【累計支援額4,000万円以上】〜 小さい守りで大胆に攻める 〜純米大吟醸「農学原酒」オーナーが語る連続成功のための算式

過去4度のプロジェクトを自身で行い全て目標金額を達成。直近の単一プロジェクトで支援金額が1,000万円を上回ったのが純米大吟醸「農学原酒」を手掛ける株式会社Agnaviだ。 株式会社Agnaviは代表の玄が東京農業大学在学中に創業。農学原酒をはじめ、日本酒の醸造や日本酒缶の販売サイトなどを運営する。日本酒事業として一合缶や、食や農の経営コンサルタントなど手がけるベンチャー企業だ。 今回、株式会社Agnaviの代表「玄 成秀」さんにクラウドファンディングを行う上で大切にしていることをおうかがいしました。


株式会社Agnavi 創業者&CEO 玄 成秀・博士(農芸化学)

経歴:1992年生まれ(28歳)。私立函館ラ・サール中学・高校 卒。東京農業大学 応生 卒。同大学院 農化(首席) 卒。米国コーネル大学(留学)。東京農業大学 客員研究員。㈱Agripay 創業者&CEO(2020年1月法人譲渡)。日本アミノ酸学会にて2年連続の優秀賞など受賞多数。

主な活動:AG/SUM2019 SDGs-Ideathon(主催:日経主催) 協賛&起案&運営責任者。二十歳からの日本酒2020 登壇(主催:日本酒造組合中央会)。日本酒プロジェクト2020 起案&運営責任者。

初挑戦「農学原酒」プロジェクトから、クラウドファンディングと共に歩んできた4年間。



ーまずはじめに、簡単にこれまでの活動についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

はい。私は2017年の東京農業大学在学中に、現在の株式会社Agnaviの前身となる株式会社アグリペイを立ち上げました。アグリペイは農学生発のベンチャーで「生産者に多様な選択肢を」を目指して運営を開始したんです。私たちが最初に手掛けたのがオリジナルの日本酒「農学原酒」の開発でした。ただ、学生で起業してシンプルにお金がありませんでした。資本金が100万円の会社だったので。そこで手段として選択したのがクラウドファンディングです。

ー初挑戦のクラウドファンディングは創業初のプロダクトで活用されたんですね。

はい。初挑戦のクラウドファンディングで目標金額を大きく上回って150万円を越える支援を頂きました。翌年以降もまた新規プロダクトの際にプロジェクトに挑戦し、こちらも目標金額を達成したところで「日本酒プロジェクト2020」を全国8蔵、7蔵とコロナ禍で日本酒の消費低迷する酒蔵を支援するプロジェクトを立ち上げました。その後、東京農業大学および日立キャピタルグループ(現:三菱HCキャピタル)からお声がけがあり、全56蔵元を支援するプロジェクトとなり、私はその際のプロダクトマネージャーも務めました。

ーすごい…!ご自身で毎年プロジェクトに挑戦しつつ、起案をサポートする側にもまわったんですね…!

私たちが挑戦していたクラウドファンディングをご覧になってくださっていたようで、「うちの日本酒でも挑戦できないかな?」というような形でお声掛け頂けました。そして2021年の直近で挑戦したのが「菌」が肉眼で見える不思議な体質の主人公を題材にした漫画「もやしもん©石川雅之/講談社」と農学原酒のコラボプロジェクトです。

ーこちらのプロジェクトは支援額1,000万円を越える特大プロジェクトになりましたね…!

成功するために大切なこと、失敗しないこと。



ーさらっとお話頂きましたが、実績がすご過ぎます…過去に行ったプロジェクトを全て達成されるにあたって意識していたことなどおうかがいできますか?

成功するための考え方というより、失敗しないためにどうすればいいかの方をしっかり考えていました。

ー失敗しないため、ですか…?

はい。目標金額より支援が伸びることはもちろん嬉しいですし大切なのですが、プロジェクトの内容やリターンの設計、そしてプロジェクトの広め方も含め、まずは「失敗しないこと」を目標に守りを固める。足し算と掛け算で分けて考えて、守りを固めて失敗の可能性をゼロに近づけた上でプロジェクトをどれだけ伸ばせるかを考えました。

成功と支援拡大に必要な足し算と掛け算、そして引き算。



ーまずはしっかり守りを固めてから伸ばすことを考えるんですね。

足し算と掛け算についても詳しくおうかがいしたいです。はい。例えばですが、足し算というのは自分自身でコントロールできる範囲と捉えています。自身や公式のSNSでの投稿や広告の運用で、ある程度のデータは取れると思うんです。広告費に5万円かけたらPV数がこれくらいになって、支援してくださる方がその◯%といったような。ひたすらに数字を積み上げていく作業のイメージです。

ー足し算について具体的な例などお伺いしてもよろしいでしょうか?

直近のもやしもんプロジェクトに関しては、スタートした時点で20件ほどつながりのある方や関連企業さんに直接支援のお願いをご連絡させていただきました。また、広告費については一般論程度の考えですが、プロジェクトにかける広告費については支援金額に対して10%ほどはかけてもいいのではないかと思っています。

ーすごく具体的に教えていただきありがとうございます…!掛け算の考え方についてもお伺いできますか?

予測しづらい部分にもなるのですが、掛け算は余白として考えておく部分だと思っています。これまで関わってくれた友人が自分から私たちのプロジェクトを拡散してくださったりメディアに掲載されたり、日本酒プロジェクト2020のお声掛けを頂いたりと二次拡散やコラボのことと捉えています。これらは自分たちの行動でコントロールできる範囲ではないので最初から想像していたわけではなく、新たな機会として生まれたものやチャレンジした結果出てきたアイディアだったりします。足し算の部分でまず失敗しないためにできることをする、掛け算の部分でプロジェクトを伸ばしていける可能性を作るように考えています。

ーなるほど。自分のコントロールできる範囲はあくまで足し算、二次拡散やコラボなど自分のコントロールできない範囲で起こる未来についてを掛け算として捉えているイメージでしょうか。

はい。あとその考え方で言うと、足し算や掛け算と同じくらい引き算も大切だと思っていて。自分たちが伝えたい想いや相手が明確であれば、プロジェクトってすごくシンプルなものになると思うんです。

ー確かに、直近で挑戦して支援額が1,000万円越えた「もやしもん×農学原酒」プロジェクトも、リターンは「コラボ缶」のみのすごくシンプルなものになっていますね…!

はい。伝えたいこと、伝えたい相手、そして自分たちのプロジェクトの魅力を明確に考えることができていれば、プロジェクトはシンプルなものになっていくのではないかと思います。

成功が実績となり、次なる可能性につながる。



ー算式での考え方、とてもわかりやすかったです…!クラウドファンディングを活用することで支援を頂いたり認知が広まったりというメリットはあったかと思うのですが、他にもなにかクラウドファンディングで生まれたメリットなどはございますか?

はい。まさに掛け算としての結果でしたが、直近で挑戦した漫画「もやしもん©石川雅之/講談社」とのコラボ企画はこれまでのプロジェクト実績がなければ実現しなかったと思っています。そもそも今回、もやしもんとのコラボ企画に関してはこちらからご提案をさせて頂いたんです。私たちはこれまでの単発プロジェクトを通して短期的な酒蔵への支援に繋げられたのではないかと思っていて。しかし、更に中長期的に考えて私たちが手掛けている日本酒缶を通して更に認知を増やしていかなくてはいけないと考えました。

ーなるほど。短期的なプロジェクトのサクセスをゴールとして掲げるのではなく、業界全体を盛り上げるきっかけを作るために、もやしもんへの提案を企画されたんですね。

はい。なのでまず過去に挑戦したプロジェクトのページを実際に見て頂いて、その上で私たちが理念に掲げる「日本酒の素晴らしい魅力をまだ知らない⼈々へ発信する」という想いと共に実績を見て頂きました。でも、これが例えば企画書としてPDFなどでお送りしていたら本当に実現していたかどうかはわかならないなって思って。

ーというと、どういうことでしょうか…?

クラウドファンディングって、プロジェクトページが良くも悪くもずっと残り続けるじゃないですか。このURLで公開されている情報として残り続けていることがとても大切で。企画書などで「ネットで注文殺到!◯百人以上の方に味わって頂きました!」とかって書いても信用してもらえないかもしれない。でもその点、クラウドファンディングの場合はURLにアクセスするだけで全てが公開の情報として残り続けている。いつ、誰が、どんな想いで挑戦してどんな結果になったのか。これらの公開情報を持ってご提案できたからこそ、今回の「もやしもん×農学原酒」のコラボプロジェクトが実現したと思っています。

ーこれまで企画を一貫してクラウドファンディングで行ってきたからこそ、より大きな企画としてプロジェクトを起案できたんですね…!

食関連業界×クラウドファンディングの相性、受注生産で避けられるリスク。

ーこれまで一貫して食関連業界に関わるプロジェクトを起案されてきたと思います。食関連業界×クラウドファンディングという点について何か感じることはありますか?

私く自身が挑戦したからこそわかるのですが、とにかく食関連業界のプロダクトとは本当に相性が良いと思っています。食関連の業界ってほとんどの場合、まず最初に食材を仕入れたり発注をすることで在庫を抱えることからはじまりますよね。それに、賞味期限もある。そして在庫を抱えてしまって賞味期限が切れてしまえばそれはそのまま損失になってしまう。だけど、クラウドファンディングを先行販売の仕組みとして活用することで、リターンが売れた数だけ発注することができるようになります。これまで「仕入れ→販売」が当たり前だったのですが、クラウドファンディングを活用することで「先行販売→発注」という形で在庫を抱えるリスクを大きく減らせるようになりました。

ー確かに、クラウドファンディングは「支援」のイメージで活用されることがまだまだ多いですが、先行販売のプラットフォームとしても大きな役割を果たしますね。

自分たちの想いを言語化するためのクラウドファンディングという手段



ー今回のインタビューを通して、クラウドファンディングを明確な「先行販売の手段」として捉えてらっしゃるように感じました。他にもECサイトなどのような先行販売の手段はあるように感じますが、クラウドファンディングであることは重要なのでしょうか?

はい。プロジェクトの本文で明確に自分たちが大切にしている想いなどを語れることが重要であり、クラウドファンディングを手段として使うメリットだと思っています。私たち自身もやってみて気づかされたのですが、クラウドファンディングはプロジェクトを作る時点で自分たちが伝えたい魅力などを明確に文章にしなければいけません。プロジェクト内容でプレゼンすることになるので、結果的に自分たちが大切にしている想いや魅力を伝わりやすい文面にまとめなければいけないんです。

ーたしかに、自分たちの頭の中が明確に言語化されていないとプロジェクトを作ることができないですね。

はい。なのでなにか新しいプロダクトをやってみたいと思った方には、まずは自分たちの想いをクリアにするためにもクラウドファンディングはぜひ検討してみてほしいと思います。また、プロジェクトに挑戦した時点で、例えば売れるリターンや売れないリターンなど反応を見ることができるのでデータを取ることができるのも大きなメリットとしてあって。プロジェクトをやってみて違和感などがあったらプロジェクトが終了した後にでも軌道修正すればいいので。

”支援”とは別の観点、誰にどんなメリットを提供できるのか。



ー改めまして最後に。これから起案を考えてらっしゃる方に向けてお伝えしたいことなどはございますか?

はい。一番重要なのはこのプロジェクトを行うことで「誰が喜んでくれて、誰のためになるのか?」を大切に考えることだと思います。私たちは創業当初から一貫して「食や農の世界で自分ができること、自分にしかできないこと」を考えてきました。特に、日本酒の事業においては酒蔵の存続のためにできることは何なのか。どうやったら消費者の方に喜んでもらえるのか。そして私たちの活動はどうしたら継続していけるように利益をあげられるのか。

クラウドファンディングというプラットフォームは

①自分たちの思想をちゃんと言葉にして
②誰にとってどんな役に立つものなのかを明確にお伝えできて
③プロジェクトをしっかり見て頂く導線をつくるということができればきっと成功すると思います。

そして、自分たちだけで考えようとせず、過去の成功事例や挑戦した方からのアドバイスをしっかり頂く。チーム内や関わってくださる方と壁打ちを繰り返して、自分たちの想いを画面の向こう側にいる1人の方にしっかり伝えられるようにしていくことからまずプロジェクトがはじまるのではないかと思います。

ー貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。

クラウドファンディングを先行販売のひとつの「手段」として捉える

クラウドファンディングを応援や支援という観点で見るのではなく、一貫して先行販売の「手段」として捉える玄さんの視点はこれから起案を検討される全ての方に参考になるものではないだろうか。プロジェクトを作成するときにまずは足し算、掛け算、引き算として考えること。

■足し算
友人への支援や拡散のお願いDM、広告出稿など、自身で取り組める範囲の内容*広告費をかける目安は支援金額の10%程度

■掛け算
プロジェクト開始後の関わりのある方によるSNS二次拡散やコラボ企画や新規アイディアなど、自分たちだけではコントロールできない範囲の内容

■引き算
プロジェクトで伝えたい部分をよりクリアにして不要だと感じる表現や文章を削ぎ落としていく行為


そしてクラウドファンディングを自身のプロダクトのブレストの場として活用し、想いを乗せて先行販売を行うプラットフォームとして捉えること。なによりこのプロジェクトは誰のために行っていて、誰に喜んでもらえるメリットを提供できるものなのかを考えること。クラウドファンディングを「支援を頂く」いう視点だけでなく、サービスや商品を「販売する」プラットフォームという手段としての認識を高めることが「成功する」プロジェクトに一歩近づくきっかけになるのかもしれない。