しろくま湯たんぽ “リトルコチカ” – クラウドファンディングはクリエイターとファンが共につくり上げるイベント

クリエイターのアイデアを拾い上げ、プロジェクトオーナーとしてクラウドファンディングを実施する『CAMPFIRE Creation』。キュレーターがアイテム制作から販売まで一貫してサポートするサービスだ。本サービスを利用し、最終支援総額は700万円弱・支援人数は1,000人弱に到達したプロジェクトがある。「クラウドファンディングで支持を集めるために工夫したこだわり」について話を伺った。

しろくまのぬいぐるみ湯たんぽ』その名の通り、「しろくま」をモチーフにしたぬいぐるみ型湯たんぽだ。このアイデアを出したのはクリエイティブユニットの「リトルコチカ」。ユニット内でアートディレクターを務めるHayashiさんから、『CAMPFIRE Creation』の実施や「クラウドファンディングで支持を集めるために工夫したこだわり」について話を伺った。
プロジェクトデータ
プロジェクト名: 愛らしい温もりをいつもそばに。しろくまのぬいぐるみ湯たんぽ
実施目的: オリジナルキャラクターのプロダクト制作
実施期間: 2018年7月25日〜8月31日
調達金額: 6,939,100円
URL: https://camp-fire.jp/projects/view/88899

リトルコチカが手掛けるオリジナルキャラクター『しろくま』

「リトルコチカ」は、2016年11月から活動をしている二人組のクリエイティブユニット。代表兼アートディレクターのHayashiさんは、グッズや絵本の企画、撮影、紙雑貨の制作などを担当。イラストレーター、絵本作家のsericoさんは、イラストやデザインなどの制作作業を担当している。


企業からキャラクターデザイン、絵本制作、パッケージデザインなどを請け負うかたわら、自身でもオリジナルキャラクターをモチーフにした絵本やプロダクトを手掛けている。年に数回はイベントに出展し、オリジナルグッズの販売を行っているという。「しろくま」もまた、リトルコチカが生み出したキャラクターなのだ。

誰かの人生の中の大切なものの象徴になってほしい

リトルコチカのオリジナルブランド『しろくまのいる生活』に登場する「しろくま」。イラストレーターのsericoさんが昔からよく描いていた「しろくま」のイラストをHayashiさんが気に入ったことから始まったキャラクターだ。『しろくまのいる生活』と題した絵本を制作。のちに、アパレルや文房具など、さまざまなグッズを展開している。「しろくま」が人生の中の大切なもの、気にかけるものの象徴になってほしい、そんな想いがブランドには込められていた。リトルコチカの二人にとって「しろくま」はとても大切なキャラクターであり、一定のファンもいたという。

「イベントでグッズを販売していく中、ファンの方から『しろくまのぬいぐるみはないんですか?』といった声を聞いていました。自分たちもしろくまのぬいぐるみや何かしらの立体物はほしいと思っていたのですが、なかなか進めることができなかったんです」

最初は諦めていたクラウドファンディングへの挑戦

ファンからの声や自分たちの想いから、「しろくま立体化」に向けて動き始めた。ところが、そこには大きなネックが2つあったそうだ。

1. 製造コスト

「最初はどれくらい買っていただけるか分からなかったため、少数の販売を検討していました。ところが、小ロット(50~100)だと、そもそも対応してくれる業者が少なかった。そんな中、対応してくれる業者を見つけて、見積もりを取ったら、かなり高い金額になってしまって。原価回収できる金額設定をしたら、買ってくれる人はいないだろうと思いました」

2. 在庫管理

「単価を下げるために大ロットで頼むにしても置く場所がありません。作業場所は基本的に自宅なので、万が一管理する場合は倉庫などの場所を借りなければならない。コストもかかりますし、倉庫から発送する煩わしさもありました」

これらのネックを抱える中、二人の間には「クラウドファンディング」の選択肢が頭に浮かんだ。しかし、クラウドファンディング利用へ足を踏み入れることへクリエイターならではの躊躇いがあった。

「クラウドファンディングを利用することで、人気のある・なしが可視化されてしまう。目標を達成できなかったとき、”自分たちが考えているほどしろくまくんの人気がなかったらどうしよう”となることが怖かったんです。現実に直視できる自信がなかったため、クラウドファンディングをするくらいなら自分たちでお金を用意してやろうかと薄っすら考えていました。とはいえ、やはりなかなかハードルが高く、仕事もあるので、ペンディング状態がずっと続いていました」

一つのツイートが転機に。『しろくま湯たんぽ』実現への道

そんな悩みを抱えていたとき、sericoさんが投稿した一枚のイラストが大きな転機となった。

sericoさんの思いつきで、「こんな商品があったらいいな」と描いたイラストが反響を呼び、『CAMPFIRE Creation』の担当者の目に留まったのだ。

「思っていた以上にイラストへの反応があったこと、さらに担当者の方から『うちでやりませんか?』とお声がけいただいたことで、クラウドファンディングにチャレンジしてみようと決心がつきました」

当初、クラウドファンディング実施に二の足を踏んでいた二人だったが、ファンの喜びの声が自信をつけてくれたという。

「最初はやっぱり少しだけ不安はありました。でも、“しろくまぬいぐるみ湯たんぽ”プロジェクトをクラウドファンディングで実施します、とファンのみなさんに伝えると、思っていた以上に反応があって。sericoが気まぐれに描いたイラストを覚えてくれている方たちから“本当にほしかった!”という声が多く上がったんです。期待して待ってくださる方が多くて、安心して踏み出すことができました。」




そして、2018年7月に『しろくまぬいぐるみ湯たんぽ』プロジェクトを公開。目標金額を600,000円に設定していた本プロジェクトは、開始から約90分で目標を達成。最終支援総額はなんと6,939,100円。当初の目標金額の1156%を達成したのだ。

『しろくま湯たんぽ』プロジェクトに込めた5つのこだわり

驚異の目標達成を果たしたのは、リトルコチカの二人がクラウドファンディング実施へ多くの工夫を凝らしたからだ。アイデアの商品化を検討するクリエイターの参考となるこだわりを5つ紹介しよう。

1.クラウドファンディングの立ち位置を考える

Hayashiさん曰く、クラウドファンディングは実現したい夢を叶える手段の一つと考えた方が良いという。この考え方は、クラウドファンディング成功の秘訣にも通ずるそうだ。

「クラウドファンディング成功には熱量や想いが大切だと思っています。熱量を保ちながらを進めていくには、クラウドファンディング用に考えたプロジェクトでは難しいのではないかと。本当にずっと叶えたかった大切な想い、温めていた企画をプロジェクトにしたから、熱量が伝わって多くの人に受け入れられたと思います」

2.既存ファンをターゲットにする

リトルコチカは普段の活動から、新規ファンの獲得より、既存ファンに喜んでもらうことを意識しているという。今回のクラウドファンディングも同様に、リトルコチカや「しろくま」を好きでいてくれていた人たちを考えて進めていった。

「普段から応援してくれている人、好きでいてくれている人に喜んでもらうために進めていきました。いつも喜んでくれる人が、今回も喜んでもらいたいと集中して進めた結果、そこから新規の人たちへ広がることもあって。思っていた通りの広がりがありました。下手に未知なるターゲットを開拓するよりも、すでに好きでいてくれる人たちの顔や反応を思い浮かべて施策を打つ方が進めやすいのではないでしょうか」

リトルコチカはイベントに出展する機会を設けていたこともあり、ファンのリアルな反応にも身近に触れてきていた。改まってマーケティングリサーチをするのではなく、肌で感じてきた情報を形にしたことがファンを喜ばせる結果に結びついたのだろう。

3.ゼロからすべてクリエイトする

リトルコチカがクラウドファンディングを実施した当時、キャラクター系のプロダクトはあまり前例がなかったそう。しかし、この現状があったからこそ、考え抜かれたプロジェクトをつくり上げることができた。


「ただ何かつくるだけではなく、売り方やプロモーションも自分たちでクリエイトしてこそクリエイターだと思います。僕たちのプロジェクトは前例がなかったから、0から全て自分たちで考えました。誰かのプロジェクトを参考にせず、支援者のみなさんのことや自分たちの叶えたいことを考え抜いた。プロジェクトページにどんな想いを込めるか、リターン品はどんなものなら喜んでもらえるか、どうやったら支援者のみなさんが喜んでもらえるかを考えて、0からつくり上げたことが、結果として成功に繋がったのかなと」

4.想いが伝わるリターン設定

「しろくま」は前述したとおり、リトルコチカの二人にとって思いの詰まったキャラクターでもある。そんな想いを伝えるため、『しろくまおむかえ証明書』『描き下ろしブックレット』などをリターンに設定した。


「人生の中の大切なものの象徴という想いを込めていたので、“おむかえ証明書”を付けて、“あなたにとって固有のぬいぐるみなんですよ”と伝えたかったんです。“あなただけのしろくまにしてください”という僕らの想いを込めて、名前や誕生日などが書けるようにしています。」


「“描き下ろしブックレット”はクラウドファンディングプロジェクトと紐づけて、“しろくまぬいぐるみ湯たんぽ”が生まれるまでの経緯や設定資料、開発秘話を一冊にまとめました。僕らの考えとして、クラウドファンディングは支援者が主役だと思っています。我々クリエイターはあくまでもプロジェクトの“プロダクト担当”。支援してくださるみなさんがいなければ、プロダクトの実現はできません。ブックレットに制作過程を載せて、一緒につくり上げてきたという想いを込めたかったんです。届いてからはじめて中身を知ることになるので、目標達成へ直接影響を与えたわけではないですが、感じ取ってくださる部分はあったのかもしれないです」


メインとなるぬいぐるみにもかなりこだわり、高いクオリティに仕上がった。ほかにも、お礼状やアクリルキーホルダーなどもリターンとして設定している。支援してからリターンが届くまで、最低でも2か月は時間を要する。決して短い期間でないからこそ、「待った甲斐があった!」と思ってもらえるようなリターンを意識したそうだ。

5.リターンが届くまでの時間を楽しんでもらう

リターンが届くのを待ってもらう間も、さまざまな工夫を凝らしたという。定期的な活動報告とTwitterへのイラスト投稿だ。

「待っている間も楽しんでもらおうと思って、定期的に情報を発信していました。活動報告にはパトロン様限定のフリーアイコンやスマホ待ち受けを配布、Twitterにはしろくまのイラストやブックレットの没イラストをアップしています」



届くまでのワクワクを作り出したことも一つ要因だったのだろう、発送後には想像以上の熱量に思わず圧倒されたとHayashiさんは語った。

「Twitter上に100件以上の“届いた!”というツイートが……すべてにスマホからリプライしていたら腕がおかしくなりました(笑)。本当にみなさん喜んでくれて、テンションの高い反応が多かったです。しかも、ただ届いたという呟きではなく、かなり構図にこだわった写真を撮影して投稿してくれていたのが嬉しかったです」

そういった支援者からの反応を受けて、2019年の夏にはフォトコンテストを開催。クラウドファンディングが終わったあとも楽しめる仕掛けづくりに徹しているのもクリエイターならではだろう。

自信と実績に繋がった「クラウドファンディングは良いことしかなかった」

最後にクラウドファンディングプロジェクトを振り返ってもらった。Hayashiさんは「僕らにとって、クラウドファンディングは本当に良いことしかなかった」と話した。


「かけがえのない思い出の期間になりました。ファンのみんなとつくり上げるお祭りのようなイベントのような感覚でプロジェクトを進められたのが本当によかったなと。クリエイターはファンの方たちがいなければ活動できない。クラウドファンディングはそれを実感させてくれました。一つのプロダクトをつくり上げて、多くの人たちから良い評価をしていただけた。最初はクラウドファンディングに恐怖がありましたけど、結果的に数字としてしろくまくんの人気を可視化できたことで、自信に繋がって、ビジネス的な実績にも繋がっています。今後、ファンの皆さんと一緒に楽しめるようなプロダクトが思い付いたら、またクラウドファンディングに挑戦したいと思っています」