そしてもう一つ、もう少し長いスパンで見た貢献もあると思っていて。

ーーというと?

流れ星を見た子供たちが絶対、宇宙に興味を持ってくれるじゃないですか。いや、宇宙それ自体に興味を持ってくれなくてもいいんです。なんらかの形で子供たちの好奇心を掻き立てることになればいいな、と。そういう好奇心旺盛な人たちが増えてくると、世の中はすごく面白くなるし、その先に科学は発展し、イノベーションは起きる。そう信じているんです。

だから、「流れ星を流す」というのはきっかけにすぎない。流れ星に限らず、そうやって好奇心を掻き立てるような仕掛けを毎年のように作っていける会社になりたいというのが、私たちの想いです。

好奇心を持ち続けられるのは「一人じゃないから」


ーーALEの活動は岡島さんご自身の好奇心が出発点だし、一方では多くの人の好奇心を刺激するためのものでもあったんですね。

でも、実を言うといま掲げている「未知を楽しみ、好奇心のままに生きる」という言葉は、この半年で生まれたものなんです。もともとは「サイエンスとエンターテインメントを両立させる」みたいなスローガンだけがあって。

スタートアップをやっているといろいろなことが起こります。ビジョンがチーム内でしっかり共有できず、気持ちがバラバラになりかけたこともありました。それでビジョンを見直すべくメンバーみんなに集まってもらい、それぞれに「なぜALEにいるのか」みたいな話をしてもらったんです。そうしたら、なんだか好奇心旺盛な人ばっかりが集まってるということがわかった。

好奇心より恐怖心が先立つ人って、リスクを考えて、おそらくずっとなにもできないんだろうと思います。うちの会社にはそうじゃない人が多いな、と思った。それがこういう言葉になったんです。

ーーALEのメンバーには恐怖心がない?

いや、ないわけじゃないと思うんですけど。うちのメンバーは、リスクはちゃんと考えつつも、目的を実現したい思いがやはりあるから、リスクを乗り越える方法を常に考えているんだと思う。

一方で、私自身にはあんまりないかもしれないですね。そもそもリスクが浮かんでこないので。多分脳の欠陥かなにかだと思うんですけど、「面白い!」と思ったら特にリスクを考える暇がないというか……。

みんなと話していて、自分はちょっと違うんだなって思ったんですよね。みんなは「こうなったらいいな」と思うことはあっても、そうはならなかった時のことも同時に考える。でも、私はそうなることしか考えてないみたい。

ーーその結果、大きな失敗をして窮地に陥った経験はないんですか?

まあ、こうしていまも生きてますからね。ふふふ。

あ、でも会社をやっていると「いまピンチだなあ」と思うことはたくさんありますよ。いまだから言えるけれど、「来月給料払えなくない?」みたいなことが何回かあったりとか。払えなかったことはないですけどね。

見る人が見れば致命傷なのかもしれないですが。ハードルが低いんだと思います、生きていくことへの。


岡島さんはALEの前にも一度、学生時代に起業されているんですよね? その経験がいまに活きている、とか?

ああ、それはあるかもしれません。当時って、起業することへの風当たりがいまと比べるとものすごく強かったので。いまは「スタートアップはイケてるぜ」みたいな雰囲気すらあるじゃないですか。だから、挑戦するにはだいぶいい環境だと思うんです。

クラウドファンディングみたいな仕組みだってあるし、それ以外にも転職のハードルだって随分と低くなっている。20年前よりずっとチャレンジしやすいし、衝動のままに生きやすくなってると思うんですよね。

もう一つお聞きしたいのは、好奇心のままに「動く」ことも難しいけれど、それ以上に「持ち続ける」ことが難しいんじゃないかとも思うんです。岡島さんはどうして20年も初期衝動のまま続けてこられたのか。

そこは明確に答えがあって。好奇心を持ち続け、この事業をずっとやってこれているのは、間違いなく「一人じゃないから」だと思います。

先ほども少し触れたように、スタートアップをやっていると本当にいろいろなことが起こるんです。沈みそうになることもある。でも、そういう要所要所で必ずと言っていいほど、応援してくれる人が現れるんですよ。そういう人に支えられてなんとか危機を乗り越えると、そのたびに輪が大きくなるのを感じるんです。

彼ら彼女らのことを思ったら、これはもう絶対に成功させないといけないだろう、と。だから辞めたいと思ったことは一度もないですね。

ーーなるほど。

今回のクラウドファンディングにも実はそういう意味があって。お金を集めること以上に、私たちがやっていることを正しく知ってもらうこと、そして、その上で応援してくれる人を増やすのが目的です。



今回のクラウドファンディングの目的は、お金集め以上にALEのファンコミュニティを作ること。ストレッチゴールの目標を支援者数に置いたのもそのため

ベンチャー企業が「流れ星を流す」なんて前例がない。そうすると、批判したり反発したりする人もどうしたって現れます。「隕石級の岩が降ってくるんじゃないか」とか、「大気圏がデブリで汚れるんじゃないか」とか。その多くは当たらない批判なんですが、そうした声の一つひとつにその都度説明して、理解してもらうのには限界がある。

今後この事業がもっと世間に届くレベルになったら、「なんとなく怖い」「大丈夫?」みたいな声がまた出てくることは確実だと思います。もちろん、理解してもらうための努力はこれからも続けていきますが、そんな時に「いやいや、どうやら大丈夫らしいよ?」と答えてくれる人たちの存在が、社会的理解を得る上ではとても大切になると思っていて。

最近では実際に「これ、デブリになるんじゃない?」みたいなツイートがあった時、「いやいや、これはそうじゃなくてね」と、私たちに代わって答えてくれるような人が現れ始めています。コミュニティづくりやファンづくりはまだまだ頑張らないといけないフェーズではあるんですけど、こうした方々の存在を私たちはとても心強く感じているんです。

人を巻き込むには「発信」と「余白」

たしかに、大きなことを成し遂げる人は自分の手柄を誇示せず、助けてくれる人の存在を口にすることが多い気がします。そうやって多くの人に助けてもらえる人というのは、他の人とどこが違うんでしょうか?

ありがたいことに学生さん向けに講演する機会をいただくことがあるんですけど、そういう時にお伝えしているのは、なにかやりたいことがあるのなら、それをとりあえず「発信」したほうがいいということです。そうするとそれに共感して、賛同する人が集まってきてくれるから。

もちろん、一方では自らそれを実行していかなければならないんですけど、そうやって人を巻き込み、仲間を増やしながらやっていると、一緒に開拓していくみたいな形になって、それまでは見えてなかった道がなんとなく見えてくるんだと思うんですよね。

だからまずは「発信」することが大事。それともう一つ大事なことがあるとすれば、それは「余白」なんじゃないか、と。

ーー余白、ですか。

これから参加しようという人が自分ごと化できる「余白」、自分が参加する場所があると見えていることが大事だと思うんです。

私自身に全部の道が見えていて、その通りに進めば到達できるという感じだったら、誰も助けてくれないんじゃないか、と。道はみんなの力が集まって初めて見えてくる。そのために自分の力を発揮できる場所があると映ることが、たくさんの人を巻き込む力になるんじゃないでしょうか。

その意味では、流れ星って本当に「余白」があるなあと思っていて。

どういうことですか?

フェスの会場で人工流れ星を流すイメージ図

 


このサービスって、将来的にはたとえば、プロポーズや誕生日のお祝いに流れ星を流すとか、あるいはフェスで、このアーティストのこの曲の時には必ず流れ星が流れるとか、活用の仕方はいくらでもあると思うんです。

最近では「平和のためにパレスチナのガザ地区で流してほしい」という依頼もあったんですよ。要は、停戦の日にだけ流れ星を流すことで、「空から降ってくるのは爆弾じゃない。平和のために空を使うことだってできるんだよ」というメッセージを伝える。

これなんかは完全に私の頭にはなかった使い方のアイデアで。人によって本当にいろいろな使い方ができる。だったら、こちらから「こう使うんです」と提示するよりも、流れ星が持つ「余白」そのままに、「こう使いたいんです!」と言ってもらったほうが適切なんじゃないかと。

ーーなるほど、そうすることでまた人を巻き込める、と。お話を伺っていると、スタートは確かに「好奇心」という一人の想いなんだけれど、それを持続し、形にしていくためには、いかに人を巻き込むかが大事になってくるってことなんですね。

そうかもしれないです。その流れで言うと、手前味噌ですけど、弊社のバリューはまさにそのようになっていて。


「開拓」は「共に」と入っているのがポイントです。一人の突出した才能がそれをやるんじゃなくて、みんなでやる。わかります? 「好奇心」は個人の話で、「開拓」はALEという組織の話。「進化」は人類の話になってるんですよ。

ーーああ、本当だ!

よくできてるでしょ? ……なーんて自慢げに話してる私も、そのことに気づいたのは、実は言葉ができた後だったりするんですけどね。


世界初の人工流れ星チャレンジを、みんなの力で盛り上げたい!
内容: 子どもたちに「挑戦する姿」を届けたい、大人たちに「新しい挑戦は今からでも遅くない」と感じて欲しい。そんな想いを込めた、人工の流れ星を夜空に輝かせる世界初のプロジェクトです。想いに共感し、壮大な挑戦を一緒に実現してくれるサポーターを募集しています。
実施期間: 2019年6月12日まで
プロジェクトURL: https://camp-fire.jp/projects/view/151944