実施事例

札幌交響楽団に救いの手を!「ともに生きよう」プロジェクトが切り開いたエンターテインメントへの希望

新型コロナウイルス感染症が猛威を振るった2020年。先の見えない不安な状況の中、少しでも明るい未来を切り開こうしている人たちが数多くいた。北海道からエンターテインメントを発信する『クリエイティブオフィスキュー』と『札幌交響楽団』もまた明るい未来を切り開くため、8月にクラウドファンディングを実施している。

本稿では、約2ヵ月間で3,500人以上の支援者から2,000万円の支援を集めた同プロジェクトを代表して『クリエイティブオフィスキュー』の代表取締役・伊藤亜由美氏とプロジェクト責任者・辻拓人氏に話を伺った。プロジェクトの成功の裏側に迫ると共に、プロジェクト立ち上げ経緯からクラウドファンディング実施までの軌跡を辿っていく。

プロジェクトデータ
  • プロジェクト名
    札幌交響楽団応援企画「ともに生きよう」プロジェクト
  • プロジェクト目的
    札幌交響楽団存続のための資金調達
  • 募集期間
    2020年8月5日~9月30日
  • 調達金額
    20,011,046円

「札幌交響楽団応援企画」の軌跡

北海道でアーティストのマネージメント・育成・プロデュースやイベント・舞台制作、ファンクラブ運営、グッズ企画製作、映像製作、多目的ホール「cube garden」運営など、多岐にわたる事業を展開している『クリエイティブオフィスキュー』。クラウドファンディングを実施する前、「ともに生きよう」プロジェクトを発足していた。

● コロナ禍に勇気を届ける「ともに生きよう」プロジェクト発足

全国的にステイホームとなった4月。クリエイティブオフィスキュー所属アーティストたちの仕事は全てストップ。さらに、2年に1度北海道で開催しているイベント『CUE DREAM JAM-BOREE』の開催延期を余儀なくされた。そこで立ち上がったのが「ともに生きよう」プロジェクトだ。

伊藤 「20年近く続けてきたイベントを中止し来年に延期する決断はつらく、毎回楽しみにしてくれているファンのみなさんも残念に思うだろうと。せめて何かできることはないかと考えたとき、勇気を届けられるような歌をつくりたいと思いました。
というのも『CUE DREAM JAM-BOREE』では出演者たちが作詞・作曲した楽曲を歌い、CDをリリースしています。イベントが来年に延期となるのであれば、来年みんなで歌える歌を今つくろう。集える状況になったとき、みんなで歌えるようにという思いから楽曲『ともに生きよう』を制作しました」

ステイホーム期間中、オンラインを駆使しながらクリエイティブオフィスキュー所属アーティスト(CUE ALL STARS)を含め、みんなで一丸となり楽曲制作を進めていった。そして、各々がリモートで収録した『ともに生きよう』を一つの動画に編集しYouTubeへ投稿。

『CUE DREAM JAM-BOREE』の延期発表と動画配信のタイミングを合わせたところ、大きな反響を呼ぶことに。「生きてさえいれば、いつか必ず会える」と強い意思を感じられる楽曲だったことから、オフィスキュー所属アーティストのファンのみならず北海道民からの共感をも得た。

● 札幌の文化の証“札幌交響楽団”存続のためクラウドファンディングに挑戦

時を同じくしてエンターテインメントを発信し続けていたのが『札幌交響楽団(愛称:札響)』だった。札響は北海道唯一のプロオーケストラだ。演奏会が全く開催できない苦しい状況でありながら、団員は自宅から楽器の講座を配信するなど、札幌から全国へ向けてできることを行っていた。

伊藤 「弊社所属の演劇ユニット・TEAM NACSが2005年に上演した舞台『COMPOSER〜響き続ける旋律の調べ〜』は当時札響さんからお話を聞いて演出を完成させました。その頃からお付き合いのあった札響さんが、コロナ禍で我々以上に打撃を受けていることに危機感を抱きました。何かできないかと考えたとき、改めて『ともに生きよう』を聴き、この楽曲でコラボレーションできるのではないか、と考えたんです」

『ともに生きよう』のイントロにはチェロが流れる。作詞・作曲を担当したTEAM NACSリーダーの森崎博之氏のこだわりだった。『COMPOSER〜響き続ける旋律の調べ〜』で脚本と演出を担当したのも森崎氏だ。札響から学んだ音づくりが活かされた楽曲でもあった。伊藤社長は「『ともに生きよう』をきっかけに札響さんをもっと知ってもらえるかもしれない」という思いから、クラウドファンディングを活用して支援を募ることを決めたのだ。

伊藤 「我々のHPやSNSで発信をし、所属アーティストのファンのみなさんから支援を募ることも考えました。ですが、このような取り組みに共感してくれる人は弊社のファンのみなさん以外にもいるだろうと。札響ファンはもちろん、クラシックが好きな方、地方のエンターテインメントを応援してくださる方……みなさんに共感してほしいという思いから、クラウドファンディングを活用させていただこうと。

我々も仕事がなくなっていましたし、非常に厳しい状況でした。でも、これまでも東日本大震災や熊本地震において復興支援の取り組みを実施してきました。周りの人が幸せにならなければ、自分たちも幸せになれないと思っているからです。ここは力を合わせて頑張らなければ!と実施を決断しました」

プロジェクト成功の決め手となった3つの理由

しかし、クリエイティブオフィスキューはクラウドファンディング初挑戦。手探りの状況でありながら『ともに生きよう』の軸だけはぶれないよう慎重に準備を進めていったそう。そんな本プロジェクト、いかにして支援が集まったのだろうか。決め手となった3つの理由をまとめていく。

① シンプルな「本文」と「SNS」

中でも特に意識したのが“ガツガツしないこと”だったとプロジェクト責任者の辻氏は語る。

「ガツガツしないことが良いことなのかは分かりません。ですが、今回は第三者の立場から札響さんを応援したいとクラウドファンディングを実施しています。見せ方によっては弊社所属アーティストからコメントをもらうことも可能でしたが、それはせず。代わりに『ともに生きよう』の動画を掲載して、歌に思いを乗せるという見せ方にしました」

プロジェクトページは、「ともに生きよう」プロジェクトと札響の説明、動画を貼り付けているとてもシンプルな構成になっている。シンプルな構成だからこそ、曲のパワーがより強く感じられる。

さらにSNSでの発信も“ガツガツしていない”のだ。プロジェクトページのURLを貼り付けた投稿内容には“クラウドファンディング”の文字が見当たらない。

「ただ支援がほしいのではなく、僕らの思いを見てくださった方が『応援するために何をすればいいの?』とちゃんと共感して支援する。そういう順序をつくりたかったんです。最初から『クラウドファンディングやります! 支援してください!』だと身構えてしまう可能性もあります。ストレートに思いが伝わりづらい可能性を考慮して、『ともに生きよう』プロジェクトの一環として打ち出しました」

② 間口を広げた「リターン」

本プロジェクトのリターンもまた非常にシンプルなプランとなっている。『ともに生きよう』のCDとTシャツのセットのみだ。イベントの際に記念のTシャツを制作・販売している同社は、このプロジェクトでもTシャツをリターンに置くことを考えていた。

また、CDは札響の演奏による『ともに生きよう』オーケストラアレンジバージョンと、札響の伴奏とYouTubeにアップした動画の歌声を合わせた『ともに生きよう』CUE ALL STARS×札響バージョンの2曲が収録されている。このリターンについて、当初はオーケストラアレンジバージョンのみを想定していたそう。

伊藤 「『ともに生きよう』オーケストラ バージョンの収録現場で札響の皆さんによる生演奏を聴いたとき、これは歌と重なったらさらに感動すると思いました。リモートで録音した音源を合わせることが可能なのかという議論もありましたが、収録現場に立ち会ってくださった音響技術の方が『できます!』と仰ってくださり、実現させることができました」

CUE ALL STARSの歌入り音源はファンからの支援を獲得するための重要なフックとなっているが、そこから札響の魅力をも広げることとなった。「いつか札響さんを見に、札幌に行きたい」とコメントが書かれたほど、札響の奏でる演奏の魅力・素晴らしさが支援者に届いたのだろう。

③ 「ドキュメンタリー番組」と「オンラインイベント」の大きな宣伝効果

クラウドファンディングの実施にあたり、「ともに生きよう」プロジェクトの成り立ちからオーケストラ で『ともに生きよう』を収録するまでに密着した1時間のドキュメンタリー番組を企画。北海道放送(HBC)でのオンエアに続き、TVer等で見逃し配信もされた。そして、ダイジェスト版をYouTubeに公開、プロジェクトページに貼り付けたことで、より本プロジェクトの思いが伝わった。

加えて、本プロジェクトの支援終了3日前であり、当初『CUE DREAM JAM-BOREE』を開催する予定だった9月27日に無観客イベント『CUE ONLINE JAM-BOREE』がライブ配信された。そこでは「来年は必ず集まろう、それまで“ともに生きよう”」という思いと共に、札響の演奏とCUE ALL STARSの歌声を視聴者に届けた。共感の輪が広がり、最終的には2,000万円以上の支援が集まったのだ。

「最初は100%も届くかな?と思っていました。最後の最後で大きな勢いがついて、一気に金額が伸びて驚きました。そういったストーリーを展開できてよかったと感じています」

クラウドファンディング初挑戦で感じた「メリット」と「反省点」

クラウドファンディング初挑戦でありながら、成功に収まった本プロジェクト。クラウドファンディングの実施についてどのような印象を受けたのか改めて振り返ってもらったところ、「メリット」と「反省点」が語られた。

【メリット】ファン以外の層にもリーチできる

CAMPFIREの発信力もメリットだったと語る。

「弊社のHPやSNSでの発信だけだったら今回のような結果は得られなかったかもしれません。クラウドファンディングを活用したことで、ほかのプロジェクトに興味がある人にもリーチする可能性がある。普段、接点の少ない方々へもリーチできるのはクラウドファンディングの良さだと思います」

伊藤 「クラシックが好きな方や芸能事務所とコラボレーションするプロジェクトに感銘を受けた方、地方での取り組みに共感してくださった方など様々な方がいらっしゃいました。また、私たちとCAMPFIREさんでクラウドファンディングを実施する前に、札響さんは独自で北海道のサービスを活用してクラウドファンディングを実施していたのですが、このプロジェクトの熱い思いを感じた方から『もう一度支援します』との声もいただきました。CAMPFIREさんを活用したことで、いろんな人の“きっかけ”づくりにつながったと感じています」

【反省点】リターンの選択肢は少し広げた方がよかった

前述した通り、本プロジェクトはCDとTシャツのセットのみと非常にシンプルなリターンだった。「思いのみを支援にできるリターンの設定をすればよかった」と反省点も。

「募集終了後に支援者のみなさんからのメッセージを拝見したら『もっと支援したかったけど、支援金を増やすとリターンの数ばかり増えてしまう』といったご意見もありました。たしかに、思いを伝えれば思いで返してくれる方はもちろんいます。リターンはなくても支援したいと思ってくださる方もいますし、そういった方にお応えできるようなリターンも検討すべきだったと感じています」

コロナに負けず「ともに生きよう」

最後に、クリエイティブオフィスキューを代表して伊藤氏から支援者の方たちに向けてメッセージをいただいた。


『クリエイティブオフィスキュー』代表取締役・伊藤亜由美氏とプロジェクト責任者・辻拓人氏

伊藤 「札響さんが新型コロナウイルスの影響で公演中止になった損失が約3億円と聞いていたので、目標金額はもっと高く設定することも考えましたが、皆さんと一緒に達成感を共有することがまずは第一歩だと思いました。最終的には目標の400%、2,000万円ものご支援をいただく結果に。ここまでは想像すらしていませんでした。「ともに生きよう」を通じて、北海道の芸術文化を継続させたい、灯火を消してはならないという思いが皆さんに届き、共感してくださったからこその結果だと思っています。

札響さんも我々も、エンターテインメントは鑑賞してくださるお客様がいてこそ継続できる業界です。そんな大切なお客様と『ともに生きよう』のメッセージをキャッチボールし合えたことに、何よりも感動しています。今後、コロナ禍がどのようになっていくか誰にも分かりませんが、生きてさえいれば我々はお客様の前に立てるし、お互いに感動し合うことができます。コロナ禍に負けず、『ともに生きよう』の思いを持って頑張っていきましょう。みなさまへのエールと感謝を最後に贈らせていただきます」

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阿部 裕華

取材好きなフリーライター/編集者。WEBメディア中心に編集・企画・進行管理(たまに撮影・デザイン)もやります。アニメ・コンテンツビジネス・映画・音楽(主にBUMP)が大好きです。

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