Slack活用でプロジェクトをファンと共創 -「D.C.~ダ・カーポ~」プロジェクト後編

クラウドファンディング「CAMPFIRE」で、目標金額の3,000万円を達成した、株式会社CIRCUSが手掛ける『D.C.~ダ・カーポ~』プロジェクト。前編では、プロジェクトの概要とライブ系プロジェクトにおけるクラウドファンディング活用のメリットについて伺った。 後編にあたる今回、CIRCUSがクラウドファンディングで意識した3つのポイントをメインに、同社のクラウドファンディングならではの好事例まで。CIRCUSイベントプロデューサー・くりた さんから話を伺う。
プロジェクトデータ
プロジェクト名: D.C.~ダ・カーポ~ Super Live Ⅱ 開催プロジェクト
プロジェクト目的: 支援者の獲得(=事前のチケット・物販数量確保ツールとして活用)
募集期間: 2019年10月5日~11月30日
調達金額: 42,527,743円(2019年11月20日時点)
プロジェクトURL: https://camp-fire.jp/projects/view/170212

3000万円の目標達成へ導いた3つのポイント

準備期間に本腰を入れる

CIRCUSがクラウドファンディングで特に意識していたのが、募集開始前の期間だ。

D.C.シリーズでは、以前から『組曲』という独自のプロモーションを採用している。D.C.の楽曲をリミックスし、ニコニコ生放送で流す手法だ。毎回数千人、多いときは1万人近くのユーザーが集まるという。そんな『組曲』をクラウドファンディング募集開始の40日前(2019年8月末)に放送し、事前に発表をしたのだ。

▲ニコニコ生放送にて「CFミーティング」を開催

また、募集開始までの期間に、ライブの説明や仮定で考えていたリターンなどをすべてユーザーに発表していった。募集開始前に、一部グッズの見本をユーザーの前に出し、意識を高める取り組みもしたいという。

「ニコ生やツイキャスなどを利用して定期的に配信していたので、そこでしつこいくらい説明をしました。募集開始のタイミングで、すでに『なぜクラウドファンディングを行うのか』『何をクラウドファンディングで行うのか』を理解した状態にしているのがポイントですね」

結果的に募集開始後は、定期的に情報を発信するだけで、少しずつ支援を伸ばしているという。

ファンと一緒にプロジェクトをつくり上げる

また、準備期間中には、ユーザーとコミュニケーションを取った。ファンと一緒にライブを作り上げることを徹底した仕掛けづくりもCIRCUSが意識したポイントだ。

なんと、ユーザーにSlackのURLを公開。クラウドファンディングやライブへの要望・質問を書き込めるスレッドをいくつか作成し、ユーザーとCIRCUSで対話できる仕掛けをつくった。同時にTwitterではハッシュタグをつくり、クラウドファンディングに対する意見を収集・分析。

「何か要望が出た場合、応えられそうなモノには応えました。難しい要望の場合は、理由も添えて返事を送って、質問にはすべて答えるように努めています」


「ユーザーさんに『支援してください!』と僕たちの要望を押し付けるのではなく、『一緒にライブをつくってください!』という姿勢で、40日間コミュニケーションを積み重ねてきました」

“お得感”を演出する

そして、プロジェクトを支援することで、普通にライブへ参加するより特別感が得られる、成功体験が得られるといった、“お得感”を詰め込んだ。中でもリターンの内容がとにかく豪華なのだ。「とにかくギリギリまで検証をして、ユーザーさんたちに喜んでいただけるよう可能な限り要望を取り入れました」とくりたさんも話すほど。

リターンに設定したグッズの種類や内容もユーザーの意見や要望をかなり取り入れている。グッズの質の高さでもお得感を演出している。

最高支援額のリターン

さらに、支援金額が高額になればなるほどリターンの内容が充実。「パンフレットにスポンサーとして名前掲載」「終演後、出演者とステージ上で記念撮影」など、一般的なライブではなかなか味わうことのない体験ができる。
高額支援しても得する、そんな仕掛けづくりもポイントになってくるだろう。

ファンとのコミュニケーションが生んだ3つの好事例

CIRCUS独自のファンとのコミュニケーションがあったことで、プロジェクトへシナジーを生む場面も複数あったのだという。そんな好事例を3つ紹介していく。

エピソード1:製造ミスを発見

本プロジェクトでは、リターンのグッズを活動報告として支援者へ公開している。事前にグッズのデザインに込められた意図なども説明しているため、報告するたびに盛り上がるのだそう。そんな中、サンプルとしてトートバックの校正を公開したところ、ファンからこんな指摘があったという。

「デザインが間違っているという指摘がありました。デザインの隅にライブの公演日を載せていたのですが、その日付が間違っていると。デザイン段階では問題無かった為、我々は全く気付かなかった。どうやら入稿時に何らかのミスが発生したようです。それをファンの方が見つけてくれたんです。

ファンの方と一緒に作り上げていかなければ、ミスには気がつかなかったと思います。何より余裕のある早い段階で気付けた事で、納期に影響が出る事もありませんでしたし、大変有り難かったですね。」

指摘が入ってすぐにツイキャスでミスの報告と謝罪、そしてお礼を配信。そして、失敗したグッズもプレゼント。これがキッカケでひと盛り上がりするなど、ミスが招いた好事例といえるだろう。

エピソード2:グッズ(リターン)内容を精査

グッズやリターンの内容がファンとのコミュニケーションによって変更になった事例もあったという。

「『描き下ろしちびキャラ缶バッジ』をブラインド式(中身が分からない状態)で販売することが決まっていて。48種類のD.C.キャラのほかに、シークレットという形でCIRCUSの一部ファンが知っている隠しキャラを2種類入れていたんです。

そしたら、『それは知らない人にとっては嬉しくないのでは?』という意見が出たんですよ。確かに、せっかくお金を払って買ったのに、知らないキャラが出たら嬉しくないよなと。なので、シークレットの2種類はオマケにすることに。缶バッチを買ってくれた人にはオマケがつく形にしたら納得いただけました」

▲描き下ろしちびキャラ缶バッジ サンプルイラスト

「また、リターンに『遠方者向コース』を取り入れたのもファンの方からの要望があったからです。ライブに行くのは難しい地方に住んでいる方や、仕事が忙しい方でも、グッズは欲しいという方もいらっしゃいます。そんな方たちのために、当初は一つだけ遠方者向のコースを設定していたのですが…『もっと選べるようにしてほしい』という要望を頂いて、5種類のコースを設定。満足いただける形にすることができました」

缶バッチは当初ガチャガチャ式で販売を考えていた。しかし、ファンから『ガチャガチャだとお金を入れて回して開けるとなると時間がかかる』という意見が出たため、ブラインド式に変更となった。まさにファンと一緒にイベントをつくり上げていると思わされる事例だ。

エピソード3:コミュニティ機能を果たす

Slackのスレッド上では、ファン同士のコミュニケーションが行われることもあったという。担当者が表に出ずとも、ファン同士の間で問題が解決する場面もあったそうで――。

「一人のユーザーさんから上がってきた質問に、別のユーザーさんが回答してくれることが沢山ありました」


チャットツールで双方向にコミュニケーションが取れる場所をつくったことにより、自浄作用が働いた好事例だ。また、ファンにとってD.C.が“大切な作品”であることは共通認識としてあるはずだ。そのため、一丸となって支援していこうとする姿勢にも繋がってくるのではないだろうか。

クラウドファンディングがアニメ・ゲーム業界にもたらす好影響

アニメやゲーム作品などは熱狂的なファンも多いため、CIRCUSのようにファンとの関係を上手く活用することで、クラウドファンディング成功の確率が上がるかもしれない。実際に、最近ではクラウドファンディングを活用したアニメやゲームのプロジェクトも増えてきている。

CIRCUSも、今回はライブ開催におけるクラウドファンディングの活用であったものの、もとはゲームが本業だ。そんな同社に「アニメ・ゲーム業界がクラウドファンディングを活用することで、どのような好影響があるか」について最後に聞いてみた。

「二つあります。一つは予算が事前に確定できるのが大きいと思います。事前にどれほど売れるかの把握ができないため、制作に踏み込めないことも多くあります。その一歩踏み込める土台が、クラウドファンディングを活用することでつくれるのではないでしょうか。

二つ目に、海賊版などの違法ダウンロードの抑制にも繋がること。違法ダウンロードする人は、お金を出していない。その分の売上が減ってしまいます。しかし、事前に支援してくれる人たちは違法ダウンロードの心配がありません。もちろん完全に違法ダウンロードを消すことは難しいですが、クラウドファンディングで事前に制作費分の購入者が担保されているのは大きなメリットだと思います」

「プロジェクトを出す側も、支援者側も、みんな得できるのがクラウドファンディングです。僕たちも支援者の皆さんへ、支援いただいた金額以上の満足を得られるリターンを提案出来たと考えています。上手く活用すれば、誰もが得できる、幸せになれる、そんなプラットフォームだと思います」